今回は、主演女優アリエル・ホームズの実体験を映画化した『神様なんてクソくらえ』のジョシュア・サフディ監督にお話を伺いました。アリエル・ホームズをホームレスから女優へと導いた監督は「ホームレスと役者の仕事は似ていると思うんです」と語っていました。そんな監督に、アリエルと初めて会ったときの印象や、何か悪いことにハマってしまったときにどう抜け出すべきかを聞いてみました。
PROFILE
1984年アメリカ、ニューヨーク生まれ。弟のベニー・サフディとタッグを組み、映画製作に携わる。ボストン大学在学中に、映像制作団体Red Bucket Filmを設立し、2008年に『The Pleasure of Being Robbed』で長編監督デビューを果たす。2009年には自身の幼少時代をテーマにした『Daddy Longlegs』で、インディペンデント・スピリット賞のジョン・カザヴェテス賞に輝く。2013年、初のドキュメンタリー映画『Lenny Cooke』を監督し、第70回ヴェベツィア国際映画祭で上映された。『神様なんてクソくらえ』では、監督と脚本を担当し(弟のベニー・サフディは監督と編集を担当)、2014年東京国際映画祭でグランプリ&最優秀監督賞を受賞し、ヴェネツィア国際映画祭でCICAE賞を受賞した。次回作はロバート・パティンソンを主演に迎え“Good Time(原題)”を製作。
シャミ:
本作は主演のアリエル・ホームズの実体験が映画化されていますが、数いるホームレスのなかでどうして彼女だったのでしょうか?
ジョシュア・サフディ監督:
僕としては、僕が彼女を選んだのではなく、彼女が僕を選んでくれたんだと思っています。彼女はある意味とても極端な人で、何でも「これが最後なんだ」という感じで生きているんです。そういう部分に僕は詩的なものを感じ、彼女のストーリーを映画にしたいと思いました。
シャミ:
初めて彼女と会ったときはどんな印象でしたか?
ジョシュア・サフディ監督:
ほかの映画のリサーチのためにニューヨークに行ったのですが、そのときに彼女を見かけ、映画に出て欲しいと思い話しかけました。当時の彼女は、きちんとした身なりで仕事をしていたので、まさかホームレスだとは思いませんでした。でも話していくうちに彼女がホームレスだということを知り、さらに彼女の人生について聞いていたら「これは映画にしなくちゃ」と思ったんです。
シャミ:
最初はほかの映画に使うために声をかけたということですが、出会ったときから彼女に女優の素質を感じていたということですか?
ジョシュア・サフディ監督:
本能的にこの子はすごいと思いましたし、彼女にスターとしての素質があると感じました。演技、歌はもちろん、絵を描くことも、文章を書くこともできて、その上ドラッグも使えるんです(笑)。これぞスターだと思いました。
シャミ:
なるほど〜。彼女はこの映画を機に女優デビューをし、ホームレスから女優という大きな転身を遂げましたが、その変化を間近で見ていていかがでしたか?
ジョシュア・サフディ監督:
実は僕のなかでは、「間違ったことをしてしまったかな?」という気持ちもあるんです。今まで彼女は、社会からすごく隔絶した場所にいましたが、その場所から離してしまったことは、良かったのかな?と思います。でも一方では、彼女の可能性を開くことができ、すごく嬉しいという気持ちもあります。やはり彼女はスターなので、スターは人に見られるべきだし、スターの引力を発揮すべきだと思うので、そういう意味では良かったと思っています。
シャミ:
本当に運命的な出会いだったんですね。彼女と出会ったことで監督ご自身何か変わったところはありますか?
ジョシュア・サフディ監督:
彼女と出会ったことで、彼女自身の人生も僕の人生も大きく変わりました。それにもし彼女にインスピレーションを受けてこの作品を作っていなければ、ロバート・パティンソンと映画(次回作)を作ることができなかったと思います(笑)。それから、アリエルとその周りの人達の生き方を知ることによって、人生をより深く理解できるようになったと思いますし、アーティスティックな意味での僕の哲学が大きく変わりました。
シャミ:
本作はアリエルが書いた文章を監督が脚本にされたということですが、脚本を書く上で特に描きたかったところはどんなところですか?
ジョシュア・サフディ監督:
ダークロマンスの部分ですね。私達は皆ロマンスを求めますが、恋人であれ、ドラッグであれ、一歩離れることも知っておかないと危険にもなり得るんです。
シャミ:
彼女はホームレスでしたが、ダークロマンスの部分は、私にとってもすごく共感できました。ハーリー(アリエル・ホームズ)が恋するイリヤ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、ハーリーを都合良く相手にしている感じがして、とても良い男には思えなかったのですが(苦笑)、監督ご自身は2人の恋愛についてどう思いますか?
ジョシュア・サフディ監督:
僕自身、両方の立場にいたことがあるので2人に共感できるところがあります。誰でも恋愛をしているときに何か壁にぶつかるときがありますが、その壁の向こう側にあるネガティブな刺激を求めている部分もあると思うんです。そういう刺激を求め過ぎてしまい、悪い恋愛にハマる人もいるんですよね。ハーリーの場合は、とても厳しい路上で生活をしていて、何でも刺激のあることを強く求め、その結果イリヤとの恋愛やドラッグにハマってしまったんです。
シャミ:
ハーリーのように、人間は誰でも何かにハマってしまうことがあると思います。それが良いことであれば問題ありませんが、悪いことだった場合にどうやってやめるべきだと思いますか?
ジョシュア・サフディ監督:
たぶん自分では決められないんでしょうね。ハーリーの場合も、自分で選択したのではなく、仕方なく彼やドラッグから離れていましたが、そうやって何かが起こったときか、もしくは誰かが止めてくれたときに初めてやめることができるんだと思います。
シャミ:
本作もこれまでの作品も、弟のベニー・サフディさん(本作では監督と編集を担当)と共にお仕事をされていますが、兄弟で仕事をするからこそやりやすい点や、やりづらい点はありますか?
ジョシュア・サフディ監督:
小さい頃から2人でやってきたので、良いか悪いかというよりもこれが当たり前という感覚なんです。2人とも違う感性を持っているので、お互いを頼っているところがあります。この映画の場合、弟はこの作品を客観的に捉えていましたが、僕は主観的に捉えていたので、その2つの視点が必要だったと思います。
シャミ:
ちなみにお二人の意見が食い違ったときに、上手く解決する方法などは何かありますか?
ジョシュア・サフディ監督:
実は対立することを楽しみにしている部分もあります。対立したり論争したときに初めて自分の立ち位置がわかったり、相手の見方がよくわかるんです。ある意味それが僕らの解決法です。
シャミ:
本当に信頼し合っていて、お互いを必要としているということなんですね。
ジョシュア・サフディ監督:
仕事においてはもちろん、人生においても欠かせない存在だと思っています。
2015年10月19日取材&TEXT by Shamy
『神様なんてクソくらえ』R-15
2015年12月26日より全国順次公開
監督・脚本・編集:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ
原案:アリエル・ホームズ
出演:アリエル・ホームズ/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/バディ・デュレス/ロン・ブラウンスタイン
配給:トランスフォーマー
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
ニューヨークの路上でホームレスをしている19歳の少女ハーリーは、恋人のイリヤを深く愛していた。しかし、イリヤはハーリーにドラッグを教え、あるときは自分への愛を証明するために手首を切るように言うときもあった。そんな歪んだ愛に束縛されたハーリーは、イリヤから頼まれたことなら何でも受け入れていた。そんなある日、イリヤが突然姿を消し…。
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