2016年4月23日より全国公開
ポニーキャニオン
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1961年に実際にあった元ナチス親衛隊(SS)将校アドルフ・アイヒマンの裁判をTVで報道する男達の物語ということで、すごく固い映画だろうとは思っていましたが、焦点を当てられているのはアイヒマンではなく報道側の人間の心情ということで、思ったよりも登場人物に近い感覚で物語を観ることができました。アドルフ・アイヒマンの裁判と聞くとやっぱり『ハンナ・アーレント』を思い出すのですが、あの映画を先に観ていたことで、本作により興味が持てました。2作に通じる部分は、やはりアイヒマンの人間性、さらに掘り下げるとナチスがやっていたような非情な行為を平然と行ってしまう人間の心理を探求したいという欲求です。本作ではアンソニー・ラパリアが演じるドキュメンタリー映画の監督レオ・フルヴィッツが、アイヒマンがどんな男なのか知りたいと執着心を見せるのですが、彼だけでなく観ているこちらも心のどこかで「アイヒマンにも後悔の念や情があるはずだ。人間らしい面が残っているはずだ」と願いながら、彼の裁判での様子を観察してしまいます。『ハンナ・アーレント』では、アイヒマンだけでなくナチスの行為に不本意にも加担したユダヤ人たちの存在にも焦点を当て、研究者の立場から彼らの心理を分析していたので、その点では異なりますが、「なぜ同じ人間があんなに酷い行為をできたのか」という事実をどう受け止めていくのかが論点になっている点で、やはり興味を引く内容でした。さらに本作では、アイヒマンの実際の裁判の様子が映るのはもちろん、収容所に囚われ、骨と皮だけのような身体でこき使われているユダヤ人達の姿なども実際の映像が映るので、かなり衝撃的です。正直答えは出ないとわかっていても、忘れてはいけない事実として、こうやって映画となって、何世代も語り継がれていくことに意味のある映画なのだと思います。 |
内容的にデート向きとは言えません。ユダヤ人が虐待を受けていた生々しい様子も実際の映像で出てきたり、デートのムードは吹っ飛ぶでしょう。でも、なぜナチスの人間はこんな行為をできたのかを本作を観て語ることで、お互いにどんな価値観を持っていて、受け止めがたい真実にどう折り合いをつける傾向にあるのか、少し知ることができるでしょう。本作は非常事態での話なので、意見が違っていても気にしすぎずに、これを機にお互いの意見を言い合える仲なのか、試してみるのも良いかも知れません。 |
戦争時代に実際に行われていた衝撃的な虐待、虐殺の様子が映像で出てきたり、内容的にもキッズにはまだ難しいと思います。世界史などもある程度学校で習って、自分なりに解釈し考えつつ、他の人と意見を交換できるくらいになってから観て欲しい作品です。戦争は人にどういう影響をもたらすのか、人間はどういう側面を持っているのか、本作を機にいろいろと考えてみてください。 |
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2016.4.19 TEXT by Myson