本田翼が演じる桜井由紀と、山本美月が演じる草野敦子の2人の女子高生が主人公で、“見たい。人が死ぬとこ。”というセンセーショナルなキャッチフレーズがうたわれている映画『少女』。その原作者でこれまでも多くの作品が映画化されてきた湊かなえさんにインタビューをさせて頂き、本作の事から小説家としてのお話まで、ここぞとばかりにたくさん質問しちゃいました!
PROFILE
1973年、広島県生まれ。2005年に第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選、2007年には、第35回創作ラジオドラマ大賞と、「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞した。その翌年、「聖職者」を収録した「告白」(双葉社)でデビューし、“2008年週刊文春ミステリーベスト10”で第1位、2009年には第6回本屋大賞を受賞という快挙を成した。その後も2012年に「望郷、星の海」で第65回日本推理作家協会賞短編部門、2016年に「ユートピア」で第29回山本周五郎賞を受賞。主な著書のうち現在(2016年10月)までに映画化されたのは、『告白』『北のカナリアたち』『白ゆき姫殺人事件』。ほか著書に「贖罪」「夜行観覧車」「境遇」「母性」「リバース」「ポイズンドーター・ホーリーマザー」などがある。
マイソン:
普通の人がただの好奇心で、“人が死ぬところを見てみたい”と思っても、言葉には出さないことを、自分の心のなかで考えたことが文字となって人に読まれる作家の皆さんは、ある種、自分の身を削るというか、さらけ出すことになると思うのですが、その一線を越えるのに苦労することはありませんか?
湊かなえさん:
この作品を書いたのは35、6歳のときでしたが、もう人に好かれたいと思わない年齢になり、書いたものに対して、こういう風に書いたら人間としてどうかと思われないかとか、好かれるためにハッピーエンドにしようとかは思わなくなりました。ただ、私がこういうものを書いて、親が誤解されたら申し訳ないなと思っています(笑)。これは小説の世界であって、作者が主人公のモデルじゃないとわかってくれる人のほうが多いとは思うんですが、なかには、私自身が人の死ぬところを見てみたいって思っているんだろうと解釈する人がいたら、なんだか、ねえ(笑)。
マイソン:
たしかにそう誤解されたら困りますね(笑)。本作には希望と絶望が織り交ぜられていて、観る人によってハッピーエンドにも、バッドエンドにもとれると思いました。いろいろなキャラクターがいたので、どこに焦点を合わせるかだと思いますが、湊さんご自身は、どちらに重きをおいて物語を書いていたのでしょうか?
湊かなえさん:
この作品を書くときに、主人公にとってハッピーエンドかどうかと、全体のハッピーエンドかどうかが、イコールにならないラストにしようと思っていました。主人公に自分を重ねて観ている人、映画全体を引いて観ている人にとって、どっちにしてもザワザワした気分になって欲しいなと。
マイソン:
制裁を下すような要素が感じられたので爽快感がある反面、そんな自分に罪悪感を感じたりもしました。他の湊さんの作品でも、世の中のちょっと歪んだ人達を懲らしめてやろうという部分を感じたのですが、そういったメッセージは意図されているのでしょうか?
湊かなえさん:
今回は“因果応報”もキーワードに入っていて、どこか自分のこととして観て欲しい気持ちもあって「自分に返ってくるんだよ」というのを入れたかったんです。だから全員が皆ハッピーエンドというのはないんです(笑)。
マイソン:
では、一番感情移入したキャラクターはいるのでしょうか?
湊かなえさん:
1人にだけ感情移入するというのはないですね。この作品は由紀と敦子のパートをそれぞれ一人称で書いているので、由紀(本田翼)のパートを書いているときは由紀に、敦子(山本美月)のパートになると敦子に一番感情移入します。ただ、高雄(稲垣吾郎)とか人形劇のおばちゃんは好きなんです(笑)。「うん、いるいる!」「いるよねー、こういうおばちゃん!」って言ってもらえるようなキャラクターは書いていて楽しいです(笑)。
マイソン
あの緊張感のなかでおばちゃんの存在はホッとしますもんね(笑)。これまで著書が複数映画化されてきましたが、映画化する上で、これだけは原作者として譲らないと思っていることはありますか?
湊かなえさん:
原作に忠実にしていただく必要はなくて、むしろ全く同じなら本だけ読んでいれば良いとなってしまうので、小説にはない場面、セリフが描かれるのは大歓迎です。でも、主人公はこういうことはきっと言わないだろう、このキャラクターはこういう行動は絶対にとらないだろうということだけはないようお願いしています。
マイソン:
たまに、小説と違うエンディングの映画もありますが、今おっしゃったようにキャラクター性が変わらない限りはオーケーですか?
湊かなえさん:
そうですね。「そうか、こういう終わり方もあるんだ」というのを見せてもらえると、すごく得した気分になります。原作に忠実でなくても役者さんから出る自然な表情だったり、監督がイメージした場面があると思うので、違う角度から見られるのは楽しみです。
マイソン:
何か事件が起きたときに、犯人がこういう映画を観ていたとか、こういう本を読んでいたと、あたかもそれが犯人に悪影響を与えたように報道されることがありますよね。そういったニュースを観たとき、実際に湊さんの作品がそのなかに入っていないにしても、作り手の方々って、どういう心境でニュースをご覧になるのかなと思うことがあります。
湊かなえさん:
幸い、私の本を持っていましたというのは聞いたことがないですが、皆理由が欲しいんだと思います。悪いことをするには何か動機があるはずだとか。ただ、世の中には理由がないこともあるんだということを、もう理解しなくてはいけないのに、どこかで理由を求めて、自分とは関係なかったと安心したがっているのかなと。だから、いつまでたっても同じ様なことが続くんだと思います。例えば、親の教育より、架空の物語のせいにしたほうが、皆が何となく安心するのかなと。
マイソン:
私が子どもの頃は、おとぎ話や昔話にはもっと残酷な部分も描かれていて、それを含めて読んで考えることに意味もあったように思いますが、今の子ども達に読まれるものは、残酷なシーンが削られているという話も聞きます。でも、そういう風潮っていかがなものかなって思うんです。元々の作者の意図とか、核があったはずなのに、良い部分だけ伝えてもどうなんだろうと思うんですが、そういう風潮は、どう感じますか?
湊かなえさん:
本当は残酷な場面もあるのに、世の中にはそんなものはないんだって隠すから、逆に隠れて残酷なことを知りたい、やってみたいってなるのかなと思います。ただ、ハッピーエンドとかバッドエンドという以前に、童話を読んだことがないんじゃないかとも思うので、どんなラストにしろ、本を読む機会は必要だと思います。例えば、書き方が変わっていても、読んでおしまいじゃなくて、親子で「お母さんのときは、これはもっとひどい終わり方だったのよ」と話すことに繋がると、結末を変えたことにも意味があるんじゃないかと。
マイソン:
そうですね。今回の作品の「死んだところが見てみたい」という心境も、今おっしゃったようなことに繋がるなと思います。
湊かなえさん:
変化を求めている子、強くなりたいと思っている子が、実際に見てしまったら怖いけど、現実とはちょっと違う何か特別なことに触れたら強くなれるんじゃないか、そういうことが救いになるんじゃないかと、すがりつきたいと思ったときに、ちょっと現実離れしたことが起こったら変われるかも知れないのにって、待っている子はいっぱいいるんじゃないかと思います。
マイソン:
では最後に、今、アニメなどもたくさんハリウッドで実写化されていますが、湊さんの小説が外国でリメイクされるとしたら、こんな風になったら楽しいなと想像することはありますか?
湊かなえさん:
それは楽しいですね!その国の文化もあると思うので、それをどう入れるのかは見てみたいです。でも国が変わっても普遍的な部分もあると思うので、共通点を探すのも、違うところを探すのも新しい発見になると思います。海外版の本は結構出してもらっていて、海外の方の感想を聞くと日本の読者とあまり変わらなくて、人間関係や、人間の悪意、善意やらは国に関係なく共通するものがあるんだろうなと思います。それを映像で再発見できたらいいですね。リメイクしてほしいです(笑)!
マイソン:
私も観てみたいです!ところで湊さんはどんな洋画がお好きですか?
湊かなえさん:
『スター・ウォーズ』とか『オデッセイ』とか、その時に話題になっているものを観に行くという感じですが、DVDだと昔の作品も観ます。『ライフ・イズ・ビューティフル』とかが好きですね。
マイソン:
なるほど〜。今日はありがとうございました!
2016年9月13日取材&TEXT by Myson
2016年10月8日より全国公開
原作:湊かなえ「少女」(双葉文庫)
監督:三島有紀子
出演:本田翼 山本美月 真剣佑 佐藤玲 児島一哉 菅原大吉 川上麻衣子 銀粉蝶 白川和子/稲垣吾郎
配給:東映
読書好き、授業中は黙々と小説を書く由紀。その親友で、幼い頃から剣道を習い、将来を有望視されていたにも関わらず、今では学校内でイジメに遭っている敦子。その親友で、読書好き、授業中は黙々と小説を書く由紀。2人の女子高生のそれぞれの視点で、少女達の心の闇と光を描いた物語。
©2016「少女」製作委員会