今回は、スティーブン・キングの原作を映画化した『セル』のトッド・ウィリアムズ監督に電話インタビューをさせて頂きました。原作者スティーブン・キングの人柄、複雑な思いにさせる結末についてズバリお聞きしました!
PROFILE
1968年9月27日生まれのニューヨーク州出身。コロンビア大学を卒業し、“ニューヨーク・タイムズ”紙のロサンゼルス支局に特派員として勤務した後、1999年、『The Adventures of Sebastian Cole(日本未公開)』で監督デビュー。同作はトロント国際映画祭でプレミア上映された。2004年にはジョン・アーヴィングの原作小説を、ジェフ・ブリッジスとキム・ベイシンガー共演で映画化した『ドア・イン・ザ・フロア』を監督し、自身が脚色した脚本はインディペンデント・スピリット賞ノミネート。2010年には大ヒットシリーズ『パラノーマル・アクティビティ2』を監督した。現在、共同クリエイターのトム・パブストとスペインのコンキスタドール、エルナン・コルテスのメキシコ征服を描いたHBOによるTVシリーズを企画中で、本シリーズの主演はベニチオ・デル・トロ、監督はマーティン・スコセッシが務める予定。
マイソン:
今回スティーブン・キングさんの原作を映画化されていますが、彼の作品はいつも驚くようなストーリーばかりです。本作で彼は脚本としても参加していますが、実際はどんな方なのでしょうか?
トッド・ウィリアムズ監督:
彼は、あれだけ成功を遂げているのにとても寛大で優しく、礼儀正しくて、思慮深く、思いやりのある人なんです。今まで、あれほど映画化された作家って、他にはいないと思います。彼が描く作品はとてもダークですが、彼自身は本当に人間性に溢れています。しかもずっとメイン州に住んでいて派手なところには住んでおらず、そこでずっと働いているんですよ。だから成功を遂げたことでどこか変わったというのが全くない人なんです。
マイソン:
普段スティーブン・キングさんとお話していて、「(他の人とは違って)こういうところに気づくんだな」って思うところはありますか?
トッド・ウィリアムズ監督:
これは僕の持論なんですが、スティーブン・キングさんがなぜあれだけたくさんの作品を生み出せるのかと言うと、潜在意識のなかに浮かんできたものをそのままつらつらと書いていけるような作家だと思っていて、実際にそういう人がいるかどうかは別として、予知能力のようなものを彼に感じます。他の人には見えない何かが彼には見えていて、いろいろな社会現象を拾っては、未来にこうなるぞっていう片鱗を見せてくれる作家さんですね。これは彼のいろいろな原作を読むとわかるんです。それは彼の予知能力的な部分がそうさせているように思います。
マイソン:
なるほど〜。今回原作者自身が脚本も担当されているということで、キングさんと監督で相談しながら、原作と変えたシーンはありますか?
トッド・ウィリアムズ監督:
スティーブン・キングさんご自身のなかで、原作は、“インニー(室内劇)”と“アウティー(室外劇)”という2種類に分かれているそうなんです。“インニー”は例えば『ミザリー』とかですよね。後者の“アウティー”の方は、『ザ・スタンド』とか、とにかく壮大な展開のもの。今回の『セル』は後者の方で、とにかく原作は壮大な話なんです。でも尺に制限があったので、どうしても話をキュッと締めないといけなかったんです。なので物語のスケール感という部分は変えています。それと、結末部分も変えています。原作では一筋の光というか希望を残していたのですが、スティーブン自身、原作を振り返ると、「僕はあのエンディングに不満なんだ」と言っていたんです。だから今回の映画のエンディングは希望も何もないですよね(笑)。だから映画では必然的に起こるであろう、より正しいエンディングにしました。それともう一つ、原作は2006年に書かれたので、携帯電話も変わっています。昔は皆ケータイを耳にあてて電話していましたが、今はスマートフォン(以下スマホ)になって画面を見て話すわけです。でもどうしても耳にあてるという設定にしないといけなかったので、オープニングシーンを空港にしました。というのは、空港だとスマホを持っていても、人は会話をしたいから、何かとケータイを耳にあてていても、不自然ではないと思いました。それと、周りがゾンビ化していくなかで、スマホの場合でも“911”に緊急電話をしますよね。そしてスマホに耳をあてます。そういう状況を作りたくて“911”にダイヤルするという状況を作っています。そこは携帯電話の技術が進んだからこそ、敢えて変更しなければならなかった点でした。
マイソン:
続けてエンディングについても伺いたいのですが、受け取り方によってはハッピーエンドにもバッドエンドにも見えました。あの終わり方だと本人は楽になるけど、観ている側は不快な感じにもなったのですが(笑)、作った監督としてはどちらだったのでしょうか?
トッド・ウィリアムズ監督:
僕にも息子がいて父親なので、仮に息子がああいう状況になったとしたら、僕もジョン・キューザックが演じる主人公と同じ選択をしたんじゃないかと思います。ジョン・キューザックが演じる主人公は、実際に身の回りで何が起こっているのか薄ら薄らわかっているけど、それもすべて受け入れて、最後の選択をしたのかも知れません。
マイソン:
サミュエル・L・ジャクソンさんは、どちらかというと不気味な役を演じることが多いですが、今回はまともな人を演じていてとても新鮮でした。彼をああいう役としてキャスティングした経緯を教えてください。
トッド・ウィリアムズ監督:
確かにおっしゃる通り、サミュエルは普段カラフルな役を演じています。もちろんそうじゃない役のときもありますが、この作品の役柄に関して、サミュエルがこういうところに惹かれたんだろうという話をしますと、今回の役は非常に控え目で大人しい男で、今回はトーンダウンして演じてくれています。彼は徹底的に準備をする人で、役が決まったらさっそく原作を読んでいました。役の設定がゲイでしたが、「ゲイだけど、だから何?」っていう描き方で、劇中ではゲイであることに関してあれこれ話すわけではないというところがおもしろかったんじゃないかと思います。また、サミュエル自身ゲイ役を演じるのが初めてだったし、且つそこが注目ポイントになる内容ではないので、そういうところに惹かれたんだと思います。ジョン、サミュエル、僕に関して共通して言えることは、ジャンルものが好きなのはもちろん、いろいろな形の映画が好きなので、手掛けるもの、出演するものとしてはB級っぽいものもあれば、あまり多くの人が観ないようなアート作品もあったり、我々の守備範囲はかなり広いんです。
マイソン:
最後に監督にとってホラー映画を撮る醍醐味は何でしょうか?
トッド・ウィリアムズ監督:
ホラージャンルは、現実世界では起こらないあれこれを描くところがおもしろいです。でも可能性は無限大だからこそ難しさもあり、そういう意味ではとてもチャレンジングなんです。それと特にホラーは、観客と一緒に劇場で観るのがおもしろい。そこが醍醐味だと思っていて、ハラハラドキドキ感だとか、緊張感というものは、皆で一緒に肌で感じられるんです。だから1人で観るのも良いですが、僕は劇場が好きなので、特にホラー映画は劇場で皆で観てその怖さを皆で感じるという部分がミソかなと思っています。だからできるだけ混み合っている劇場に行って、皆で一緒に集合的に感じる何かという部分に魅力があると思います。
2017年2月17日(金)より全国公開
原作・脚本:スティーブン・キング
監督:トッド・ウィリアムズ
出演:ジョン・キューザック /サミュエル・L・ジャクソン/イザベル・ファーマン
配給:プレシディオ
コミック作家のクレイ・リデルは、1年前から妻のシャロン、息子ジョニーと別居中。そんなクレイは、自分が描いたグラフィックノベル「闇夜の旅人」のゲーム権などが売れた嬉しさで、空港から妻へ電話をかけていた。だが息子との会話中にバッテリーが切れ、公衆電話からかけ直そうと、空港内に戻ると、周囲の人々が次々と異変を起こし、大混乱。異変を起こす人々の共通点が携帯電話の使用だと感づいたクレイは、空港を後にし、家族のもとへ向かおうとするが…。
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