今回は本作を作るために3年に渡り世界中を旅して、素材を探し、集めたというトム・ヴォルフ監督にインタビューをさせて頂きました。マリア・カラスを知り尽くした監督からのお話で、また彼女のスゴさを知り驚きました!
PROFILE
ロシア、サンクトペテルブルク生まれ、フランス育ち。2006年に映画作りを始め、カメラマンとしても活躍。これまでファッション広告、国際的組織や企業のPR映像のようなものから、オペラをテーマとする短編映画などを手掛けてきた。シャトレ座ではオーディオビジュアル・コミュニケーションを3年に渡って担当し、さらにプラシド・ドミンゴ、スティング、デヴィッド・クローネンバーグなどの数々の偉大な人物や作家のインタビュアーとしても活躍している。
2013年にニューヨークへ移り、マリア・カラスの歌声に感銘を受け、マリア・カラスを探求するプロジェクトを始動。未公開の資料や映像、音源を探して、3年に渡って世界中を旅して回り、彼女の近親者や仕事相手にも会い、60時間以上にも及ぶインタビューを行った。その貴重な情報や素材を基に、初の長編監督映画『私は、マリア・カラス』と、3冊の書籍を発表。さらに2017年9月にパリで展示会を開催した。
マイソン:
今回すごく膨大な資料を集めて本作を作られたとのことですが、マリア・カラスという女性をこの映画で表すために何を残して、何を入れないかどういう基準で判断しましたか?
トム・ヴォルフ監督:
確かに映画に入り切らないほどのたくさんの素材が集まったわけですね。40時間以上のフッテージ、400通以上の手紙、それから数えられないくらいのいろいろな録音があったので、基準としては1つのスムーズなストーリーを作るために必要なものかどうかだったんです。集めたものをただ陳列するのではなくて、未公開映像もたくさんあったので、なるべく皆さんが喜ぶような素材を使いつつ、スムーズにストーリーが語れるということが基準でした。
マイソン:
膨大な資料が見つかって、世に知られていなかったことがたくさん綴られていますが、その新しく見つかった資料の中で、マリア・カラスについて監督が大きく印象が変わった内容はどの辺りでしょうか?
トム・ヴォルフ監督:
デビッド・フロストのインタビューですね。非常に感銘を受けたので、それがこの映画のバックボーンというか、全部を繋ぐ糸になっています。この映画は、デビッド・フロストのインタビューを軸に、あとはフラッシュバックで構成されています。あれはインタビューというよりは告白だと思っているんですけれども、彼女は自分自身をさらけ出しているんです。そういう意味ではすごく良い証言だったと思います。これは1970年に生放送されて、それ以降失われたと思われていたんです。でも1つだけコピーが残されていて、今映画に使えるということが本当に奇跡だったと思います。そして、彼女のホームビデオには、100%マリアの部分が出ていて、とても可愛らしい女の子みたいな姿が映っています。いわゆるカラスというアーティストのイメージからすごく遠いものだと思うんですけど、私達の知らなかった面がすごくよく出ています。お家で撮ったものだったり、休暇に出かけた時に親しい友達が撮ってくれたものが、こういう形で観られるというのはおもしろいと思います。
—デビッド・フロストのインタビューがブラウン管の枠のまま、映ってたのはなぜ?
トム・ヴォルフ監督:
デビッド・フロストのインタビューに映っているフレームは、本物のテレビなんです。あれはマリア・カラスのお友達がスーパー8でテレビに投影されているものをそのまま撮ったものなんです(笑)。昔はVHSがなく録画ができなかったので、外側から全部フレームごと撮っていたということです。生放送したものをテレビ局も保存していなくて、たまたまご友人が持っていたものなんです。何か付け加えたりはしていないので、映画に入った瞬間に当時を”現在”として感じられるようにできているんです。
—「蝶々夫人」の演目でマリア・カラスが着物を着ている理由は?
トム・ヴォルフ監督:
「蝶々夫人」の”アリア”と、マリア・カラスはすごく有名ですが、それはレコードになったものがすごく有名になったわけで、実はオペラとしては4夜しか演じていないんです。1955年、シカゴでの4夜だけ、つまり人生に1回しかやっていないんです。その4夜の中のリハーサル風景が、本作の劇中にあるシーンなんですが、イタリアからわざわざシカゴまで行って、リハーサルをした時のフッテージです。日本女性の仕草を完全に彼女は取り込んでいると思うんですが、非常に驚くことに、その時まだ彼女は日本に行ったことがなかったわけです。1955年ですので、たぶん日本映画も観たことがなかったと思います。イタリアの作曲家の音楽ですが、音楽自体も実は日本が舞台。たぶんその歌の中にあった、日本女性の芸者の雰囲気というものを彼女は自分の本能でかぎ取って、それを表現したのではないかと思います。それはやはり彼女の天才さを表す証拠になっています。いつも彼女の歌ってるものと、彼女の人生、個人的な人生と平行線なんですが、ヒントは彼女が歌っているアリアの歌詞をよく見てみると、そこに書かれています。彼女の人生に起こっていることをいつもアリアで選んで歌っているので、そこで書かれていることが彼女の人生なんです。ほかのアリアも全くそうなんです。彼女が選んだ時って、それが自分の人生に起こっている時なんです。
2018年11月16日取材&TEXT by Myson
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『私は、マリア・カラス』
2018年12月21日より全国順次公開
監督:トム・ヴォルフ
出演:マリア・カラス
朗読:ファニー・アルダン
配給:ギャガ
世紀の歌姫マリア・カラス没後40年(1977年9月16日逝去)を記念して作られたドキュメンタリー。未公開素材を含む、未完の自叙伝や封印された手紙、映像、音源など、マリア・カラス本人の「歌」と「言葉」だけで綴る、マリア・カラスの本当の姿。歌手として、そして一人の女性としての彼女が映されている。
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