映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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自主制作映画『チチを撮りに』(2012)が、ベルリン国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で絶賛された中野量太監督の商業デビュー作、『湯を沸かすほどの熱い愛』。“死にゆく母と、残される家族が紡ぎだす愛”という普遍的なテーマを、驚きと感動の詰まったストーリーで描き出す本作で、母の死に向き合いたくましく成長していく娘、安澄を演じた杉咲花さんにインタビューをしました。中野監督から役づくりのために出されたお題や、母親役の宮沢りえさんとのエピソードなど、貴重な裏話を伺いました!
ツイートミン:
とても感動的な作品で、鑑賞しながら何度も泣いてしまいました。クランクアップのシーンを撮り終えたあと、中野量太監督はじめ、杉咲さん、宮沢りえさんもその場で号泣をされたと伺いましたが、どういった気持ちで流した涙だったのでしょうか。
杉咲花さん:
クランクアップのシーンが、病室でお母ちゃん(宮沢りえ)とお別れをする場面だったこともありますが、私自身は、この作品の現場がすごく好きで、終わってしまう寂しさと、すべてのシーンを撮り終えたという感動と、いろいろな思いがこみ上げて涙が止まりませんでした。
ミン:
とても良い涙だったんですね。
杉咲花さん:
はい。でも、中野監督があまりに号泣していたので、それを見てちょっと笑ってしまいました(笑)。
ミン:
あはは(笑)。素敵な現場の雰囲気が伝わってくるエピソードですね。安澄を演じるにあたり、中野監督からはどういったリクエストがありましたか。
杉咲花さん:
中野監督がおっしゃったのは“見せる芝居”じゃなく、“見える芝居”をしてほしい、ということでした。
ミン:
“見える芝居”とは?
杉咲花さん:
監督はカメラに映っていない部分もとても大切していて、撮影に入る前に「お母ちゃんと鮎子(伊東蒼)と3人は、家族になってほしい」とおっしゃって。そのために、毎日3人でメール交換をして、1日1枚は写真を送り合うように、というお題を出されました。そのやりとりでは敬語をやめて、私と鮎子は宮沢さんのことを「お母ちゃん」って呼ぶようにして。そんな風に、カメラに映っていないところで、家族でいられる状態を作ってから現場に入りました。それが、きっと監督の言っていた“見せる”から“見える”ということに繋がっていたのだろうと思います。
ミン:
どれくらいの期間、メールのやり取りをされていたのですか?
杉咲花さん:
実際には時間がなくて、1週間くらいです。以前、監督が家族をテーマにした作品を撮られたときには、母と娘役の方には手を繋いでスーパーに行き、一緒にご飯を作って食べてもらったりしたそうです。本当はこの作品でも、そういうことをやりたかっただろうなと思うし、私も時間があればぜひやりたかったです。
ミン:
役づくりとはいえ、最初から家族のように打ち解けるのはなかなか難しいですよね。
杉咲花さん:
はい。撮影前に、監督とお母ちゃんと鮎子と私の4人で食事に行ったんですけど、お母ちゃんが、「形式張った挨拶はなしにしよう」って言って。鮎子はその場で敬語をやめて話していたけど、私自身は、宮沢りえさんに敬語以外で話すなんてできなくて(笑)。でも、これではダメだと思って、家に帰ってから「敬語をやめてもいいですか?」ってメールを送ったんです。
ミン:
がんばりましたね(笑)。
杉咲花さん:
はい。でも、返事が来るまではすごくドキドキして「送らなきゃよかった!」って後悔しました(笑)。でも、お母ちゃんから「もちろんだよ。良い作品にしたいから、遠慮はしないでほしい」って返事がきて。そこからは、緊張感はなくなりました。
ミン:
ほかに、宮沢さんから掛けてもらった言葉で、印象に残っているものはありますか。
杉咲花さん:
お母ちゃんは「何回やり直しをしたって、絶対に大丈夫だから」って言ってくれました。何度もカットを変えて撮り直しをするシーンでは、お母ちゃんはカメラに映っていないときも、本番と同じお芝居をしてくださったんです。それって、簡単なことではないし、とても体力を使われたと思うんですが、そこまでしてくださることに、私も絶対に返したいと思いました。だからこそ、一つひとつ本当に良いシーンになったと思います。この作品では、スタッフもキャストもただただ良い作品を作りたいという同じ方向に向かっているのを感じました。
ミン:
お母ちゃんと病室でお別れするシーンでは、安澄の思いが溢れるように伝わってきました。
杉咲花さん:
あのシーンの前、お母ちゃんには何日か会えなかったのですが、お母ちゃんに会いたくて、会いたくて。でも、病室でのシーンではお母ちゃんの姿に慣れてしまうのがいやだったので、テストまで会わないようにしてもらったんです。テストを撮っているときは、お互い別の場所に待機するようにして。それくらい、とても大事に撮影したシーンです。
ミン:
宮沢さんの演じた双葉は、強くて優しくて、私にとっては憧れの女性像だと思いました。杉咲さんにとって憧れの女性像とは?
杉咲花さん:
私は臆病なところがあるので、大事なときに負けないよう、常に強い女性でありたいですね。
ミン:
憧れの女優さんはいらっしゃいますか?
杉咲花さん:
今回、共演させていただいた宮沢りえさんのことは、本当に尊敬していますし、「何かあったときには、いつでも、私が知っていることなら教えてあげるよ」っておっしゃっていただいて、撮影が終わってからも仲良くさせていただいています。
ミン:
映画同様に素敵な関係を築かれたんですね。本日は素敵なお話をありがとうございました!
2016.9.5 取材&TEXT by min
2016年10月29日より全国公開
監督・脚本:中野量太
出演:宮沢りえ/杉咲花/篠原ゆき子/駿河太郎/伊東蒼/松坂桃李/オダギリジョー
配給:クロックワークス
銭湯“幸の湯”を営む幸野家は、1年前に父がふらっと家を出て行ってから休業状態。母の双葉は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら娘の安澄を育てていた。しかし、ある日、突然「余命わずか」という宣告を受ける。その日から、彼女は残された日々で「絶対にやっておくべきこと」を決めて実行していく。家出をした夫を連れ帰って銭湯を再開させる、気が優しすぎる娘を独り立ちさせる、娘をある人に会わせる…母の行動は、家族からすべての秘密を取り払うものだった。ぶつかり合いながらもより強い絆で結びついていく家族。そして母から受けた大きな愛で繋がった家族は、究極の愛を込めて母を葬(おく)ることを決意する…。
© 2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会