映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
TOP > 映画界で働く女TOP > 映画界で働く女性にインタビュー&取材ラインナップ > HERE
美しさと獰猛さを兼ね備えた人魚の姉妹の物語『ゆれる人魚』。エロチックでグロテスクな描写と独特の世界観で、強烈なインパクトを放っている本作で長編監督デビューを果たした、アグニェシュカ・スモチンスカ監督にお話を伺いました。
<PROFILE>
アグニェシュカ・スモチンスカ
1978年生まれ。シレジア大学カトヴィツェ校映像学部クシシュトフ・キェシロフスキ映画学校に在籍中、“The Hat” “3Live”を制作し、各国の国際映画祭で数々の学生映画賞を受賞した。2007年、“アリア・ディーヴァ Aria Diva”を監督し、クラクフ映画祭とニューヨーク映画祭で複数の賞を受賞。長編監督デビュー作となった『ゆれる人魚』は、ポーランド最大の映画祭、グディニャ映画祭で新人監督賞とメイキャップ賞を受賞した。才能溢れる女性監督として、ポーランドの若手映画作家のなかでも特に注目されている。
ツイート
マイソン:
エロチックな描写とグロテスクな描写は相性が良いと思う一方で、苦手意識をユーザーに持たれるジャンルじゃないかなと思います。今回、エロチックな描写、グロテスクな描写をそれぞれどれくらい入れるのか、どうやって決めましたか?
監督:
この作品は私の長編デビュー作ですが、実はある程度の予算が付いて、配給も決まっていたため、配給会社からのリクエストとして「あまりグロくしないで欲しい」と最初から言われていました。というのも、ポーランドはホラーの伝統が全くなくて、観客もホラー映画を全く観ない国なんです。ただ、私は人魚が歌う美しいシーンだけではなく、人魚のダークサイドであるモンスターの側面、人肉を喰らう場面などもしっかり見せたいと思いました。それを入れたファーストカットをお見せしたところ、案の定、配給会社から「あのシーンはカットしてもらえませんか?」と言われました。性描写に関しては全くOKだったのですが、グロに関してはいくつか意見を頂きました。でも、私はそれを全て否定しました。なぜかと言うと、この作品がユニークなのはそういったシーンがあるからこそ。つまり、ホラー、詩情、歌詞、リアリズムが全部一つになっているからこそ、非常にユニークな作品になっているからです。だから、結構バトルはありましたが(笑)、そういった部分は変更せずに、公開することができました。ポーランドのなかでは、こういった描写が苦手な方もいらっしゃいますが、アメリカなどでは全然大丈夫でした。
マイソン:
ポーランド映画は、日本のライトユーザー(映画を観慣れていない方)には少し馴染みがないと思うのですが、今後もっとポーランド映画を観てもらうために、監督が思うポーランド映画の魅力を教えてください。
監督:
1989年の共産圏時代までは、アンジェイ・ワイダ、クシシュトフ・キェシロフスキ、ロマン・ポランスキーなど、ビッグネームがいました。共産圏時代後は、法律によって製作費がなくなってしまい、なかなか映画が作られない時期がありました。でも、ポーリッシュ・フィルム・インスティテュートという機関があり、かつて年間5本ほどにしか製作費を出していなかったのが、今では50本になり、だいぶ良くなりました。新しいポーランドシネマの波が生まれてきているなかで、かつては心理ドラマなどでよく知られていたのが、最近では私の作品のようにジャンル的な作品も作られています。本作と同時期に他にもホラー映画があったほどです。ただ、今政府に変革が起きているのが懸念材料で、その政府の下で、これから果たしてどんな映画を作ることができるのか、まだわからず怖い状況ではあります。この作品は長編デビュー作にも関わらず、政府の助成金で作られています。こんなにクレイジーな物語が支持されて作られたことは奇跡的だと思っています。今非常に興味深い時期にあると思いますし、優れたドキュメンタリー作家の他に、オスカーにノミネートされたアニエスカ・ホランドといった名匠など、たくさんの良い監督がいます。
※上記他、アグニェシュカ・スモチンスカ監督が挙げた、ポーランドの映画監督名:Malgorzata Szumowska/Tomasz Wasilewski/Kuba Czekaj/Jagoda Szelc/Andrzej Zulawski
そして、本作で対照的なキャラクターである、人魚の姉妹のキャスティングについても、話してくれました。
監督:
実は、1年間ほど自分で探していて、最終的には2000人くらいの女性に会いました。最初、1人は10代の女性にお願いしようとしていました。でも、この物語の残酷な部分や心理的な変遷みたいなものが、彼女にとってはきつそうだということで、改めて10代ではない学生に視野を広げました。その中で出会ったのが、シルバー役のマルタ・マズレクさんです。彼女にはすごく柔和で脆い、感受性の強い側面がありつつ、獣的で野性的な部分があります。彼女に決めてから、ゴールデン役を探しました。何よりも大切だったのが、姉妹間のケミストリーです。今回、普通ではやらないワークショップを行い、16人くらいのゴールデン役候補の女優さんにさまざまなエクササイズをやってもらいました。その一つとして、人魚としていかに動き、演じるのか、振り付け師のカヤ・コロジェイチェクさんと共に作り上げていきました。例えば、脚を束ねるとどんな動きに繋がるのか、次に束縛を解き、初めて陸に上がって歩くとはどういうことなのかというようなエクササイズです。もちろん、見た目だけではなく、人魚の本質となる内に迫ることが重要だったのです。他に、初めて陸に上がった時の気持ちや、どんな動きになるのか等、非常に複雑なワークショップをやりました。役者達にとっては大変だったと思います。ゴールデン役が決まってからも、エクササイズはさらに続きました。
2018年1月5日取材&TEXT by Myson
2018年2月10日より全国順次公開
監督:アグニェシュカ・スモチンスカ
出演:キンガ・プレイス/ミハリーナ・オルシャンスカ/マルタ・マズレク/ヤーコブ・ジェルシャル/アンジェイ・コノプカ
配給:コピアポア・フィルム
人魚の姉妹シルバーとゴールデンが陸に上がり辿り着いたのは、ワルシャワのナイトクラブ。2人は歌手としてステージに上げられると、若くて美しい容姿と、人魚という特性で、一夜にしてスターになる。だが、シルバーがハンサムなベース・プレイヤーに恋をしてしまい、姉妹の運命は思わぬ方向へ進んでしまう。