劇団「イキウメ」の人気舞台を映画化した『散歩する侵略者』のアナザーストーリーとして制作され、WOWOWで放送&ネット配信された全5話のドラマ『予兆 散歩する侵略者』を、1本の劇場用映画として再編集した『予兆 散歩する侵略者 劇場版』。
本作の黒沢清監督と主演の夏帆さんにインタビューさせていただきました。“リング”シリーズなどホラー作品で知られる高橋洋氏と黒沢監督のタッグで描かれた脚本についてのお話や、心地良い緊張感に包まれていたという撮影現場の様子などを伺いました。
PROFILE
夏帆
1991年、東京都出身。小学5年生のときにスカウトされ芸能界入り。2004年に女優デビュー。2007年には初主演映画『天然コケッコー』で日本アカデミー賞新人賞ほか数々の新人賞を受賞。2008年には『東京少女』『うた魂(たま)♪』と主演映画が立て続けに公開され、若手実力派女優として認知される。2012年には舞台にも進出。主な映画出演作品は『砂時計』(2008)、『きな子〜見習い警察犬の物語〜』(2010)、『箱入り息子の恋』(2013)、『パズル』(2014)、『海街diary』(2015)、『ピンクとグレー』(2016)、『高台家の人々』(2016)、『22年目の告白−私が殺人犯です−』(2017)など。現在はTBSドラマ『監獄のお姫さま』に江戸川しのぶ役で出演中。2018年は映画『伊藤くん A to E』が公開待機中。
黒沢清
1955年、兵庫県生まれ。高校時代から自主映画を制作し、大学時代は蓮實重彦に師事。相米慎二監督作の助監督を経て1983年に『神田川淫乱戦争』で長編監督デビュー。1997年の『CURE』で世界的に注目され、『回路』(2000)、『アカルイミライ』(2002)、『トウキョウソナタ』(2008)などでカンヌ国際映画祭の常連となる。2012年には連続ドラマ『贖罪』が第69回ヴェネチア国際映画祭「アウト・オブ・コンペティション部門」にTVドラマとして異例の出品を果たす。近年の主な作品は『リアル〜完全なる首長竜の日〜』(2012)、『Seventh Code』(2013)、『岸辺の旅』(2015)、『クリーピー 偽りの隣人』(2016)、『ダゲレオタイプの女』(2016)など。国内外に多くのファンをもつ、日本を代表する鬼才監督の一人。本作では高橋洋と共同脚本も務める。
ミン:
夏帆さんが演じる悦子は侵略者にとって“特別な存在”として描かれていますが、その明確な理由は劇中で明らかになりません。黒沢監督が、悦子という存在を通して表現したかったことは何でしょうか?
黒沢清監督:
登場人物のなかで一番か弱い存在に見える悦子が、理由はよくわからないけれど“特別”であることが明白になっていく。高橋洋の作ったドラマの主軸がそれなのですが、本作では理由の部分を敢えて突き詰めず、どんどん撮影を進めていきました。その勢いもあってか、夏帆さん自身がみるみる“特別な存在”に変わっていって、最後には「地球を救えるのは彼女だけなんじゃないか」と本当に思えたんです。それは驚異的な変化でした。
ミン:
監督ご自身のなかでも、悦子が“特別”である理由は敢えて明確にしていないのですか?
黒沢清監督:
実は脚本を書きながら、いくつか理由も思いついたんです。進化の過程で誕生した新人類だとか、彼女も宇宙人だとか。でも、どれも嘘っぽいし、東出(昌大)さんが演じる真壁がどういう宇宙人なのかもきちんと説明していないのに、悦子が“特別”な理由だけを科学者か何かが解いたところで、余計に嘘っぽさがあらわになるような気がしました。まあSFですから、多分フィクションとして「理由はさておき、その先はどうなるんだろう?」という感覚で楽しんでいただけるのではないかと、観る方に甘えながら作っていきました。
ミン:
夏帆さんは、悦子が“特別な存在”であることを、どのように表現しようと思いましたか?
夏帆さん:
黒沢監督の演出以外のことは何もしていないのですが、理屈で追求するのではなく現場で感じたことを勢いのままに演じました。
ミン:
現場では成立していたと。言葉ではない意思疎通がそこにはあったのですね。
夏帆さん:
はい、現場では成立していました。それに、悦子自身も、なぜ侵略者達が自分を“特別だ”と言うのかわからないんですよ。悦子は辰雄や自分の日常を守るということが原動力になって突き進んでいくだけで、世界を守るなんて大きなことを言われても受け止めきれないですし、世界が終わると言われても、どうしていいかわからない。そう思う悦子の気持ちにはとても共感できました。
ミン:
夏帆さんは初の黒沢組だったそうですね。撮影現場の印象を教えてください。
夏帆さん:
ワンカットで撮っていくことが多くて、1回の撮影にすべてを注ぐ大変さはありましたけど、とても心地の良い緊張感に溢れていました。現場にいる全員が1つのところに向かっている一体感があって、染谷(将太)くんとも打ち上げのときに「こんなに楽しかった撮影は久しぶりかも」と話していたくらい。スムーズで無駄のない現場でしたけど、すごく密度が濃いので、体力的には元気でも精神的にはすごく消耗するというか。充実感で毎日ぐっすり眠れましたし、まさに夢のような3週間でした(笑)。
黒沢清監督:
ワンカットで長回しすることは多いですが、今回は限られた時間と予算のなかで、少し贅沢をしてカメラを2台回したんです。メインのほかにBカメが常に別の場所から狙っているようにして、その位置はカメラマンに任せていました。これが、結果としてものすごく功を奏しまして。というのも、夏帆さんは起こっていることに対して全身で鋭く反応するんです。こちらが狙っていない角度や体のパーツをBカメが撮っていて、後からその映像を観ると「夏帆さん、こんなところでも反応している!」という発見がありましたし、隙のないすごい女優だと思いました。
続きを読む>>>>> 1 2:男性キャラクター達が情けないのは誰のせい…!?
2017年11月11日より全国公開
監督・脚本:黒沢清
脚本:高橋洋
出演:夏帆/染谷将太/東出昌大/中村映里子/岸井ゆきの/安井順平/石橋けい/吉岡睦雄 大塚ヒロタ/千葉哲也/諏訪太朗/渡辺真起子/中村まこと/大杉漣
配給:ポニーキャニオン
山際悦子は、同僚の浅川みゆきから「家に幽霊がいる」と相談される。しかし、みゆきの自宅には実の父親がいるだけだった。みゆきの精神状態を心配した悦子は、夫の辰雄が勤める病院の心療内科へみゆきを連れていく。診察の結果、みゆきには「家族」という“概念”が欠落していることがわかるが、悦子には今ひとつ状況が飲み込めない。時を同じくして悦子は辰雄の病院で出会った新任の外科医、真壁司郎に違和感を抱く。真壁と行動をともにする辰雄にも少しずつ異変が現れ、悦子は得体の知れない不安を抱くようになる。ある日、悦子は真壁から「地球を侵略しに来た」と、冗談とも本気ともつかない告白をされるが…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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