映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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マイソン:
サワは熱心なヘルパーさんなのかなと思ったら、観ていくうちにダークヒロインという感じになり、おもしろかったです。この役を演じる上でこだわった点はどこですか?
安藤サクラさん:
原作も読んで、サワちゃんのキャラクターって、いろいろなおじいちゃんに会うたびにいつも印象が違っているんです。でも彼女自身は感情をあまり表に出さない。それが読んでいてもすごくワクワクしたし、彼女の魅力だから、そこが上手くいったら良いなと思っていました。姉が書いた本だし、姉はずっと私を見てきているし、その姉が監督っていうことで、いろいろな表情を持っているサワちゃんに私を追いつかせてくれたというか、引き出してくれました。脚本や原作に描かれているおじいちゃんが本当にいろいろなキャラクターで、演じるのは大先輩の俳優さん方で、お芝居のタイプも違うので、そこに私自身というかサワちゃんを踊らせたというか、監督が踊らせてくれたんです。おじいちゃんたちと贅沢で楽しいセッションをさせてくれたというか。結果、確かにダークヒーローというか、スーパー介護ヒーローというか、ヒーローであるサワちゃん、フーテンのサワちゃん、おとぎの国のサワちゃん、ハードボイルド・サワちゃんっていう、いろんなサワちゃんが映っていると思います。
マイソン:
ありがとうございます。監督は、脚本を書く上でどういった点にこだわりましたか?
安藤桃子監督:
もともと小説のときから、こうしたいって思いが一つあったのは、サワちゃんをヒーロー、ヒロインとしてきちんと描きたいってことで、それは今サクラがフーテンのサワちゃんって表現したように、ハリー・ポッターのハリーだとか、渥美清さんの寅さんだとか、“不思議の国のアリス”もそうだし、“オズの魔法使い”とか、そういう映画のヒーロー、いわゆるミューズとして描きたいと思っていました。彼らに共通して、そのヒーロー本人のことはあまり語られていないということがあると思うんですが、それって意図的なことで、そこで語られてしまうとヒーローとヒロインが崩れちゃうと思うんです。サワちゃんはヘルパーとしてとてもプロフェッショナルで、ああやっていろんなところに押し掛けヘルパーするけれど、自分の喜怒哀楽で相手と接することはほとんどなくて、相手に本当の心できちっと接している。けれど、一切自分の傲慢な感情で相手を振り回すっていうことはしないじゃないですか。そんなすごくプロフェッショナルなサワちゃんを演じるのってすごく難しいんだろうし、それはハードルがめちゃくちゃ高いと思っていました。安藤サクラさんっていう役者一人単体で考えたときに、今までいろんな作品に出ているのを観て思っていた、平たく言ったら安藤サクラさんの演技力っていうもの、その一言じゃ片付けにくいものだからこそ、何か人の心に傷を残すくらいの芝居だとか、インパクトで投げかけるのではなくて、一生忘れられないような輝いたミューズみたいなものを安藤サクラなら演じられるのかなと思って。そういった話は最初にしていました。あと、サワちゃんのキャラクターはウザい役割だから、見たままがウザかったら観られないものになってしまうから、すごくそこは気を使いました。出会う人ごとに科学反応があるので、変わるっていうのもあるけど、多面的な作品になるようすごく意識しました。
桃子監督は本を書くとき、サクラさんをイメージするそうです。そんな話から、これまでの姉妹の歴史が語られました。
安藤桃子監督:
例えば小説も映画も何でも表現をするということはゼロから組み立てていくじゃないですか。そのプロセスのなかで、書いている本人なのでやっぱり自分自身っていうものは基本的にはあります。その外せない土台があって、たぶん自分自身とあとは自分が関わっている人とか、すべての時間軸、生きているなかで出会う人、出来事、吸収しているもの、外の世界と自分の世界というものの集合体でものづくりするしか方法がないと思うんです。そのなかで言えば、全部自分でもあるんですよね。唯一私が特殊だと思うのは、安藤サクラというかサクラを動かす手法を持っていること。映像を作る人間なので、ものを書くときも何をするときも画が頭に浮かんでそれを文章におこすという順番で書いているので、余計に全部サクラのイメージになるんですね。だから現実的に安藤サクラをキャスティングしようと思っていたかという以前に、まずサクラがいないと私はものが作れない。で、そこからリアリティのなかで役者としての安藤サクラがいて、彼女にはスケジュールや事務所の都合もあり、実際に受けてもらえるかどうかは姉妹というのは関係なく、きちっとオファーをするっていうスタンスは持っています。「サクラと仕事をしてみたかったですか?」と聞かれれば、永遠にしてみたいです。だからあて書きっていうよりももっとあてられている。サクラを(イメージのなかで)動かして作っているので、もしサクラがその役をやらなくても相談するかも知れないですね(笑)。これって普通だって思っていたけど全然普通じゃないなって。安藤サクラのファンクラブの会長だって昔から言っているんですけど、そういう感じですかね(笑)。
安藤サクラさん:
だからそうではなくて、私は生まれたときから姉の作品で、姉がそうなるように仕立て上げたんですよ。
一同:
あははははは!
安藤桃子監督:
そうそうそう。すごい壮大な計画のもと。
安藤サクラさん:
今聞いていて思いました。私は生まれたときから姉の作品で、ずっと姉妹でその関係を生きるっていうか、それ自体が2人の作品だと言っていたけど、それはもしかしたら小学校高学年くらいの頃から自分が欲しいような妹にしようと操られていたのかも知れませんね。
安藤桃子監督:
そう、操ってました、事細かに(笑)。弟が欲しかったら弟にするし、それも今日一日とかじゃなくて何年もかけて。すべて精神的コントロール。全てにおいて、スケボーに乗れとかもありましたね。
安藤サクラさん:
両親から教わることもあるけど、姉からこれを見ろ、これを聞けとか、髪を切れ、これを着ろ、これを買えとか。小さいときはお姫様とかフリフリしたものが好きだったんですけど、髪を切らされてからは、これを買えって言われたら「はい」って、地道にスケボーとかも練習しちゃったり。でもやって悪いことはないし、やっとくかって感じでした。
安藤桃子監督:
1週間で1グラムずつ塩分量を増やして、夫を殺す主婦みたいな、そのポジティブ版ですね(笑)。
安藤サクラさん:
でもやっぱり自分の意志みたいなものを持ち始めたら、家族とか姉が一番興味を持っていないところ、一番関わらないところを極めようと思って、ギャルとかヤンキーにすごく憧れちゃって(笑)。
安藤桃子監督:
うちの家庭から学ばないところを反面教師で外から吸収して帰ってきたから。
安藤サクラさん:
中学では悪いことしたりっていうか、いわゆるグレたりとか尾崎豊に憧れるみたいな。高校からはパラパラをやったり、そういうギャル、に憧れていました。(笑)。
安藤桃子監督:
アイドルとかも好きだったしね。私たち家族が全く興味を持たないところにサクラが興味を持って。バイトも逆にファミレスとか。
安藤サクラさん:
かなり反抗してた時期もありましたね。反動がすご過ぎましたけど、戻ってきました。
安藤桃子監督:そしたら全部知っていたっていう(笑)。
安藤サクラさん:
そう、その時の経験はかなり役に立っているのかも。そういうの全部、祖母も含めた家族全員の計算なんじゃないかってたまに思うことがある。みんな心の底では、言葉をしゃべるようになったくらいから私はこの仕事に就くだろうって思っていたみたいなんです。
安藤桃子監督:
なって欲しいという押し付けはゼロなんです。でも無言で確信されちゃっていたんだよね。
安藤サクラさん:
そう、周りは誰も言わないのに当たり前にそう思っていた。
安藤桃子監督:
決して本人には言わないんですよ。でもサクラのいないところで家族がずっと「だって女優でしょ。絶対にそうだよ」って、無言の洗脳があったかもね。
「お姉ちゃんにしか撮れない私が『0.5ミリ』には絶対にいると思うんです」と語るサクラさん。「観た人が絶対に話す映画と話さない映画とあると思うんですけど、会話と議論みたいなのが生まれたら良いなと思います」という桃子監督は、上映時間が長いことが一つのハードルになるかも知れないというのはありつつ、前評判が上々ということでポジティブに考えているとのこと。さらにサクラさんは、とにかくやってみてチャレンジだと思って、宣伝のために頑張ってツイッターも始めたそうです。桃子監督がおっしゃるに、サクラさんがツイッターをするなんて、街に身を売りに行けっていうくらいハードルが高いそうですが、姉妹がタッグを組んでいるからこそ、いつにも増して気合いが入っているんだなと、姉妹だからこそのチームワークが感じられました。本当にステキな姉妹で二人の才能の化学反応も、ぜひ本作でご覧ください!
2014年10月16日取材
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2014年11月8日より全国公開
監督・脚本・原作:安藤桃子
出演:安藤サクラ/柄本明/坂田利夫/草笛光子/津川雅彦/井上竜夫/土屋希望/東出昌大
配給:彩プロ
ある日、ヘルパーのサワは派遣先の家族から、冥土の土産におじいちゃんと寝て欲しいと驚きの依頼を受けるが、その当日に事件に巻き込まれ、職を失ってしまう。路頭に迷ったサワは、道中で出会うワケありの老人の家に押しかけ、頼まれてもいないのにヘルパーをしてしのいでいた。そんな生活のなかで、彼らが抱える問題に一緒に向き合うことになるのだが…。
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