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翻訳家:菊地浩司さんインタビューに見せて頂いた資料

映画業界人インタビューVol.9 翻訳家(ACクリエイト株式会社 代表取締役会長) 菊地浩司さん【後編】

映画は、文化を輸入する役割がある

局長:今みたいにインターネットとかですぐ調べられない時代は、知らないものが出てきた時にどうされてたんですか?

菊地さん:聞く!

一同:アハハハハ(笑)。

菊地さん:例えば、LPD【Los Angeles Police department】とか、Highway Patrolとか、警察の種類もいろいろあるでしょ?日本と警察の組織が違うから、わからないとドラマ自体がわからなくなっちゃう。となるとそれは調べなきゃいけないから、知ってそうな人に聞く。それと同時に、日本語に翻訳しなくちゃならないから、日本の警察のことも知らなくちゃいけなくなる。例えば、日本の警察で“巡査部長”って偉い地位に聞こえるけど、実際は日本の警察の中では下のほうなんだよね(笑)。

一同:へぇ〜。

菊地さん:下から二番目くらい。そういうことが頭に入ってないと、上手に訳せないわけよ。

らいらい&mo:確かに。

菊地さん:あと、最近はあんまり使わないけど、“police”のことを日本では“お巡りさん”、悪く言えば“お巡り”って言い方をしてて、私服の“detective”は刑事でしょ。でも日本では刑事はデカとも呼ぶ。そうすると、“お巡り”とか“デカ”って、良い言葉なのか悪い言葉なのかわからないまま使って、警察から怒られちゃうと困るから、警察に問いあわせて「“お巡り”って言い方をしても良いですか?」って聞いたりしてね。

一同:へぇ~〜(笑)!

菊地さん:わからないことが多いから、警察や自衛隊とかには、よく電話しましたよ。あとアメリカの地方検事って田舎の検事だと思ってたら、選挙で選ばれる、その地区で一番偉い検事なの。日本では検事を選挙で選んだりしないけど、アメリカでは州知事みたいな地位なんだよね。そういうのが頭に入ってないと、訳す時に間違えちゃう。

局長:それは、やりながら学べる部分と最初から知ってないとできないことがあるんですか?

菊地さん:最初は知らないから、出会う度に知っていく。

局長:なるほど~。実は、moは翻訳家を目指しているんです。

mo:はい…やりたくて、今日来ちゃいました(笑)。

菊地さん:おお~(笑)。

局長:彼女のように、翻訳家になりたい人はどんな準備をしたら良いでしょうか?

菊地さん:英語がすごくできる人達が増えたけど、実はそんな必要でもない(笑)。TOEIC満点でも、翻訳で使う英語とはギャップがあって、英語を読み込む力っていうのかな。トライアルというか、ちょっと例題を出してみるね。

翻訳家:菊地浩司さんインタビューに見せて頂いた資料

デスクから紙を取り出してきて見せてくださいました。

菊地さん:これ、映画の翻訳じゃないんけどね。それほど難しい単語は書いてないけど、おおよその意味はわかる?

’I still miss my ex-husband, but my aim is improving. ’

mo:まだ前の夫に未練があるけど前を向いて行くわ…?

菊地さん:うーん…、みんなそうやって訳しちゃうんだけど、実は全然違うんだよ。このaimっていうのは狙いって意味で、ここにあるmissっていうのは、それに対する言葉なの。

一同:あ~!

菊地さん:「私はまだ前の旦那に弾をあてることができない」、“miss”は、「打ち損じる」って意味。もちろん未練があるって意味もあって、ここではダブルミーニングで使われてる。

mo:そっちの意味か!

菊地さん:「だけど、私の狙いはだんだん良くなっていってるわよ」って言ってるわけ。

らいらい&mo:難しい~(笑)!

菊地さん:決して難しいわけではないんだけど、みんなひっかかる(笑)。でもこの言い回し、ネイティブはすぐ理解できるんだよね。

局長:言葉の組み合わせからも意味を読み取るんですね。

菊地さん:そうそう。でもこの“miss”を“寂しい”って訳しちゃうと、次の文が訳せなくなっちゃう。

らいらい:そういう感覚は、海外で生活して触れていくことで養えるんですか?

菊地さん:いや映画のセリフに触れてれば大丈夫だよ(笑)。映画のセリフってこういうの多いんだよ。

一同:へぇ~~!

菊地さん:一見単純な話し言葉のようだけど、脚本家が一生懸命頭を使って考えてるから、単純なセリフじゃないことが多い

らいらい:そっか~。

菊地さん:字幕なんか無くてもわかるって言う人がいるけど、そんなに簡単ではないぞ~って(笑)。

局長:なるほど。じゃあ逆に、DVDとかで日本語で聞いて、英語の字幕で観るというのも良いんですかね?

菊地さん:英語の勉強だったら良いんだよね。イアン・マクレガーって友達がいるんだけど、知る限り日本語を英語に訳すのが一番上手。彼の訳した日本映画を字幕つきで観ると、「ああ、(英語で)こう言うんだ~。なるほど」って。

局長:マクレガーさん、覚えておきます!

翻訳家(株式会社ACクリエイト代表取締役会長) 菊地浩司さん菊地さん:あとはね、日本語の感覚。英語ができても大事なところを見落とすと、映画がつまんなくなっちゃう。できないのが普通なんだけど、自分の英語に自信を持たないことも大事。

mo:自信を持たない?

菊地さん:わからないって思った時には、わかる人に必ず確認すること。わからない度に必ず確認する。たぶんこうだろうって思っても、確認する。特にこういう大切なところはね。

局長:ユーモアのある言葉を、ユーモアがあるように訳すのも難しいですよね。

菊地さん:だから今度は日本語のセンスが必要になるわけよ。大体意味はわかってて、日本語でなんて言えばいいかわからない単語はどうすれば良いかなとか、それこそ字幕は字数制限もあるし。

一同:確かに。

局長:翻訳者になりたいなら、翻訳の勉強ができる学校に入ったほうが良いということはありますか?

菊地さん:我々の時代はそんな学校はなかったからなぁ。僕は法学部で英語なんて関係なかったし、ただ多少、学生時代に会話はできたかな。一つは、日本語の練習をしたほうが良い。ピカソみたいな絵を描く人も、デッサンがめちゃくちゃ上手で、ダリとかも若い時からすっごく上手なんだよね。だから、日本語のデッサンみたいな、本当は俳句でも短歌とかでも良いんだけど、例えばこの部屋を文で表してみるとか。それも自分のために書くんじゃなくて、誰かが読んだ時に、この部屋を思い浮かべられるように、表情とか動かないものをいかにイメージできるか、文章で書く練習をする。そうすると、表現力がつく。

局長:ほぉ~。

菊地さん:日本語の翻訳は一つの表現だから、そういう言葉のデッサンで練習しておくと、こういう時はこう訳せば良いっていうのが自然と身についてくるのね。だから日本語のデッサンをしておくと良いよ。英語は後からでも良い

らいらい:今まで訳して一番おもしろかった、楽しかった作品はなんですか?

菊地さん:うーん…、よく言うんだけど、『スタンド・バイ・ミー』かな。まだ若い頃にやった作品なんだけど、主人公と同い年で、映画の中に出てくるいろいろなシーンがほんとに自分の若い頃と同じで、小学校の頃の夏ってあんな感じだったよな~って思えた。自分で翻訳しながら共感できたんだよね。

局長:逆にぶっとんでるというか、意味がわかりづらい作品も、それはそれで楽しいんですか?

菊地さん:言えません(笑)。でもまぁコメディはおもしろいよね、一番難しいんだけど。

局長:ダジャレとか、英語で韻を踏んでいる言葉を、日本語でも韻を踏んで訳しているのが、いつもすごいなと思います。

mo:本当にすごい。

菊地さん:映画って長く残るから、いつ観てもおもしろくしなきゃいけないんだよね。

mo:10年後、20年後に更新していくんですか?

菊地さん:そういうことがあまりないから難しいんだよね。今風の、時代ウケする訳をしても良いんだけど、僕が良い映画だなって思うのは、10年後、20年後の人が観てもウケるように訳しているもの。それはどっちが正しいとかではないんだけどね。

局長:さじ加減がすごく難しそうですね。2時間の映画だと、翻訳のお仕事はどれくらい時間がかかるんですか?

菊地さん:ピンキリだけど、机に向かって翻訳してる時間は4日くらい。

局長:もうほぼ缶詰状態ですかね。

菊地さん:まあ8時間くらいずっとかな。僕と戸田さん(戸田奈津子さん)なんかは早いから、4日くらいでやって、その前後に試写をやったり、ずっと翻訳だけしてるわけではないから、だいたい全部で1週間くらいで終わるのかな。一番多く翻訳してた頃は、年に50本翻訳してたから、1週間に1本のペースでやってたかな。

一同:えぇ~、すご~い!

菊地さん:当時はビデオがなかったから、3回映画会社に行って観るのよ。一番最初に観て、机に向かって翻訳して、2回目はその原稿と映画を付け合わせて、あとはラボで字幕を入れてもらって、最後に字幕の入った状態で観る。40本やるとしたら、120回は映画会社に行って映画を観ることになるから、その間に時間をみつけて翻訳するわけよ。

らいらい:すごいな~。

mo:では、最後にどんな人が翻訳者に向いてますか?

菊地さん:戸田さんを筆頭として石田康子さん、松浦美奈さんとか、今劇場公開の映画を翻訳している人達はみんな基本明るいよね。おしゃべりが好きで、じーっとしてるより、明るい人が多い。

mo:お会いしてみたいです。

一同:ありがとうございました!

今回の記事担当:mo
■取材しての感想
とても気さくで、お話の上手さが印象的でした。思わぬところで翻訳に挑戦させていただきましたが、やっぱり、英語の読み込みや制限内での置き換えは難しい…。だけどそれ以上に楽しく、興味深いことばかりで、さらにやりたいという気持ちが強まりました。他の翻訳者さん達の話もおもしろくて、今回お話を聞けて良かったです!ありがとうございました!

取材日:2018年7月6日

【前編に戻る】

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翻訳家(株式会社ACクリエイト代表取締役会長) 菊地浩司さん

映画業界人インタビューVol.9 翻訳家(ACクリエイト株式会社 代表取締役会長) 菊地浩司さん【前編】

今回は、エージェントのらいらいと、moが取材しました。2回に渡ってお届けします。

今は普通に使われている言葉には、翻訳がきっかけのものも

ごはん:この業界に入ろうと思ったきっかけや、このお仕事に就いた経緯を教えてください。

菊地さん:全く成り行きで、映画の字幕をやるなんて考えてなかった。大学を出た1970年当時は、アンダーグラウンドな日本のお芝居とかがすごくおもしろい時代だった。寺山修司とか唐十郎とか、歴史に名を残すような人達が登場して、全体的に熱気のある時代で、僕は何となく隅っこでその真似をしてました。就職しないでブラブラしていたら、新宿で映画喫茶を作った大学の先輩に声をかけられてね。映画は本来、映画館で観るものだけど、その先輩がお茶を飲みながら観られる場所を作りたいと言ったんです。
とはいっても、フィルムが手に入らないでしょ?当時はビデオもない時代だからね。アメリカでは家庭用の16ミリフィルムっていうのがあったんです。それをその先輩がアメリカから輸入して、喫茶店で流して見せるっていう話だったの。ただしちゃんとした映画はやっぱり手に入らなくて、チャップリンとか、サイレント映画を最初に持ってきた。サイレント映画はセリフはしゃべらないんだけど、幕間に文字が出る。アクションだったら、「この野郎」とかって。アメリカの映画だから英語で書いてあるので、それを日本語にしなきゃいけないわけ。そのサイレント映画に日本語字幕をつけた、っていうのが僕の一番最初の字幕かな。
それをやってくうちに今の映画、トーキー映画もやっていこうかってことになって。当時トーキー映画に字幕を入れるラボがあったから、そこに行って「字幕翻訳ってどうやってやるんですか?」って教えてもらって、最初は真似ごとで字幕を始めた。これが1番最初に字幕の翻訳をやるようになったきっかけです。で、ちょうどサイレント映画からトーキー映画を翻訳するようになった頃に、日本の会社が16ミリの外国映画を輸入して流すっていうのを始めて、「16ミリの映画を丸ごと翻訳しているやつがいるぞ」って、そういうところから仕事をもらうようになって、16ミリの翻訳を始めたんです。映画館で公開する映画はヒットするものもしないものもあるけど、ヒットしないなら捨てちゃうから、16ミリになるってことは基本良い映画、名作が多いんです。だから16ミリ時代に良い作品にたくさん出会って、名作に傷つけてすいませんって感じだけど(笑)。

一同:いやいやいや!

局長:その時代は劇場公開されるのは邦画がメインだったんですか?

菊地さん:アメリカ映画がいっぱいありましたよ。第二次世界大戦で日本が負けたあと、アメリカは日本人の頭の構造を変えようと、アメリカ映画を大量に持ってきたの。だから戦後はそういう専門の配給会社があって、そこはアメリカのフィルムを集中的に入れて、映画館で流してた。日本人も文化に飢えてたから、アメリカの映画を観て感動して喜んだらしい。僕は終戦直後のことは知らないけど、時代としてはそんな感じだったらしいね。その後、ヨーロッパの映画もたくさん入ってきて、イタリア映画だと『鉄道員』、フランス映画だと『禁じられた遊び』とか、名作がたくさんある。もう少し時代が後になってくるけど、フランス映画では二枚目のアラン・ドロンとか、ジャン・ギャバンっていうすごく渋いスターもいるんだけど、これがフィルム・ノワールって言われる、ギャング映画で大ヒットしたんです。あの頃はヨーロッパ映画が大ヒットしてたし、アメリカ映画ももちろんすごかったし、その後、1960年代くらいはマカロニ・ウェスタンがすごく流行った。クリント・イーストウッドなんかはマカロニ・ウェスタンで大ブレイクしたの。

一同:へぇ〜〜〜〜!!!

菊地さん:マカロニ・ウェスタンっていうのはイタリア製のウェスタンって意味なんだけど、実はそれは日本人が作った言葉で、日本人はイタリアのものはマカロニだと思ってるじゃん(笑)。でもアメリカでは、スパゲッティ・ウエスタンって言ってた。

mo:似たり寄ったりですね(笑)。

局長:急に翻訳家が必要になる時代があって、翻訳家の方も増えたんですか?

菊地さん:終戦後、アメリカ映画がたくさん入ってきて、それでも翻訳家は4、5人だったかなぁ。

mo:4、5人!

菊地さん:もうちょっといたかも知れないけど、主に表に出て活躍している先生は4、5人だったかな。天才だよね。清水俊二っていう先生がいて、東大出身で、経済学部だったけど、ずっと翻訳をやって、宝塚の人達と仲が良かったから、先生の周りには宝塚の女優さん達が集まってて、すごく羨ましかった(笑)。

一同:あはははは。

菊地さん:あと我々がこの人天才だなって思っているのが、高瀬鎮夫(たかせしずお)先生。この先生は英語だけじゃなくてフランス語も堪能で、ラボに行くと、辞書も持たずに台本だけを見て翻訳してるんだよね。試写を一回観ただけで、音も画もない台本だけを見て訳してるのに、実際に映画と字幕を合わせるとぴったりなの。

一同:へぇ~~~~!!!!

菊地さん:でも朝っぱらから、麦茶を飲んでるのかと思ったらウイスキーを飲んでたね(笑)。「菊地君も飲みますか?」って言われるけど、「いやいや結構ですって」言ってたね(笑)。

局長:ハハハハ。個性的な方が多いですね!翻訳家はただ英語ができるだけじゃなく、限られた文字数で訳さないといけないし、意訳を好まないファンもいるし、気の利いた訳だったら話題になることもありますが、翻訳のセンスって、ある人とない人の違いってどういうところにあるんでしょうか?

菊地さん:違いはあることはあるかもね。何を上手いとするかは時代とともに変わると思うけど、ダメな場合もある。つまんないというか、言葉が巧みな人の翻訳と、真面目な人の翻訳の違いかな

局長:正しい日本語に忠実な方と、ちょっと意訳をしてでも雰囲気を伝えられる方の違いって、どういうところですか?

菊地さん:忠実な人ってあまりいないと思う。英語に忠実ということは、意味をきちんと訳すということにはならないから、あたかも辞書通りの訳は、言葉としては言葉足らずでだめなんだよね。英語のニュアンスをどのくらい残すのかってことと、その雰囲気、そのセリフの持つ気持ちっていうか。そういうのをどう出していくかは、人によってさじ加減はありますよね。

局長:それは作風で「この作品だとあの人が合いそう」とか、頼む側の方もだんだんわかってくるんですか?

菊地さん:映画の配給会社が「この作品はこの人だろう」って思って仕事を出すこともあるけど、映画会社によって違うから必ずしもそうではない。ただ、俺なんかだとラブストーリーを頼まれることはなかったの。「俺もラブストーリー大丈夫だよ」って言ったけど、「嘘つけ!」って言われた(笑)。

局長:ハハハハ。これまで担当された作品は、アクションが多いですよね。

菊地さん:アクションばっかり。

局長:ご自身でやっていておもしろいジャンルや、作品の傾向はありますか?

菊地さん:う~ん。でも、ラブストーリーは自分でやっていても、わかんなくなっちゃうの(笑)。

らいらい:アクションとラブストーリーとで、翻訳の難しさってどう違うんですか?

菊地さん:アクションにもいろんなアクションがあって、特に最近のものはSFが多いでしょ。例えば“スター・ウォーズ”は実在しないから、それはそれで、新たな言葉を考えなきゃいけない。有名なところだと“フォース”って言葉があるでしょ。この言葉を昔、岡枝慎二先生が“理力”って訳した。そしたらそんな日本語はないって週刊誌で散々叩かれて、今はカタカナで“フォース”って書くし、それでわかるようになったけどね。

一同:確かに!!

菊地さん:ラブストーリーは日常を描いている作品が多いから、言葉を新たに作ることはあまりなくて、そういう意味ではラブストーリーのほうが生活に近いのかも知れないね。

局長:このセリフの女心がわからないとかって、ないですか(笑)?

菊地さん:もうね、そんなのばっかり(笑)。1回だけね、ジェーン・オースティンっていうイギリスの19世紀の作家の名作で『いつか晴れた日に(原題:Sense and Sensibility)』っていうタイトルがあってね。何を間違えたか、僕に依頼がきたの。イギリスの18世紀か19世紀かを舞台にしていて、主人公が三姉妹。それに、男が一人。三姉妹だから、僕には女性皆同じ言葉になっちゃうわけ。でも、3人ともキャラクターが違うから、それじゃ本当はだめなわけで、一人ひとりしゃべり方も違わなくちゃいけない。男だったら、3人出てきたら3人全部違う言葉を使えるだけど、残念ながら、三姉妹はわからない(笑)!

局長:たしかにそうですよね。

菊地さん:逆に女性の翻訳家だったら、男3人皆同じような言葉になっちゃうんだよね。

mo:難しい。

菊地さん:日本語は特にそういうところがあって、主語も日本語は山ほどあるでしょ。英語は全部“I(アイ)”って言うけど、日本語は“私”“僕”“俺”って、全部雰囲気で変えていかなきゃいけないから、それは英語だけ読んでもわからない。“猿の惑星”の時は、この猿のIは、“俺”なのか“僕”なのか、“私”なのかって、猿の顔を見ながらすごく悩みました(笑)。

一同:あははは(笑)。

mo:そういう時は、映画制作会社の方と話し合ったりせず、翻訳家の方が決めるんですか?

菊地さん:とりあえずはね。でもそれを観て、「これはこうじゃないですか」っていうのが出てくれば、また考えるけど、基本は翻訳者が決める。

一同:へ〜。

局長:ちょっと演出家の要素が必要ですね。

菊地さん:ハハハハ。でも逆にいうと、その雰囲気を読み取ることだよね。

局長:となると、どっちの文化もわかってないと訳せないですよね?

菊地さん:うん。翻訳者っていうのは、例えばアメリカと日本があって、間に橋があるとすると、そのどこに立っているか、つまり橋の真ん中なのか、アメリカ側なのか、日本側なのかによって訳し方が全然変わってくるわけ。橋の真ん中に立っているっていうのはあんまりなくて、実はどっちかに立ってる。今は日本と外国のギャップがすごく少なくなってきて、いろんなものが大体わかる。だけど、例えば“ルートビア”って、って日本で聞くとビールかなって思うけど、向こうだと子ども向けの炭酸飲料なんだよね。で、その時にどう訳すか。カタカナでそのまま“ルートビア”って訳すと自分勝手になっちゃうし、固有名詞だけじゃないけど、そういうことって年中あって、そのたびに悩むわけだよ。でも、その時点で日本人にはわからないかも知れないけど、とりあえず輸入する。輸入することに意味がある。
例えばね、『歴史は夜作られる』っていう名作があって、『タイタニック』みたいな話なんだけど、アメリカからフランスに初航海をする船上の物語で、主人公が名シェフなわけ。この人の得意料理がブイヤベースなんだけど、この映画が公開された時代(1937年公開)に、誰もブイヤベースなんて知らないんだよね。これは清水俊二先生が翻訳したんだけど、先生は“ブイヤベース”ってそのまま翻訳したの。でも映画で「あ~、こういうのなんだ」って皆が観て、ブイヤベースが有名になったの

mo:そこからなんですね。

菊地さん:だから映画は文化を輸入するっていう役割がある。

 

今回の記事担当:らいらい
■取材しての感想
いつも洋画を観る時は字幕派で、翻訳家の方ってすごいなと漠然と感じていましたが、菊地さんのお話を聞いて本当に様々な試行錯誤をして、文字をあててるんだなと思いました。貴重な裏側のお話が聞けてとても楽しかったです。ありがとうございました。

取材日:2018年7月6日

知って得したと思えるお話がたくさん飛び出し、私達は「へ〜」「なるほど」の連発でした(笑)。次回も映画ファン必見のお話がギッシリです!→【後編を読む】

 

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映画『十年 Ten Years Japan』杉咲花/太賀/川口覚/池脇千鶴/國村隼

映画業界人インタビューVol.8株式会社フリーストーンプロダクションズ 代表取締役 高松美由紀さん(海外セールス&宣伝)【後編】

海外セールスをやりたいなら、就職先は日本だけじゃない

サン:今までで一番楽しかったのはどんなお仕事でしたか?

高松さん:全部楽しいんですよ。だから何とも言えないですけど…。映画の宣伝だと、『あん』っていう河瀨直美監督の、樹木希林さんと永瀬正敏さんを起用して撮られた映画があって、宣伝的にもすごく転機になったし、あの作品に携わったことで、 “宣伝でカンヌに行く作品を手掛ける”っていうことが、会社の目標になりました。私達が手掛ける作品をレッドカーペットにのせるっていうのが目標だったんですけど、やっぱり河瀨さんの作品ということもあって、カンヌに行かせていただいて、樹木希林さんのような素晴らしい女優さんにいろいろ助けていただいて、ものすごく勉強になりました。興行収入1億円いったら御の字だねって言われていたのが、7億以上までいったので、そういう点でも結果が出せました。河瀨さんのような、世界の舞台で百戦錬磨に働いて、自分の好きなものを追求して、身を削っってエネルギーを注げる環境を作っている女性を目の当たりにして、すごく感激しました。そういう意味で映画って優劣はないですけど、映画祭の頂点であるカンヌ国際映画祭を経験できているのは、すごく大きかったです。あとセールスで言うと、TBSに入って1年目に、『NANA』という作品をアジアで公開させた時に、香港や韓国でもプレミアをやって、現地でレッドカーペットを敷いて、現地のメディアの取材も受けてっていう仕事をやったんです。現地の配給会社とコラボレーションして、ちゃんとお金をかけてプロモーションしたっていう経験のなかで、すごく大事なことを叩き込まれたなって。血尿が出たんですけどね(笑)。売るだけじゃなく、権利を管理するだけでもなく、海外の人と一緒に「いかに映画を当てるか」というローカライゼーションに取り組むっていう点で、いろいろな段取りで涙が出るくらい交渉して、仕事の難しさ、海外の方とのやりとりの難しさとかを目の当たりにしました。ただ、それがあったから、今回『十年 Ten Years Japan』っていう映画が実現できたんです。この作品に関わっているメンバーには当時出会った香港のメンバーもいて、それこそ香港のメンターみたいな方とも、その頃からずっと同じ業界でお仕事ができているっていうのは、すごくありがたいなと思います。

局長:本当にすごいですね!やっぱりいろんな国の方とそこまでの関係を築くには英語がかなり話せないとダメですよね?

高松さん:そうですね。でも万国共通で英語は必要なんですけど、それ以前に、たぶんキャラクターじゃないですかね(笑)?物怖じせずに、「これは嫌だ」「これはこうしたい」とはっきり言える人が強いですよね。私とかはまだ全然弱いですけど、こっちの要求を聞いてもらうための交渉をしつつ、向こうの意見も聞くっていう交渉力は、たぶん海外の方と話して培われたのかなって思います。

サン:では、学生の頃にしていて今の仕事に役に立っていることはありますか?

高松さん:そうですね。いろいろな言語を勉強するようにしてました。英語だけでなく、スペイン語もそうなんですけど、やっぱり相手が自分の国の言葉をしゃべってくれると、ちょっと安心するじゃないですか。だからそういうのもお返しとして、ちょっとでも言語ができるといいなと思って、機会があれば言語をまめに勉強するようにしています。

サン:それは高校生の頃からですか?

高松さん:そうなんですよ。親に言われたんですけど、高校生の時に、本屋さんとかに行っても、私一人だけ英語でしゃべってたらしいです(笑)。覚えてないんですけど。

サン・局長:え〜!

高松さん:完全におかしいですよね。塾にも行ってましたが、高校3年生の時なんかは、授業を抜けてアメリカ大使館とかにも行ってました。図書館とかがあったので、本を見たり、留学生との交流会に積極的に参加したりっていうのは受験勉強の代わりにずっとしてました。

局長:常に、“思ったらすぐ行動!”なんですね。学生の頃にアルバイトはされてましたか?

高松さん:アメリカ留学時に、日本料理屋さんで働いてたんですけど、ボストンだったので、ミック・ジャガーやアントニオ猪木さんとかが来てましたよ。

サン・局長:めっちゃ高級店(笑)!

高松さん:あと小さい大学だったんですけど、寮長をやってました。外国人初の寮長だったらしくて、言語の問題とか大丈夫なのかなっていうのはあったんですけど、酔っぱらって吐いた人の後始末をしたり、AEDの使い方を学んだり、夏に寮長チームが集まって合宿に行ったり。それで寮費がタダになったりして。寮では毎週末パーティーがあって、非常ベルが鳴って皆外に出されるんですけど、毎回それを写真に撮ったり、かなりいい加減にやってました(笑)。

サン・局長:楽しそう(笑)。

高松さん:だから学生のうちは、ほんとに好きなことやったほうがいいと思いますよ。

局長:考えるより行動ですね。

高松さん:そう、考えるより行動です。

サン:私はやる前に考えてしまうタイプなので、挑戦していける人が羨ましいです。

高松さん:挑戦とは思ってないんですよ、私とかも。選択肢が自分の中にあまりなくて、逆に悩んでる方っていろいろ選択肢が見えてるから悩めるんだと思うんですね。私の場合は選択肢が二択しかない。だから、AかBかに向かって突っ込んでいって、ドロまみれになることもある(笑)

局長:たぶん目的があって、そこにたどり着くまでに何回失敗するかだけの話で、早く正解にたどり着ければラッキーけど、失敗を選び続けても、最終的にたどり着ければ良いんですよね。とりあえず数こなすっていうかね。

高松さん:数をこなすと選択の仕方も磨かれてくるから、こっちで失敗したから、今度はこっちかなみたいに、選択の精度が高まってきますよね。

サン:失敗したくないから、挑戦するのもなるべく効率よく目的にたどり着くようにと思っていたら、結局すごく遠回りをしちゃったり、最初からあっちに突き進んでおけば良かったなって思うことは結構あります。

高松さん:学生の方に今私が言えることって、オールマイティーじゃなくても良いと思うんですよ。失敗しても、やったらやった分だけ、得意不得意って見えてくるんですね。得意なところは集中的に伸ばしたら良いし、不得意なところはそれを得意な人を自分の仲間につけるっていうのはすごく大事です。

局長:もし日本で海外セールスのお仕事に就くとしたら、どんな方法がありますか?

高松さん:うち以外にもセールスカンパニーはいくつかあるし、配給会社の国際部に入るとか、海外のセールスカンパニーに入るっていうのも全然ありだと思うんですよね。是枝監督、河瀨監督、黒沢清監督などの作品って、日本のセールスカンパニーでは扱ってなくて、フランスの会社が全部海外の権利を持っていっちゃうんですよ。そういう会社で人脈だったり、映画業界のビジネスルートをきっちり持っているところで勉強して、日本に戻ってくるっていうのもありかもしれません。

局長:日本の映画は日本の会社が売るってわけじゃないんですね。

高松さん:そうなんです。映画は国籍があるようでないので、就職先も日本にこだわらなくても良いのかなと。もともと映画は海外国内関係なく楽しみますよね。なのに就職先が日本だけっていう考え方自体がおかしくて、視野を広げるほうが道は開けると思います。

局長:あと海外セールスを仕事にするなら、こういう性格、こういう人が向いてるというポイントはありますか?

高松さん:出張が多いので、体力勝負というのがまず一つ。あと、セールスって契約とかお金の計算とかもやらなきゃいけないので、緻密な部分と、大胆に動いて判断するっていう二面性があるんです。その場で金額を聞いて、そのままシェイクハンド(契約締結)ってこともあるんですよ。カンヌでも、現地で盛り上がって、「この映画を買います」って言ってくれる人がいたら、セールスカンパニーはその人を捕まえたいがために、契約書を明日準備するんじゃなくて、その場にある紙ナプキンに作品名と日にちとサインを書いて、相手にもそこにサインをもらうっていうくらいの瞬発力が必要だったりします。そういう大胆さを持っている人のほうが、成功しやすいというか、楽しめるんじゃないかと思いますね

サン:私は今大学三年生で、就職先としては映画業界にも興味があるんですけど、新卒は募集自体が少なくて、でも興味がある人は多くて、狭き門になっていて。英文学科で英語にも興味があるので、海外も選択肢としてはあるのかなって。

高松さん:絶対あると思います。映画業界って、すごく閉塞してるんですよね。さっき言ったみたいに縁故じゃなきゃ入りづらいとか、中途採用しかないとか。それって結構映画業界の怠慢で、忙し過ぎて人を育てられないんですよ。だから新卒から入れちゃうと、会社の負担になっちゃうんです。映画の仕事って、なんだかんだですごく感覚的なところ、クリエイティブなセンスが重要だったりするので、そういう意味で一回社会人を経験して、人間の幅が広がっている人のほうが、映画しか知らない!という人よりも我々映画業界の人は興味があります。だから違うフィールドで勉強してから映画業界に入るっていうのはアリだと思います。

局長:感覚が違う方とか、新しい風を求める風潮もありますよね。キャラがおもしろいだけで重宝される場合もありますしね(笑)。

高松さん:そう!個性上等なんですよ。

サン:では最後に、好きな映画ベストワンは何ですか?

高松さん:ベストワンか。難しいですが、『クレイマー、クレイマー』かな。ダスティン・ホフマンが主演で、メリル・ストリープと共演しているんですけど、若い男女が離婚して、シングルファーザーになった主人公が子どもを育てていくっていう、ストーリー自体はそんなに起伏がないんですけどね。役者さんの演技だったり、すべてが胸に響くんです。あと『存在の耐えられない軽さ』は素晴らしい映画です。ジュリエット・ビノシュとダニエル・デイ=ルイスが主演なんですけど、それも役者さんが素晴らしくて、総合芸術としてとてもバランスが取れていて、そういう映画を観ると、気持ちが良いなと思います。

サン・局長:ありがとうございました!

今回の記事担当:サン
■取材しての感想
高松さんの行動力溢れるパワフルなエピソードをたくさん聞くことができ、楽しかったです!自分も負けていられないなと感じました(笑)。
これから就職活動をする上で、こだわりすぎないこと、選択肢を広く持つことというお話を聞けたので、どんどん自分からアクションを起こして、ぶつかっていけるようになりたいなあと思いました。がんばります!

取材日:2018年8月3日

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★フリーストーンプロダクションズが企画、製作から携わり、配給・宣伝する作品

『十年 Ten Years Japan』

映画『十年 Ten Years Japan』杉咲花/太賀/川口覚/池脇千鶴/國村隼2018年11月3日より全国劇場公開
公式サイト
エグゼクティブ・プロデューサー:是枝裕和
監督・脚本:早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶
出演:杉咲花/太賀/川口覚/池脇千鶴/國村隼
配給:フリーストーン

香港で社会現象となったオムニバス映画『十年』をもとにした、“十年 Ten Years International Project”の日本版。日本、タイ、台湾、各国5名の新鋭映像作家が独自の目線で10年後の社会、人間を描く国際共同プロジェクト。『万引き家族』で、日本人監督として史上4人目、21年ぶりのパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督が、初めてオムニバス映画の総合監修を務める。
©2018 “Ten Years Japan” Film Partners

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