映画業界人インタビューVol.8株式会社フリーストーンプロダクションズ 代表取締役 高松美由紀さん(海外セールス&宣伝)【後編】

  • 0
映画『十年 Ten Years Japan』杉咲花/太賀/川口覚/池脇千鶴/國村隼

映画業界人インタビューVol.8株式会社フリーストーンプロダクションズ 代表取締役 高松美由紀さん(海外セールス&宣伝)【後編】

海外セールスをやりたいなら、就職先は日本だけじゃない

サン:今までで一番楽しかったのはどんなお仕事でしたか?

高松さん:全部楽しいんですよ。だから何とも言えないですけど…。映画の宣伝だと、『あん』っていう河瀨直美監督の、樹木希林さんと永瀬正敏さんを起用して撮られた映画があって、宣伝的にもすごく転機になったし、あの作品に携わったことで、 “宣伝でカンヌに行く作品を手掛ける”っていうことが、会社の目標になりました。私達が手掛ける作品をレッドカーペットにのせるっていうのが目標だったんですけど、やっぱり河瀨さんの作品ということもあって、カンヌに行かせていただいて、樹木希林さんのような素晴らしい女優さんにいろいろ助けていただいて、ものすごく勉強になりました。興行収入1億円いったら御の字だねって言われていたのが、7億以上までいったので、そういう点でも結果が出せました。河瀨さんのような、世界の舞台で百戦錬磨に働いて、自分の好きなものを追求して、身を削っってエネルギーを注げる環境を作っている女性を目の当たりにして、すごく感激しました。そういう意味で映画って優劣はないですけど、映画祭の頂点であるカンヌ国際映画祭を経験できているのは、すごく大きかったです。あとセールスで言うと、TBSに入って1年目に、『NANA』という作品をアジアで公開させた時に、香港や韓国でもプレミアをやって、現地でレッドカーペットを敷いて、現地のメディアの取材も受けてっていう仕事をやったんです。現地の配給会社とコラボレーションして、ちゃんとお金をかけてプロモーションしたっていう経験のなかで、すごく大事なことを叩き込まれたなって。血尿が出たんですけどね(笑)。売るだけじゃなく、権利を管理するだけでもなく、海外の人と一緒に「いかに映画を当てるか」というローカライゼーションに取り組むっていう点で、いろいろな段取りで涙が出るくらい交渉して、仕事の難しさ、海外の方とのやりとりの難しさとかを目の当たりにしました。ただ、それがあったから、今回『十年 Ten Years Japan』っていう映画が実現できたんです。この作品に関わっているメンバーには当時出会った香港のメンバーもいて、それこそ香港のメンターみたいな方とも、その頃からずっと同じ業界でお仕事ができているっていうのは、すごくありがたいなと思います。

局長:本当にすごいですね!やっぱりいろんな国の方とそこまでの関係を築くには英語がかなり話せないとダメですよね?

高松さん:そうですね。でも万国共通で英語は必要なんですけど、それ以前に、たぶんキャラクターじゃないですかね(笑)?物怖じせずに、「これは嫌だ」「これはこうしたい」とはっきり言える人が強いですよね。私とかはまだ全然弱いですけど、こっちの要求を聞いてもらうための交渉をしつつ、向こうの意見も聞くっていう交渉力は、たぶん海外の方と話して培われたのかなって思います。

サン:では、学生の頃にしていて今の仕事に役に立っていることはありますか?

高松さん:そうですね。いろいろな言語を勉強するようにしてました。英語だけでなく、スペイン語もそうなんですけど、やっぱり相手が自分の国の言葉をしゃべってくれると、ちょっと安心するじゃないですか。だからそういうのもお返しとして、ちょっとでも言語ができるといいなと思って、機会があれば言語をまめに勉強するようにしています。

サン:それは高校生の頃からですか?

高松さん:そうなんですよ。親に言われたんですけど、高校生の時に、本屋さんとかに行っても、私一人だけ英語でしゃべってたらしいです(笑)。覚えてないんですけど。

サン・局長:え〜!

高松さん:完全におかしいですよね。塾にも行ってましたが、高校3年生の時なんかは、授業を抜けてアメリカ大使館とかにも行ってました。図書館とかがあったので、本を見たり、留学生との交流会に積極的に参加したりっていうのは受験勉強の代わりにずっとしてました。

局長:常に、“思ったらすぐ行動!”なんですね。学生の頃にアルバイトはされてましたか?

高松さん:アメリカ留学時に、日本料理屋さんで働いてたんですけど、ボストンだったので、ミック・ジャガーやアントニオ猪木さんとかが来てましたよ。

サン・局長:めっちゃ高級店(笑)!

高松さん:あと小さい大学だったんですけど、寮長をやってました。外国人初の寮長だったらしくて、言語の問題とか大丈夫なのかなっていうのはあったんですけど、酔っぱらって吐いた人の後始末をしたり、AEDの使い方を学んだり、夏に寮長チームが集まって合宿に行ったり。それで寮費がタダになったりして。寮では毎週末パーティーがあって、非常ベルが鳴って皆外に出されるんですけど、毎回それを写真に撮ったり、かなりいい加減にやってました(笑)。

サン・局長:楽しそう(笑)。

高松さん:だから学生のうちは、ほんとに好きなことやったほうがいいと思いますよ。

局長:考えるより行動ですね。

高松さん:そう、考えるより行動です。

サン:私はやる前に考えてしまうタイプなので、挑戦していける人が羨ましいです。

高松さん:挑戦とは思ってないんですよ、私とかも。選択肢が自分の中にあまりなくて、逆に悩んでる方っていろいろ選択肢が見えてるから悩めるんだと思うんですね。私の場合は選択肢が二択しかない。だから、AかBかに向かって突っ込んでいって、ドロまみれになることもある(笑)

局長:たぶん目的があって、そこにたどり着くまでに何回失敗するかだけの話で、早く正解にたどり着ければラッキーけど、失敗を選び続けても、最終的にたどり着ければ良いんですよね。とりあえず数こなすっていうかね。

高松さん:数をこなすと選択の仕方も磨かれてくるから、こっちで失敗したから、今度はこっちかなみたいに、選択の精度が高まってきますよね。

サン:失敗したくないから、挑戦するのもなるべく効率よく目的にたどり着くようにと思っていたら、結局すごく遠回りをしちゃったり、最初からあっちに突き進んでおけば良かったなって思うことは結構あります。

高松さん:学生の方に今私が言えることって、オールマイティーじゃなくても良いと思うんですよ。失敗しても、やったらやった分だけ、得意不得意って見えてくるんですね。得意なところは集中的に伸ばしたら良いし、不得意なところはそれを得意な人を自分の仲間につけるっていうのはすごく大事です。

局長:もし日本で海外セールスのお仕事に就くとしたら、どんな方法がありますか?

高松さん:うち以外にもセールスカンパニーはいくつかあるし、配給会社の国際部に入るとか、海外のセールスカンパニーに入るっていうのも全然ありだと思うんですよね。是枝監督、河瀨監督、黒沢清監督などの作品って、日本のセールスカンパニーでは扱ってなくて、フランスの会社が全部海外の権利を持っていっちゃうんですよ。そういう会社で人脈だったり、映画業界のビジネスルートをきっちり持っているところで勉強して、日本に戻ってくるっていうのもありかもしれません。

局長:日本の映画は日本の会社が売るってわけじゃないんですね。

高松さん:そうなんです。映画は国籍があるようでないので、就職先も日本にこだわらなくても良いのかなと。もともと映画は海外国内関係なく楽しみますよね。なのに就職先が日本だけっていう考え方自体がおかしくて、視野を広げるほうが道は開けると思います。

局長:あと海外セールスを仕事にするなら、こういう性格、こういう人が向いてるというポイントはありますか?

高松さん:出張が多いので、体力勝負というのがまず一つ。あと、セールスって契約とかお金の計算とかもやらなきゃいけないので、緻密な部分と、大胆に動いて判断するっていう二面性があるんです。その場で金額を聞いて、そのままシェイクハンド(契約締結)ってこともあるんですよ。カンヌでも、現地で盛り上がって、「この映画を買います」って言ってくれる人がいたら、セールスカンパニーはその人を捕まえたいがために、契約書を明日準備するんじゃなくて、その場にある紙ナプキンに作品名と日にちとサインを書いて、相手にもそこにサインをもらうっていうくらいの瞬発力が必要だったりします。そういう大胆さを持っている人のほうが、成功しやすいというか、楽しめるんじゃないかと思いますね

サン:私は今大学三年生で、就職先としては映画業界にも興味があるんですけど、新卒は募集自体が少なくて、でも興味がある人は多くて、狭き門になっていて。英文学科で英語にも興味があるので、海外も選択肢としてはあるのかなって。

高松さん:絶対あると思います。映画業界って、すごく閉塞してるんですよね。さっき言ったみたいに縁故じゃなきゃ入りづらいとか、中途採用しかないとか。それって結構映画業界の怠慢で、忙し過ぎて人を育てられないんですよ。だから新卒から入れちゃうと、会社の負担になっちゃうんです。映画の仕事って、なんだかんだですごく感覚的なところ、クリエイティブなセンスが重要だったりするので、そういう意味で一回社会人を経験して、人間の幅が広がっている人のほうが、映画しか知らない!という人よりも我々映画業界の人は興味があります。だから違うフィールドで勉強してから映画業界に入るっていうのはアリだと思います。

局長:感覚が違う方とか、新しい風を求める風潮もありますよね。キャラがおもしろいだけで重宝される場合もありますしね(笑)。

高松さん:そう!個性上等なんですよ。

サン:では最後に、好きな映画ベストワンは何ですか?

高松さん:ベストワンか。難しいですが、『クレイマー、クレイマー』かな。ダスティン・ホフマンが主演で、メリル・ストリープと共演しているんですけど、若い男女が離婚して、シングルファーザーになった主人公が子どもを育てていくっていう、ストーリー自体はそんなに起伏がないんですけどね。役者さんの演技だったり、すべてが胸に響くんです。あと『存在の耐えられない軽さ』は素晴らしい映画です。ジュリエット・ビノシュとダニエル・デイ=ルイスが主演なんですけど、それも役者さんが素晴らしくて、総合芸術としてとてもバランスが取れていて、そういう映画を観ると、気持ちが良いなと思います。

サン・局長:ありがとうございました!

今回の記事担当:サン
■取材しての感想
高松さんの行動力溢れるパワフルなエピソードをたくさん聞くことができ、楽しかったです!自分も負けていられないなと感じました(笑)。
これから就職活動をする上で、こだわりすぎないこと、選択肢を広く持つことというお話を聞けたので、どんどん自分からアクションを起こして、ぶつかっていけるようになりたいなあと思いました。がんばります!

取材日:2018年8月3日

→【前編に戻る】

★フリーストーンプロダクションズが企画、製作から携わり、配給・宣伝する作品

『十年 Ten Years Japan』

映画『十年 Ten Years Japan』杉咲花/太賀/川口覚/池脇千鶴/國村隼2018年11月3日より全国劇場公開
公式サイト
エグゼクティブ・プロデューサー:是枝裕和
監督・脚本:早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶
出演:杉咲花/太賀/川口覚/池脇千鶴/國村隼
配給:フリーストーン

香港で社会現象となったオムニバス映画『十年』をもとにした、“十年 Ten Years International Project”の日本版。日本、タイ、台湾、各国5名の新鋭映像作家が独自の目線で10年後の社会、人間を描く国際共同プロジェクト。『万引き家族』で、日本人監督として史上4人目、21年ぶりのパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督が、初めてオムニバス映画の総合監修を務める。
©2018 “Ten Years Japan” Film Partners

関連記事:
インタビュー一覧


About Author

局長

私も学生の頃に、こんな企画があったらやってみたかったな〜という思いも込めて立ち上げました。学生の間にしかできない体験をしてもらい、その体験を通して発せられる情報が、映画ファンの拡大に繋がればステキだなと思います。学生の皆さんだからこそ出てくるアイデアやエネルギーに触れて、私達スタッフも一緒に宣伝を楽しみたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします! 私は物心がついた頃から映画が大好きで、大学を卒業すると同時に大阪から上京し、ただ映画が好きという気持ちだけで突っ走ってきました。これまで出会った多くの方のおかげで、今は大好きな映画のお仕事をさせて頂いています。地方の学生の皆さんもぜひ参加してください。課題以外でも、皆さんと集まってお話ができる機会も作りたいと思いますし、少しでも皆さんの将来のお役に立てれば嬉しいです。

Leave a Reply