Monthly Archives: 9月 2018

  • 0
映画『フィフティ・シェイズ・フリード』ダコタ・ジョンソン/ジェイミー・ドーナン

映画業界人インタビューVol.8株式会社フリーストーンプロダクションズ 代表取締役 高松美由紀さん(海外セールス&宣伝)【前編】

【映画業界の方にインタビュー】第8弾は、エージェントのサンが担当。今回も2回に渡ってお届けします。

留学中に大好きな日本人監督の作品が観られなくて、今の仕事を志した

サン:海外セールスのお仕事の具体的な内容を教えてください。

高松さん:簡潔にいうと、日本映画を海外に広める仕事なんですが、世間一般的には、弊社はセールスカンパニーって言われる会社になります。日本では、セールスカンパニーっていう名称はあまり広まってはいないんですけど、海外では、映画業界の中で一番重要なポジションを占めていて、彼らがいなければ、映画は世界に配給されることもないですし、映画祭に出品することもできません。そういう意味では、なぜ日本ではセールスカンパニーがそれほど大々的にビジネスとして成り立たないんだろうって、不思議でしょうがないのですが、それがきっかけで会社を作りました。

局長:確かに日本では、セールスカンパニーって言われる会社はあまり表に出てきていないですね。

高松さん:そうなんですよ、それこそ是枝裕和監督、河瀨直美監督、北野武監督、黒沢清監督など、名だたる監督がいらっしゃるなか、昔は海外ではそういう日本映画へのアクセスが無かったんです。私はもともと伊丹十三さんの作品がすごく好きなんですが、『たんぽぽ』以外は普通のDVDショップ等でDVDを見たことがなく、海外留学をしていた時は最新の日本映画なども観られなかったんですよ。アメリカの片田舎には全然情報が入ってこなくて、日本映画を海外に出していくっていう仕事をやりたいなと思いました。海外の経験を日本に持ってきたという形です。

局長:いつ頃からいつ頃まで留学されてたんですか?

高松さん:高校を卒業して2週間後にはもう海外に渡って、語学学校を経て大学に行ったんですけど、その間にもアメリカからスペインやイギリスへ留学したり、留学システムにポーンと入ったので、寄り道して合計5年くらいいました。

局長:留学を決めたのは、何がきっかけだったんですか?

高松さん:ベトナムのベトちゃんとドクちゃんっていう、枯葉剤の影響で、身体がくっついたまま生まれてきた双子がいて、彼らが成長するにあたり、手術しなきゃいけなくなったんです。その手術ができる高度な技術を持っているのが日本の医療と言われており、確か日本とベトナムの医療機関の国交がちゃんと結ばれておらず、日本の医者が現地で施術できなかったんです。「なんじゃそりゃ!」と。それだけの問題で人の命が左右されるのかと思うと不思議な気がしていて、高校の頃に外務省に直接連絡して「おかしいと思います!」って訴えたことがあります。そこから、国連の職員になったら、そういうことが変えられるのかなと思って、高校の頃からはずっとアメリカに行きたいなとは思っていました。映画とは全然関係ない仕事を最初はしたいと思ってたんです。

局長:でもやっぱり日本と海外を繋ぐっていうところが、最初からあったんですね。

高松さん:そうですね。大学を卒業して、大学院のクラスを取っていた時に、学校帰りにボストンの小さな映画館で黒澤明監督の『羅生門』を観たんですね。周りのアメリカ人がすごく喜んで感動している姿を見て、「ああ、国境ってこんな風にすぐ超えられるんだ」って思って、映画の仕事をしようとすぐ切り替えて、東京FMが出版していた、エンタメ業界の名簿本を親から送ってもらいました。当時は個人情報の扱いも緩かったので(笑)。

局長:そうそう。企業がずらっと載った本、昔は売ってましたね!

高松さん:今となっては…なんですけど、その本に載っている映画業界の企業を一から全部あたりました。

局長:すごーい!

高松さん:留学中だったので、日本の就職戦線を全く知らないまま、アポなしで20枚くらいの履歴書持って、神戸の実家から帰国早々新幹線に乗って、全部映画会社を回ったんです。

サン:すごい…!

高松さん:その時に出会った、ある会社の人事の方に、「映画業界に入るんだったら、末端の宣伝を勉強したほうが良いよ」って言われて、その日に神戸に戻ってすぐに宣伝会社を全部当たって、全滅して。その方に「映画業界って縁故が多いから、君みたいな若い子は入れないよ」とも言われて、もう一周したので無理かなと思いましたが、宣伝会社をもう一回あたって、それでも空きがなければ諦めようって連絡したら、たまたま一か所、「今日、実は退職願を出した人がいるから、来週会いに来てくれますか?」って言われたんです。それで次の週にまた新幹線に乗って、その宣伝会社に行って面接して、その翌週から働き始めたんです。

局長:ドラマチック!

高松さん:ほんとに右も左もわからない状況でしたが、今考えたらよくやったなって思います。

局長:でも何も知らなかったからこそ、逆に良かったのかも知れないですね。

高松さん:そうなんですよ!人の意見を純粋に聞いていたので、迷いはなかったです。宣伝会社の社長に「君はガンダムが好きか?」って聞かれて、「シャアが好きです」って言ったら、「じゃあ採用!」って。入ったらすぐにガンダムの宣伝が待っていたっていう(笑)。失うものがないから、できたのかも知れないですよね。

局長:じゃあ最初は宣伝だけをやってたんですね。

高松さん:そう、でもその頃もやっぱり将来的には海外セールスをやりたいと思っていたので、その後いろいろ宣伝をやらせて頂いてから何年後かに、ちょうどTBSさんが『世界の中心で、愛を叫ぶ』っていう映画で約75億円の興行収入を記録したんです。日本の映画界でも、ちょっとした激震が起こって、その辺りから、日本映画も海外で売れるんじゃないかという機運が生まれて、(TBSの)今までテレビ番組を売ってた部署に、映画を売るチームを特別編成することになって、そこに入らせて頂いて。宣伝をやっていたことは、セールスの仕事にもすごく役立ったし、就活の際に言われたアドバイスは本当だったなと思いました。

サン:「宣伝から入って」っていうところですね。

高松さん:そう、間違ってなかった。その経験があるので、うちのスタッフには必ず全員一度宣伝をやらせるんですよ。

局長:なるほど。『世界の中心で愛を叫ぶ』をきっかけに転職されて、海外セールスも手掛けるようになったんですね。

高松さん:そうですね。その頃ちょうど、いわゆるテレビ映画って言われる作品の全盛期だったんです。それこそ『NANA』『日本沈没』『木更津キャッツアイ』とか、テレビから派生した映画を、テレビ局がお金をかけて作って、それがアジアでどんどん売れていたんです。一年後くらいに、日テレさんが本格的に『デスノート』『20世紀少年』などをバンバン海外に売るという時期があったので、その頃が一番アジアで日本映画のバブルがありました。

局長:その頃から、他にも海外セールスをやっていた会社はあったんですか?

高松さん:ありました。海外セールスって、実はずっと昔からあるんですよ。ただ、大手の映画会社さんでは、国際部がその役目を担っていて、例えば東宝さんの国際部が『ゴジラ』の権利とか、黒澤明監督作品の権利とかを管理しているんです。TBSさんが民放で初めてカンヌ国際映画祭の展示会で単独のブースを立ち上げて、そこからどんどん、いろんな会社さん、テレビ局さんが単独ブースを出すようになって、自身の映画を売るっていう仕事が本格化してきたという感じです。

取材日:2018年8月3日

本当にすごい行動力で、たくさん刺激を頂きました。まだまだ、濃厚なお話を聞いています。ぜひ続きをお読みください。→【後編を読む】

★高松さんが宣伝担当の作品

『フィフティ・シェイズ・フリード』

映画『フィフティ・シェイズ・フリード』ダコタ・ジョンソン/ジェイミー・ドーナン

2018年10月5日より全国劇場公開
公式サイト
監督:ジェームズ・フォーリー
出演: ダコタ・ジョンソン/ジェイミー・ドーナン/エリック・ジョンソン/リタ・オラ/マーシャ・ゲイ・ハーデン
配給:東宝東和

全世界で累計発行部数1億冊を越え、世界中の女性を虜にしたE L ジェイムズのデビュー小説を映画化した、“フィフティ・シェイズ”シリーズの最終章。本作は北米を含む世界54地域で初登場1位を記録し、全世界シリーズ累計興収は13億1900万ドル(約1500億円=1ドル113円換算)という大記録を樹立。超豪華なセレブ生活のキラキラと、王道ラブストーリーの究極版が楽しめる。
©2017 UNIVERSAL STUDIOS

関連記事:
インタビュー一覧


  • 0

映画業界人インタビューVol.7 ぴあフィルムフェスティバル(PFF) ディレクター 荒木啓子さん【後編】

皆と同じことをやってたら絶対ダメ

局長:今年の作品にトレンドを感じる部分はありましたか?

荒木さん:応募作品を拝見する過程で、今年はこういう題材が多いねっていうのはありますけど、トレンドになるほど力のある映画はなかなかありません。ヒットするものって一つ突出してるんですよ。極端に言えば、人と違うことをやらない限り、良いものは生まれません。皆と同じことをやってたら絶対ダメ。どんな世界でもダメ。あ、それは過去の名作の名シーンをコピーしちゃダメとかのレベルの話ではないですよ。コピーは創作の基本ですからね。自分にしかできないことをやる、ってことです。そのことを、どうしてちゃんと皆はっきり認識してないのかなって思います。誰もが褒めるものは、創作においては、誰もがどうでもいいと思っているのと同義語なんですよ。それは本当に確かなことなので、皆さんも誰もが良いってものは、意識的に避けたほうが良いですよ。人生の毒になります(笑)。

局長:深い。

らいらい:では学生の頃にやっていて、今仕事に役立っている経験はありますか?

荒木さん:何もないですね。というのも、基本的に0から何かを作らなきゃいけない仕事なので、毎日毎日考えなきゃいけいないことがあって、過去のことで役に立つことはなくなっていくんですよ。常に何かを作るというのはそういうことで、映画監督も同じだと思います。毎日料理を作っていたら段取りがうまくなるとか、カンが育つとか、そういう慣れはあると思いますが、構築するってことに関しては、学生時代にこれをやっとけばということはないですね。ただ、今の学生ってがんじがらめじゃないですか。出欠や課題やカリキュラムや、息つく間がない。ただ学割があるとか、友達が見つけやすいとかそのくらいじゃないですか、学生の利点。本当に気の毒だと思います。例えば、入選した大学生からの「講義を抜けられないから出れません」とかの言葉に触れると、今の学生は全然自由じゃないと思うし、学生を自由にさせない空気がありますよね。

ミミミ:その言葉に救われます(笑)。

映画業界の方にインタビュー:ぴあフィルムフェスティバル(PFF) ディレクター 荒木啓子さん荒木さん:学生だからこそできることって言っても、現実的に日本ではレンジが狭いから、世界との競争力がない。あまりにも常識が違うから、世界に出た時に勝負ができない。そこの危機感を持ったほうが良いと思います。一体自分はどこの分野でどんな生活がしたいのかっていうイメージを独自に描いていくためにも、映画はたくさん観たほうが良いです。映画って、世界の状況がかなりダイレクトに伝わるから、将来官僚になるような学生は年間100本映画を観なくちゃいけないってなればいいと思ってます(笑)。想像力がない人はせめて映画を観ないとって。

らいらい:このお仕事は続けたいと思いますか?

荒木さん:続けたいっていうのはないですね。でも、「今回これがやれなかったから、次これをやらなくちゃ」って思っているあいだは続けていると思います。PFFという映画祭は「続ける」ってことが使命ですが、PFFディレクターという仕事は、続けることが目的じゃない。やりたいこととか、アイデアがないのに、このポジションにいたらすごく迷惑じゃないですか。あ、話変わりますが、そういう状況でも続ける上司のために、会社の人間関係で悩んでるとか、学校の人間関係で悩んでるとか、そんな悩みはすぐ捨てたほうが良いです。逃げればいいんだから。

らいらい:やりたいことをやるべき?

第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)最終審査員:佐藤公美/大九明子/佐藤信介/冨永昌敬/生田斗真

荒木さん:そう。絶対理解者がいるから。あらゆる人が“嫌なことを我慢しない”って決めた時に、そこにちゃんと自分の理想があれば、世の中はダメにならないと思ってます。理想がないから、こうなってる。

ミミミ:今まで出会った方で印象に残っている方はいますか?ずっとその方の言葉が残っているとか、ふとした時に言葉を思い出すとか?

荒木さん:ホウ・シャオシェンっていう台湾の巨匠がいて、『悲情城市』という映画があるんです。ぴあも制作に一部関わっている作品です。その作品のアフタートークでのホウ・シャオシェンの話がすごく素晴らしくて。そこに一つの物語ができあがっているというか、それを聞いた時に映画監督ってすごいなと思いました。監督は映画を作るだけで充分。さらに話さなくてもいいじゃないか、という方もおられますが、さらに話せるとどんなに素晴らしいかって言い続けてます。映画監督って素晴らしい人間で、並外れてるっていうことを、全身で表現する人であって欲しい。ホウ・シャオシェンはそれをすごく具体的に見せてくれたかなと思います。

 

今回の記事担当:らいらい
■取材しての感想
とてもカッコ良い女性で、お話していても興味深いお話ばかりでした。ぴあフィルムフェスティバル(PFF)もさまざまな視点で楽しめそうです。自分の将来についても考えさせられました。荒木さんのようにバリバリ仕事がこなせるような女性になりたいです!!貴重なお時間をありがとうございました!

取材日:2018年7月18日

【前編に戻る】

第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)

★ 第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)

会期:2018年9月8日(土)~22日(土)※月曜休館
会場:国立映画アーカイブ→こちら
公式サイト 
学生当日券は500円!

■今までの主なPFFアワード入選監督
黒沢清、園子温、成島出、塚本晋也、橋口亮輔、中村義洋、佐藤信介、熊切和嘉、李相日、石井裕也など

関連記事:
インタビュー一覧

 


  • 0
学生映画宣伝局:2018プロジェクト打合せ

学生が主役のイベントを実施します!

実は、今年夏から秋に向けて実施のつもりで、この春から企画を練ってきましたが、いろいろな壁にぶつかり、「このままではいかん!」ということで、当初の内容からガラッと変えて、原点回帰し、イベントを実施することに決めました!

詳細はこれから急ピッチで決めて、準備を進めていきますが、イベント名や内容、日程、場所などは追って、随時情報を発信していきます。

ぜひ、応援よろしくお願いします!

学生映画宣伝局:2018プロジェクト打合せ

たまたま女子ばっかり(笑)。このプロジェクトには他に2名のエージェントがいます。