映画業界人インタビューVol.7 ぴあフィルムフェスティバル(PFF) ディレクター 荒木啓子さん【前編】

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第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)最終審査員:佐藤公美/大九明子/佐藤信介/冨永昌敬/生田斗真

映画業界人インタビューVol.7 ぴあフィルムフェスティバル(PFF) ディレクター 荒木啓子さん【前編】

【映画業界の方にインタビュー】第7弾は、エージェントのらいらいと、ミミミが担当します。今回も2回に渡ってお届けします。

目標は、満員電車に乗らなくて良い生活(笑)

ミミミ:この業界に入ろうと思ったきっかけと、どういう経緯で入られたのかを教えてください。

荒木さん:ある女性の映画プロデューサーから、女性だけで映画を作りたいので、アシスタントプロデューサーになってくれないかと言われたんです。で、「良いですよ」って。その仕事をやっている時に、映画の現場に来た方が、PFFの方達とすごく親しくって、なぜだか「絶対PFFに向いてるから、紹介するから会いに行け」って言われたんです。それまで、ぴあフィルムフェスティバルに熱心に通っていたわけではありませんでしたが、好きな監督の石井聰亙(現在の名称:石井岳龍)って確かPFF出身だったなと思って、彼に会えるかもってことで。ってのは冗談です(笑)。

一同:ハハハハ。

荒木さん:それで会いに行ったら、一緒に仕事をやりましょうという話になって、2年後にディレクターになりませんかと言われて、今日に至ります。ディレクターというのは映画祭の役職の専門用語で、やっていることはプロデューサーなんです。企画運営して、構築していくっていう。完成形をイメージして具体的にしていくっていう仕事ですよね。

局長:こういう映画祭の仕事が最初からしたいという若者がいた場合、そこに直接入るって方法はあるんですか?

荒木さん:どんな仕事も入りたい人はすぐ入れると思いますよ。別に全然敷居は高くないと思います。残念ながら衰退産業ですから(笑)。

ミミミ:ビッグネームになるかは置いておいてってことですよね?

荒木さん:というか、それが想像した仕事と同じかどうか。自分に向いた仕事かどうかっていうのはすごくあると思いますけどね。仕事内容の具体的なイメージがないでしょ?

ミミミ:確かに。

荒木さん:映画の仕事をしたいって言ったときに、何がしたいのかって実はよくわかってなかったりするでしょ(笑)?何がしたいですか?

らいらい:私は映画宣伝がしたいと思っているんですけど。

荒木さん:映画宣伝ね、本当に人がいないから、今日からでも仕事はありますよ。

らいらい:ほんとですか!?

荒木さん:いっくらでもありますよ。それで食べていけるかは置いておいて、今日からでも手伝ってくださいっていう人はいっぱいいます。って、今日はそんなインタビューじゃないですね(笑)。

一同:(笑)。

ミミミ:アシスタントプロデューサーをやっていらっしゃった頃は、プロデューサーを目指してましたか?

荒木さん:いいえ(笑)。私は求められる所には断らず行くんです。知らない世界だし、誰かの助けになるならやってみよっかなと思って、入った感じです。

ミミミ:気の向くままという感じだったんですね(笑)。当時、何か目標はありましたか?

荒木さん:目標はありましたよ。満員電車に乗らなくて良い生活(笑)。

局長:そこは大事ですね(笑)。

一同:(笑)。

第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)最終審査員:佐藤公美/大九明子/佐藤信介/冨永昌敬/生田斗真

第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)最終審査員:佐藤公美/大九明子/佐藤信介/冨永昌敬/生田斗真

局長:実際にこのPFFで荒木さんがやってらっしゃるお仕事の内容って、ざっくり言うとどんなことなのでしょうか?

荒木さん:すべてです(笑)。ざっくり言うと、PFFはどうあるべきか、そのために何をするかを考えて、実行することですね。

局長:今回で40回目とのことですが、変化したことはありますか?

荒木さん:変化っていうのは、時代や社会状況と共に起きることなので、自ら変化させようって思うのではなく、今この時にはこれが必要だっていう風にやっていくことだと思います。たぶん、意図的に今年はこうだからこうしましょうってものではなくて、10年くらい前を振り返れば、変化がわかる、という感じですね。映画ってその時代に根ざしてないと全く魅力が無くて。でもそれを超えて、強い力を持つものだけが歴史的に残るわけで、私達が欲しいのは、普遍的な力を持つ映画なんですけど、そういう映画ってどんなものなのかなって考えながら、同時に今しかできないことは何なのか、今必要なことは何なのかを考えていきます。PFFは自主映画のために始まったんですが、昔は映研(映画研究会)っていうのがあったんですよ。噂によると、映画研究会は、大学、高校、中学にもあったんですが、60年代から80年代くらいまでは、映画を作ることは一つの活動としてすごくかっこ良かったんでしょうね。だから、皆8ミリフィルムで映画を作ろうとしていたわけで、あらゆる大学に、映画を作る、観る、あるいは上映するっていう映画研究会が山のようにあった中で、天才的って言われる人達が出てきたんです。そういう時代には「映画監督」はもう、かつてのように映画会社での雇用はなくなっていた、つまり「職業」としての保証はないのに、映画を作ることに夢中になっていた人がたくさんいました。ぴあという会社は、そういう映画研究会にいた大学生5人が作ったんです。

一同:そうなんですか!

荒木さん:そうなんですよ。彼等は自分達も映研で映画監督を目指してたけど、どうやらあまり才能がないらしいということで…(笑)。だけど、映画がすごく好きで、毎日でも映画が観たいと思っていた時に、最初に東京中の映画と演劇とコンサートのスケジュールが載っている「ぴあ」という雑誌を作りました。想像するのは難しいと思いますが、当時はインターネットもなくて、新聞にすごく小さく、何の映画がどこでやっているかが載っているくらいで、あとは映画館に直接電話して聞くしかなかった時代です。その時に、「ぴあ」という雑誌が爆発的にヒットして、つまり、大学生起業家として成功して、このお金をどうしましょうっていった時に、映画祭をやりたいと思ったわけです。そこで自分達が天才だと思っている映画監督の8ミリフィルムで撮った映画を、映画館でちゃんと上映して、ちゃんとそれを多くの人に見せたいと考えて、ここからどんどんデビューしていって欲しいという映画祭を始めたんです。それが今も続いていて、最初のスピリッツは全く変わっていません。それを絶対にぶらさないで、いわゆる大成功している“スター・ウォーズ”のような映画も、無名の学生が作った映画も完全に平等で、映画は映画、映画を作る人は皆同じだっていうベースがあるんです。ベースが変わらないところが、PFFがこれだけ続いてるっていうことで、こんな映画祭は世界中どこを探してもありません。

 

今回の記事担当:ミミミ
■取材しての感想
PFFに去年一般審査員として参加してみて、商業映画じゃない映画でもこれだけ力があり、見応えがあるのかと感動したのは忘れられません。今回荒木さんに取材をして、ノミネート作品を全部観た時のあの感動は、PFFの方の熱い映画への思いや地道に丁寧に選考をしていくという手間のかかったものが、生み出している要因でもあったのかと、とても胸が熱くなりました。大学生が裸一貫から立ち上げた“ぴあ”という会社、PFFという映画祭がこうして今もなお映画制作に情熱を注ぐ若い人達に受け継がれているというのは、とても素晴らしいことだとも思いますし、これからもずっと続いていって欲しいと思いました。今回は「新人発掘」という視点での映画の話を聞けたことはとても興味深く、一つの経験にもなりました。荒木さん、たくさんの有意義なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。私も「満員電車に乗らない生活」目指したいです(笑)。

取材日:2018年7月18日

 

「ぴあ」創設のお話から、PFFの成り立ちまでお聞きして、映画を直接作るわけではなくても、映画に携わる道はいろいろあるのだなと思いました。とても豪快で明るいお話ぶりが印象的な荒木さん。後編も荒木さん節が炸裂です。→【後編を読む】

 

★ 第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)★第40回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)

会期:2018年9月8日(土)~22日(土)※月曜休館
会場:国立映画アーカイブ→こちら
公式サイト
学生当日券は500円!

■今までの主なPFFアワード入選監督
黒沢清、園子温、成島出、塚本晋也、橋口亮輔、中村義洋、佐藤信介、熊切和嘉、李相日、石井裕也など

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About Author

局長

私も学生の頃に、こんな企画があったらやってみたかったな〜という思いも込めて立ち上げました。学生の間にしかできない体験をしてもらい、その体験を通して発せられる情報が、映画ファンの拡大に繋がればステキだなと思います。学生の皆さんだからこそ出てくるアイデアやエネルギーに触れて、私達スタッフも一緒に宣伝を楽しみたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします! 私は物心がついた頃から映画が大好きで、大学を卒業すると同時に大阪から上京し、ただ映画が好きという気持ちだけで突っ走ってきました。これまで出会った多くの方のおかげで、今は大好きな映画のお仕事をさせて頂いています。地方の学生の皆さんもぜひ参加してください。課題以外でも、皆さんと集まってお話ができる機会も作りたいと思いますし、少しでも皆さんの将来のお役に立てれば嬉しいです。