映画業界人インタビューVol.8株式会社フリーストーンプロダクションズ 代表取締役 高松美由紀さん(海外セールス&宣伝)【前編】

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映画『フィフティ・シェイズ・フリード』ダコタ・ジョンソン/ジェイミー・ドーナン

映画業界人インタビューVol.8株式会社フリーストーンプロダクションズ 代表取締役 高松美由紀さん(海外セールス&宣伝)【前編】

【映画業界の方にインタビュー】第8弾は、エージェントのサンが担当。今回も2回に渡ってお届けします。

留学中に大好きな日本人監督の作品が観られなくて、今の仕事を志した

サン:海外セールスのお仕事の具体的な内容を教えてください。

高松さん:簡潔にいうと、日本映画を海外に広める仕事なんですが、世間一般的には、弊社はセールスカンパニーって言われる会社になります。日本では、セールスカンパニーっていう名称はあまり広まってはいないんですけど、海外では、映画業界の中で一番重要なポジションを占めていて、彼らがいなければ、映画は世界に配給されることもないですし、映画祭に出品することもできません。そういう意味では、なぜ日本ではセールスカンパニーがそれほど大々的にビジネスとして成り立たないんだろうって、不思議でしょうがないのですが、それがきっかけで会社を作りました。

局長:確かに日本では、セールスカンパニーって言われる会社はあまり表に出てきていないですね。

高松さん:そうなんですよ、それこそ是枝裕和監督、河瀨直美監督、北野武監督、黒沢清監督など、名だたる監督がいらっしゃるなか、昔は海外ではそういう日本映画へのアクセスが無かったんです。私はもともと伊丹十三さんの作品がすごく好きなんですが、『たんぽぽ』以外は普通のDVDショップ等でDVDを見たことがなく、海外留学をしていた時は最新の日本映画なども観られなかったんですよ。アメリカの片田舎には全然情報が入ってこなくて、日本映画を海外に出していくっていう仕事をやりたいなと思いました。海外の経験を日本に持ってきたという形です。

局長:いつ頃からいつ頃まで留学されてたんですか?

高松さん:高校を卒業して2週間後にはもう海外に渡って、語学学校を経て大学に行ったんですけど、その間にもアメリカからスペインやイギリスへ留学したり、留学システムにポーンと入ったので、寄り道して合計5年くらいいました。

局長:留学を決めたのは、何がきっかけだったんですか?

高松さん:ベトナムのベトちゃんとドクちゃんっていう、枯葉剤の影響で、身体がくっついたまま生まれてきた双子がいて、彼らが成長するにあたり、手術しなきゃいけなくなったんです。その手術ができる高度な技術を持っているのが日本の医療と言われており、確か日本とベトナムの医療機関の国交がちゃんと結ばれておらず、日本の医者が現地で施術できなかったんです。「なんじゃそりゃ!」と。それだけの問題で人の命が左右されるのかと思うと不思議な気がしていて、高校の頃に外務省に直接連絡して「おかしいと思います!」って訴えたことがあります。そこから、国連の職員になったら、そういうことが変えられるのかなと思って、高校の頃からはずっとアメリカに行きたいなとは思っていました。映画とは全然関係ない仕事を最初はしたいと思ってたんです。

局長:でもやっぱり日本と海外を繋ぐっていうところが、最初からあったんですね。

高松さん:そうですね。大学を卒業して、大学院のクラスを取っていた時に、学校帰りにボストンの小さな映画館で黒澤明監督の『羅生門』を観たんですね。周りのアメリカ人がすごく喜んで感動している姿を見て、「ああ、国境ってこんな風にすぐ超えられるんだ」って思って、映画の仕事をしようとすぐ切り替えて、東京FMが出版していた、エンタメ業界の名簿本を親から送ってもらいました。当時は個人情報の扱いも緩かったので(笑)。

局長:そうそう。企業がずらっと載った本、昔は売ってましたね!

高松さん:今となっては…なんですけど、その本に載っている映画業界の企業を一から全部あたりました。

局長:すごーい!

高松さん:留学中だったので、日本の就職戦線を全く知らないまま、アポなしで20枚くらいの履歴書持って、神戸の実家から帰国早々新幹線に乗って、全部映画会社を回ったんです。

サン:すごい…!

高松さん:その時に出会った、ある会社の人事の方に、「映画業界に入るんだったら、末端の宣伝を勉強したほうが良いよ」って言われて、その日に神戸に戻ってすぐに宣伝会社を全部当たって、全滅して。その方に「映画業界って縁故が多いから、君みたいな若い子は入れないよ」とも言われて、もう一周したので無理かなと思いましたが、宣伝会社をもう一回あたって、それでも空きがなければ諦めようって連絡したら、たまたま一か所、「今日、実は退職願を出した人がいるから、来週会いに来てくれますか?」って言われたんです。それで次の週にまた新幹線に乗って、その宣伝会社に行って面接して、その翌週から働き始めたんです。

局長:ドラマチック!

高松さん:ほんとに右も左もわからない状況でしたが、今考えたらよくやったなって思います。

局長:でも何も知らなかったからこそ、逆に良かったのかも知れないですね。

高松さん:そうなんですよ!人の意見を純粋に聞いていたので、迷いはなかったです。宣伝会社の社長に「君はガンダムが好きか?」って聞かれて、「シャアが好きです」って言ったら、「じゃあ採用!」って。入ったらすぐにガンダムの宣伝が待っていたっていう(笑)。失うものがないから、できたのかも知れないですよね。

局長:じゃあ最初は宣伝だけをやってたんですね。

高松さん:そう、でもその頃もやっぱり将来的には海外セールスをやりたいと思っていたので、その後いろいろ宣伝をやらせて頂いてから何年後かに、ちょうどTBSさんが『世界の中心で、愛を叫ぶ』っていう映画で約75億円の興行収入を記録したんです。日本の映画界でも、ちょっとした激震が起こって、その辺りから、日本映画も海外で売れるんじゃないかという機運が生まれて、(TBSの)今までテレビ番組を売ってた部署に、映画を売るチームを特別編成することになって、そこに入らせて頂いて。宣伝をやっていたことは、セールスの仕事にもすごく役立ったし、就活の際に言われたアドバイスは本当だったなと思いました。

サン:「宣伝から入って」っていうところですね。

高松さん:そう、間違ってなかった。その経験があるので、うちのスタッフには必ず全員一度宣伝をやらせるんですよ。

局長:なるほど。『世界の中心で愛を叫ぶ』をきっかけに転職されて、海外セールスも手掛けるようになったんですね。

高松さん:そうですね。その頃ちょうど、いわゆるテレビ映画って言われる作品の全盛期だったんです。それこそ『NANA』『日本沈没』『木更津キャッツアイ』とか、テレビから派生した映画を、テレビ局がお金をかけて作って、それがアジアでどんどん売れていたんです。一年後くらいに、日テレさんが本格的に『デスノート』『20世紀少年』などをバンバン海外に売るという時期があったので、その頃が一番アジアで日本映画のバブルがありました。

局長:その頃から、他にも海外セールスをやっていた会社はあったんですか?

高松さん:ありました。海外セールスって、実はずっと昔からあるんですよ。ただ、大手の映画会社さんでは、国際部がその役目を担っていて、例えば東宝さんの国際部が『ゴジラ』の権利とか、黒澤明監督作品の権利とかを管理しているんです。TBSさんが民放で初めてカンヌ国際映画祭の展示会で単独のブースを立ち上げて、そこからどんどん、いろんな会社さん、テレビ局さんが単独ブースを出すようになって、自身の映画を売るっていう仕事が本格化してきたという感じです。

取材日:2018年8月3日

本当にすごい行動力で、たくさん刺激を頂きました。まだまだ、濃厚なお話を聞いています。ぜひ続きをお読みください。→【後編を読む】

★高松さんが宣伝担当の作品

『フィフティ・シェイズ・フリード』

映画『フィフティ・シェイズ・フリード』ダコタ・ジョンソン/ジェイミー・ドーナン

2018年10月5日より全国劇場公開
公式サイト
監督:ジェームズ・フォーリー
出演: ダコタ・ジョンソン/ジェイミー・ドーナン/エリック・ジョンソン/リタ・オラ/マーシャ・ゲイ・ハーデン
配給:東宝東和

全世界で累計発行部数1億冊を越え、世界中の女性を虜にしたE L ジェイムズのデビュー小説を映画化した、“フィフティ・シェイズ”シリーズの最終章。本作は北米を含む世界54地域で初登場1位を記録し、全世界シリーズ累計興収は13億1900万ドル(約1500億円=1ドル113円換算)という大記録を樹立。超豪華なセレブ生活のキラキラと、王道ラブストーリーの究極版が楽しめる。
©2017 UNIVERSAL STUDIOS

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局長

私も学生の頃に、こんな企画があったらやってみたかったな〜という思いも込めて立ち上げました。学生の間にしかできない体験をしてもらい、その体験を通して発せられる情報が、映画ファンの拡大に繋がればステキだなと思います。学生の皆さんだからこそ出てくるアイデアやエネルギーに触れて、私達スタッフも一緒に宣伝を楽しみたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします! 私は物心がついた頃から映画が大好きで、大学を卒業すると同時に大阪から上京し、ただ映画が好きという気持ちだけで突っ走ってきました。これまで出会った多くの方のおかげで、今は大好きな映画のお仕事をさせて頂いています。地方の学生の皆さんもぜひ参加してください。課題以外でも、皆さんと集まってお話ができる機会も作りたいと思いますし、少しでも皆さんの将来のお役に立てれば嬉しいです。

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