取材&インタビュー

生き別れた兄弟のような関係、ニコラス・ウィンディング・レフン、小島秀夫がプラダ青山店にて展覧会【SATELLITES】を開催!

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ニコラス・ウィンディング・レフンと小島秀夫による展覧会【SATELLITES】が、プラダ青山店にて2025年4月18日から8月25日まで開催されます。開催を記念して、ニコラス・ウィンディング・レフンと小島秀夫がトークイベントを行いました。その内容をお届けします。

※お2人のフォトセッションはなかったため、展示の内容を掲載しています。

二人の出会い

「Satellites」ニコラス・ウィンディング・レフン/小島秀夫

小島秀夫:
収録はニコラスに騙されて(笑)。3時間ぐらいノーカットで撮りました。(出会いは)13、4年ぐらい前なんですけれども『ヴァルハラ・ライジング』という映画がありまして、日本で公開されていなかったので、ロスの友達からすごい映画があるからって聞いて。アメリカ版のブルーレイを取り寄せて観て、惚れ込みました。こんなにクレイジーな人がいるって(笑)。で、会いたかったんですけど、なかなか連絡がつかず、『ドライヴ』が日本で公開された時にコメントの協力とかさせていただいて、映画配給会社の方がメールアドレスを教えてくれたんです。それでデンマークと東京で離れてたんですけれども、どこかで会いましょうということで、ロンドンで最初に会いました。全く生まれも育ちも違うんですけれど、そこで5分、15分ぐらい過ごしただけで、非常に気の合う、生き別れた兄弟みたいな感じがしました。

ニコラス・ウィンディング・レフン:
私達はメールでしか話していなかったので、会うとどんな話になるのか全く予想がつきませんでした。ゲームについてもあまり詳しくなかったので、興味をそそられました。私がコペンハーゲンから飛行機で到着してロンドンのレストランで一緒に座った時、通訳を介して話さなければなりませんでした。通訳を通してパートナーと一日中座って話してみたことがある人がいるかどうかはわかりませんが、通訳が通訳をしている間の長い沈黙には、とても親密な何かがあります。そして、まさにその瞬間に、二人の間に繋がりがあるのだと感じられるのです。そして不思議なことに、私たちはある意味、より精神的なレベルで繋がったといえるかもしれません。そして、そこから、とても美しい友情が始まったのです。

モデレーター:
精神的なレベルで繋がったとおっしゃいましたが、友達になれると感じた理由を説明していただけますか?

ニコラス・ウィンディング・レフン:
当時、私達は不思議なことに、人生の非常に似た局面にいたと思います。でも、競争相手ではありませんでした。同じ業界出身でもなかったですし。だから、自分達以外の何者かになる必要はなかったんです。芸術の世界にいて、同じことをしている人達と付き合っていたら、そこには常に取引的な仲間意識があったように思います。私達は二人とも全く違う人間で、お互いを恐れる必要は何もありませんでした。だから、とても自由に話すことができました。そして、実は多くの同じ問題に苦しんでいることに気づきました。創造はとても孤独な経験になり得る。それは一種の人生、孤独です。ほとんどの方は必要に迫られて創造することがどういうことなのか、理解できないでしょう。
素晴らしいことなのは確かですが、もちろん良い時も悪い時もあります。妻は私に苦労を何度も話してくれるでしょう。でも、(小島氏とは)通訳を通して話しているうちに、すぐにとても自然な感じになったと思います。

小島秀夫:
ニコラスも言ってましたが、ものづくりって孤独なんですね。マラソンで僕が走っていたら、追い抜かれたり、こけたり、人と当たったり、追い抜いたりしているなか、家族や友達といった協力者は一緒に走らず沿道から応援するとか、水をくれるぐらいなんですよ。そこへ、なぜかニコラスが横に来て「おう!」みたいな感じで一緒に走っていると。だから、以前の僕の生まれ変わりというか、昔どこかで一緒に居たかもしれない、あまり言語を介さない付き合いです。なかなかそういう関係ってないと思います。彼はサイレンスな関係っていっています。毎日のようにメールが来るんですけれども、ほぼ彼のムービーか写真か絵文字なので、僕もそれで返します。

モデレーター:
言葉を介さないで関係を続けてきたという感じ?

小島秀夫:
通訳を入れてしゃべることもありますけれども、僕らの関係はそこではないですね。僕がゲーム、彼は映画ですけれども、お互いの作品の相談はしません。こんなことを作っていると、こんなことを考えているとは言いますけれども、台本を読んでもらってどう思うとか、このキャラクターってどうとかはないですね。

展示から感じられる「時間」について

「Satellites」ニコラス・ウィンディング・レフン

ニコラス・ウィンディング・レフン:
時間こそがすべてです。でも、2年前まで時間というものを本当に理解していませんでした。20分間死んで生き返った時、突然、時間の本当の意味を理解しました。そして、自分に残された時間がどれだけあるのかを考えました。若い頃は目の前に残された時間をすべて感じていたけれど、今はもっと深く「あと何分生きられるんだろう?」と考えています。それで、この展覧会のコンセプトは、私たちが時間について考えたり、時間を忘れたりすることに多くの時間を費やしている、というものにしました。つまり、時間は現在と未来の一部になっているのです。

そして、芸術や娯楽、メディアなどに関して特に興味深いと思うのは、私たちは次のものを手に入れるために、できるだけ早く消費しようと多くの時間を費やしているということです。これはある意味、私達が子どもの頃に育てられた方法とは全く逆のことです。お子さんがいる方は、幼い頃はずっと、お子さんのお手伝いをしたり、関わりを持たせたり、集中させたりすることに時間を費やしてきたことでしょう。小さなビリーが3時間もレゴで遊んでいると、本当に嬉しくなります。だって彼は天才ですから。でも、大人になると、時間は消費されやすくなり過ぎて、ほとんど意味がなくなってしまいます。時間こそがすべてですから。だから、私達が考えたのは、鑑賞するためには2時間半を費やす必要があるインスタレーションを制作するというアイデアでした。これはそれ自体が、そしておそらく現代の状況を反映しているといえるでしょう。なぜなら、私達は時間が止まっていることに慣れていないからです。重要なのは動きです。しかし、動けば動くほど、感じることは少なくなります。そして、それは非常に重要なことです。それが芸術の力です。芸術とは本質的に感情のプロセスです。

「Satellites」ニコラス・ウィンディング・レフン

ご存知の通り、あらゆるものがドーパミンの放出に関わっています。テクノロジーは素晴らしいものですが、同時に人間の感情を解体してしまう側面もあります。ですから、持続性は非常に重要でした。私達は始め、ただひたすら話し続けました。なぜなら、自己が浄化されたからです。ちなみに、時間の物語もありました。展示に身を委ねるしかなく、空間を巡る物語さえありました。そして最後には、持ち帰れるものもありました。こうして、一つのプロセスが生まれました。一つのものが、さまざまなものへと変化していくのです。私にとって、創造性がおもしろくなるのは、まさにこの時です。映画やテレビの課題は、他のフォーマットや発明と同じようには捉えられないということです。私達は、もはやテクノロジーが役に立たないという感覚に苦しんでいますが、もっと多くの機会があると思っています。時間を使って機会を見つけ、再発明し、活用し、あるいはそこに意味を見出す必要があるのです。だから、知らないうちに時間がすべてのものの本質になったのです。

「Satellites」小島秀夫

小島秀夫:
僕はニコラスのように死んでいませんけれども、ちょっと体を壊しまして。同じ時期かな。そこから余命を計算しました。残り時間が限られてるので。そこは時間感覚ではないんですけれども、時間ってあらゆる国、過去の人、未来の人を含めて平等なんですね。平等に24時間なんですけれども、時間感覚というと、人によって違うんです。同じ1時間でも、濃い1時間と薄い1時間と。そうなってくると、僕らはエンタテインメントをどう与えていくかと考える。展示でもそうですけれども、たとえばここに来た1時間、同じ1時間なんですけれども、どういう1時間かという捉え方をしないと駄目だと思います。ただ1時間を浪費するんじゃなくて、自分の人生の中で特殊な1時間、猛烈に濃いとか、役に立つとか感動するとか、そこが特に展示物としては重要だと思うんです。

(ここで展示されている映像の長さは)2時間半と言っていましたけれども、僕は日本語で喋っていて、ニコラスは英語で喋っていて、ずっと聞いている必要はないんですね。何が言いたいかというと、言語を介して対話しているのではないということを示したいんです。カセットテープには、いろいろな言語で変換された僕等の声が入っています、ランダムで。たとえばここへ来て30分で、カセットテープを取って帰ると、ドイツ語で喋っている僕、スペイン語で喋っているニコラスの声が入ってて。それも断片しかないんですけれども、それを聞くことで、僕等の対話を補完する、僕らの時間を補完する。皆さんの時間を借りて、そこで作用が働いて、自分の中で本当の対話というか、最適な対話が繋がっていくという感じにしたいんですね。もうちょっと知りたいなと思ったら、もう一度来ていただいていいですし、パンフに全部書かれていますけれども、あれは読んでほしくないという(笑)。時間の使い方を皆さんがどうやるかという、その定義というか、そこにここの展示物があります。

「Satellites」

テクノロジーを展示しているのではないんです。今、大阪で万博やっていて、あれは最先端のテクノロジーを使ってると思うんです。けれども、この展示は僕等が子どもの時、1960年代、70年代だった時の21世紀というイメージ、そこのもう一つの未来の話なんです。だから、時間軸がちょっとずれています。実際の現在と全然違うもう一つの未来なんですけれども、そのアナログの世界を皆さんに見てもらって。LINEとかテキストを送り合ったり、スマホで映像付きでしゃべったり、皆さんはデジタルの日常の中で暮らしています。でも、ここではそうではない別の対話というか、コミュニケーションというか、そういう時間の使い方を僕等がしているのを、赤裸々にですけど見せている、ちょっと変わった展示でございます。

展示の映像はワンテイクで作られ、ほとんど編集もされていないそうです。

小島氏の「何もないものを作るのがクリエーターだと思います。それを作った時点でAIに知られてしまい、また後から追いかけてくる。でも、僕等は一歩先を行く、それがクリエイターの使命というか、追い抜かれたら終わりです」という言葉も印象的でした。あと、AIが進化するほど、人間のコミュニケーションをカバーしてくるようになるだろうから、「言語ではないところのコミュニケーションがもっと重要になってくる」とのお話に、これからの社会の課題を再認識しました。

「Satellites」

すごく深いお話が聞けた貴重な機会でした。そして、展示物をじっくり観て、背景を考えるってすごく有意義だなと実感しました。私もカセットテープをお土産にいただいたので、聴いてみたいと思います。
また、お2人の言語を介さない関係がとても素敵で、すごく興味深かったです。私自身、言語情報にすごく頼り過ぎているなと振り返る機会にもなりました。本展示会は夏休みまで開催されていますので、ぜひ一度足を運んでみてください。

プラダ青山店展覧会【SATELLITES】
ニコラス・ウィンディング・レフン、小島秀夫トークイベント:
2025年4月17日取材 TEXT by Myson

「Satellites」

“SATELLITES” BY NICOLAS WINDING REFN WITH HIDEO KOJIMA PRADA AOYAMA TOKYO
2025年4月18日から8月25日まで(11時〜20時)開催
プラダ青山(東京都港区青山南5-2-6)
公式サイト 

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PRESENT

  1. 映画『サンダーボルツ*』オリジナル ユニセックスクルーネック(M)
  2. 映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』マリリン・モンロー
  3. 映画『サスカッチ・サンセット』ジェシー・アイゼンバーグ/ライリー・キーオ
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