REVIEW

ガラスの城の約束【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ガラスの城の約束』ブリー・ラーソン

ジャネット・ウォールズの自叙伝「The Glass Castle」を映画化した本作は、ホームレスの両親に育てられた子どもの半生を描いています。 これはただ貧しいだけの家族の話ではなく、どうしてホームレスなのかという理由は、特に父親の価値観に強く結びついているのですが、その背景となる事実が1つずつ明らかになっていく度に、この家族の子ども達が受けたであろうショックを、観客も受けることになります。一見すると、この親は子どもに悪影響を及ぼしているのですが、これが愛情深い親だというところがポイントで、「子どものために」という思いで抱いた親の夢が結果的に子どもに重くのしかかり、両方とも幸せになれていない状況がとても皮肉です。さらに、子離れできない親の執着に見える部分もありますが、子どものために抱いた夢であるからこそ、子どもが大人になって巣立ってしまったら、親の夢は叶わないで終わるというジレンマがそこにはあり、また、親の人生がうまくいかない背景には親の子どもの頃の辛い出来事も絡んでいたりして、根本は誰も悪くないという事実が、やるせなさを増大させます。どんな親でも、愛されたり、憎まれたりするものだと思いますが、親に似て嬉しい気持ちと、親に似たくないという気持ちが混在するジャネットの心情がとてもリアルで、娘目線で観ると、すごく心を掻き乱されます。同時にそこには大きな親子愛が描かれていて、結果的には家族という存在の大きさを実感させられ、育った環境や家族関係だけに、人の人生が左右されるという偏った話ではない点でも共感できます。次女ジャネット役のブリー・ラーソンをはじめ、豪快に見えてとても繊細な父親を演じるウディ・ハレルソン、子どもと夫への愛情で混乱しながらも家族を繋ぎ止めようとする母親を演じるナオミ・ワッツと、俳優の演技も見事。家族と上手くいっていた人はもちろん、家族の良い思い出が思い当たらないという方にもぜひ観て欲しい秀作です。

デート向き映画判定
映画『ガラスの城の約束』ブリー・ラーソン

主人公と同じような体験をしていなくても、観ているだけで辛くなるストーリーなので、デートのムードが盛り上がることはないでしょう。主人公のジャネットと恋人との関係性についても、デートで観るには少々気まずい要素となりそうです。ただ、これから結婚しようと自分の心の内だけで考えている人は、一緒に観てお互いの価値観を話し合うと、結婚相手としてどうなのか、一歩踏み込んでリアルに考えることができるかも知れません。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『ガラスの城の約束』ウディ・ハレルソン

まだ自分でお金を稼いだり、遠くに出かけたり、意志決定をできない(保護者の同意がないと意志が認められない)年齢のあいだは、親の言うことを聞いて暮らすのが当然ではありますが、本作の主人公のジャネットは、自分自身の意志をもって、大きくなってから行動を起こします。本作は、親を大切にすることと、自分の人生を大切にすること、その両方が大切で、辛い体験でも何かしら将来の人生に役に立つことがあるということを描いているので、ぜひ若い皆さんにも観て欲しいと思います。

映画『ガラスの城の約束』ブリー・ラーソン/ウディ・ハレルソン

『ガラスの城の約束』
2019年6月14日より全国順次公開
ファントム・フィルム
公式サイト

© 2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン 心理学から観る映画60:記憶障害の診断「神経認知領域」と「病因」からみる『殺し屋のプロット』

今回は、急速に進行してしまう認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病に冒された殺し屋の最後の“仕事”を描く『殺し屋のプロット』を取り上げます。

映画『チャップリン』チャーリー・チャップリン『キッド』の一場面 映画好きが選んだチャーリー・チャップリン人気作品ランキング

俳優および監督など作り手として、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作の数々を生み出したチャーリー・チャップリン(チャールズ・チャップリン)。今回は、チャーリー・チャップリン監督作(短編映画を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画『ただ、やるべきことを』チャン・ソンボム/ソ・ソッキュ 『ただ、やるべきことを』鑑賞券 3名様プレゼント

映画『ただ、やるべきことを』鑑賞券 3名様プレゼント

映画『星と月は天の穴』綾野剛/咲耶 星と月は天の穴【レビュー】

映画に対してというよりも、本作で描かれる男女のやり取りについては、解釈の仕方および、その解釈に伴った好みが…

映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』ウーナ・チャップリン アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ【レビュー】

REVIEWシリーズ3作目となる本作でも、まず映像美と迫力に圧倒されます。物理的に目の前で…

映画『新解釈・幕末伝』ムロツヨシ/佐藤二朗 新解釈・幕末伝【レビュー】

幕末を描いた本作は、“新解釈”とタイトルにあるように、ユニークな解釈で描かれて…

映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』来日ジャパンプレミア、ジェームズ・キャメロン監督、山崎貴監督、宮世琉弥 お互いの才能を讃え合うジェームズ・キャメロン監督と山崎貴監督、若者代表、宮世琉弥も感動『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』来日ジャパンプレミア

最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のワールドツアーの一環として、ジェームズ・キャメロン監督が3年ぶりに来日。山崎貴監督と宮世琉弥も会場に駆けつけました。

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』八木莉可子 八木莉可子【ギャラリー/出演作一覧】

2001年7月7日生まれ。滋賀県出身。

映画『グッドワン』リリー・コリアス 『グッドワン』トーク付きプレミア試写会 10組20名様ご招待

映画『グッドワン』トーク付きプレミア試写会 10組20名様ご招待

映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』コリン・ファレル/マーゴット・ロビー ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行【レビュー】

「人生をやり直せるドア」が登場する点と、コリン・ファレルとマーゴット・ロビーが向かい合うキービジュアルから、恋愛をやり直すストーリーかと思いきや…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『チャップリン』チャーリー・チャップリン『キッド』の一場面 映画好きが選んだチャーリー・チャップリン人気作品ランキング

俳優および監督など作り手として、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作の数々を生み出したチャーリー・チャップリン(チャールズ・チャップリン)。今回は、チャーリー・チャップリン監督作(短編映画を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン
  2. 映画学ゼミ2025年12月募集用
  3. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ

REVIEW

  1. 映画『星と月は天の穴』綾野剛/咲耶
  2. 映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』ウーナ・チャップリン
  3. 映画『新解釈・幕末伝』ムロツヨシ/佐藤二朗
  4. 映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』コリン・ファレル/マーゴット・ロビー
  5. 映画『THE END(ジ・エンド)』ティルダ・スウィントン/ジョージ・マッケイ/モーゼス・イングラム/ブロナー・ギャラガー/ティム・マッキナリー/レニー・ジェームズ/マイケル・シャノン

PRESENT

  1. 映画『ただ、やるべきことを』チャン・ソンボム/ソ・ソッキュ
  2. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
  3. 映画『サリー』エスター・リウ
PAGE TOP