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アイム・スティル・ヒア【レビュー】

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映画『アイム・スティル・ヒア』フェルナンダ・トーレス/セルトン・メロ

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『セントラル・ステーション』『モーターサイクル・ダイアリーズ』などで知られるウォルター・サレス監督が、祖国ブラジルを舞台に描く本作は、「軍事独裁政権下で消息を絶ったルーベンス・パイヴァ(セルトン・メロ)と、夫の行方を追い続けた妻エウニセ(フェルナンダ・トーレス)の実話に基づいて」います(映画公式サイト)。

映画『アイム・スティル・ヒア』フェルナンダ・トーレス/セルトン・メロ

物語の舞台は、1970年のブラジルです。海辺で優雅に過ごす人達の様子から映し出されるので、この後にまさかあんな展開になるとは想像がつきません。一方で、令状もなく、理由すら告げられないまま突然夫を連れて行かれるにもかかわらず、あからさまに抵抗できない様子から、それが当時のブラジルの日常であったとわかります。

映画『アイム・スティル・ヒア』フェルナンダ・トーレス

一般市民が突如勾留され、不当な取り調べを受け続ける様子が当時の異常さを表す一方で、そうした状況でも子どもの前では気丈に振る舞い、家族を守ったエアニセの強さに驚かされます。パイヴァ家の価値観を表す象徴となる家族写真も、一家の絆の強さと明るさ、強さを物語っていて印象的です。
実はサレス監督はパイヴァ家と直接私的な深い繋がりがあり、下記のように語っています。

この映画は、私自身と物語との私的な結びつきから生まれたものです。ルーベンス・パイヴァの失踪は、友人の父親が行方不明になるという、当時の私にとって初めての経験であり、大きな衝撃でした。マルセロ・パイヴァによる2015年の著書には深く心を動かされましたが、それだけが映画化の動機ではありません。私は家族と近しい関係にあり、彼らの記憶の再構築が、それぞれの断片的かつ主観的な証言に依存せざるを得ないという構造に直面しました。その複雑さを熟慮した末に、7年前にようやくプロジェクトを始動しました。決定的な後押しとなったのは、マルセロ本人が脚本作業(ムリロ・ハウザー、エイトール・ロレガと共同)に寄り添い、鋭い洞察を与えつつも原作を自由に脚色する裁量を委ねてくれたことです。 (映画公式資料)

映画『アイム・スティル・ヒア』フェルナンダ・トーレス

サレス監督は、パイヴァ家は、「戸も窓も開け放たれ、世代や立場を越えた人々が自由に集うその空間は、独裁下のブラジルでは極めて特異で象徴的なもの」で、「あの家そのものが、『こんな国にしたい』という理想の縮図だった」とも語っています。その意味は、本作を観るとよく伝わってきます。
今、海外に限らず日本も大きな混乱の時代を迎えていると感じます。だからこそ、本作で描かれている状況が他人事には思えません。日本人である私達も今ある平和の尊さを再認識する機会になります。

デート向き映画判定

映画『アイム・スティル・ヒア』フェルナンダ・トーレス/セルトン・メロ

夫婦の絆が描かれており、父母として子ども達を守るルーベンスとエウニセの姿がとても印象的に描かれています。自分達がどんなに危機的な状況にあっても、子ども達に不安をもたらさないように明るく振る舞う夫婦の強さがそのまま子ども達にも受け継がれている様子に共感を覚えます。シリアスな内容なのでデートが盛り上がるような期待はできないものの、家族観をイメージする上でカップルで観るのも良いと思います。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『アイム・スティル・ヒア』フェルナンダ・トーレス

パイヴァ家には5人の子どもがいて、彼等も辛い状況に置かれます。年が離れたきょうだいなので、皆さんは自分と年が近い誰かしらの目線で観ることになるのではないでしょうか。突然親がどこかに連れていかれるという異常事態は、相当怖い経験です。そんななか、子ども達の生活にも変化を余儀なくされるので、状況は違えど、家族の事情で生活環境がガラッと変わった方は特に共感できる部分があるかもしれません。

映画『アイム・スティル・ヒア』フェルナンダ・トーレス/セルトン・メロ

『アイム・スティル・ヒア』
2025年8月8日より全国公開
PG-12
クロックワークス
公式サイト

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TEXT by Myson

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