学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画55:推し活がもたらす幸福感『君がトクベツ』

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也

今や「推し活」「推し」という言葉はすっかり浸透しました。なぜ、人が推し活にハマるのかといえば、きっと幸福感があるからでしょう。そこで、今回は推し活が与える幸福感について、『君がトクベツ』のストーリーをもとに考えます。

映画『君がトクベツ』大橋和也/木村慧人/山中柔太朗/大久保波留/NAOYA

『君がトクベツ』は、過去にイケメンに告白した経験がトラウマとなりイケメンが大嫌いになった若梅さほ子(畑芽育)と、国民的アイドル“LiKE LEGEND”通称ライクレのリーダー、桐ヶ谷皇太(大橋和也)の恋の行方を描いています。2人は、皇太(大橋和也)がさほ子の母が営む町の小さな定食屋に訪れた際に出会い、さほ子は皇太の内面に触れ、徐々に惹かれていきます。

映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也

この後、2人の関係性が変容していく様子は映画でご覧いただくとして、ここでは推し活がもたらす幸福感に焦点を当てます。

久保(2022)は、「ヒトにはもともと他者を援助しようとする動機づけがあり、他者に分け与えることが自分にとっての喜びになるという仕組みが働いている」と述べ、下記のエリザベス・ダンが行った実験を紹介しています。

実験参加者は20ドルを渡され、その日のうちに使い切るよう伝えられました。ただし、参加者の半分には自分のため、残りの半分のグループには他者のために使うよう指示が出されました。5ドルという条件でも同じ実験が行われました。すると、どちらの金額の場合でも、自分のために使ったグループよりも他者のために使ったグループのほうが幸福感が高かったとわかりました。(Dunn, Aknin, & Norton、2008)

つまり、久保(2022)は、この実験の結果から、他者を推すことで、ファンが幸福感を得ていると説明しています。

映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也

次に紹介するのは、アイドルを応援することで得られる心理的所有感の観点から、推し活とウェルビーイングとの関連性を説明した、井上・上田(2023)による研究です。
心理的所有感とは、「所有の対象,またはその一部について『自分のものだ』と感じている認知的・感情的状態」を指します(井上・上田(2023)による、Pierce, Kostova, and Dirks(2001 p.299)からの引用の翻訳)。
井上・上田(2023)は、アイドルファンが推し活を通して心理的所有感を持つと考えた場合、同担に対する意識が媒介となり、「心理的一体感」「心理的責任感」がウェルビーイングとどのように関係するかを述べています。

ざっくりいえば、推し活がもたらすウェルビーイングの背景には、ファン同士の一体感という観点と、自分こそが推さなければという責任感という観点があるということです。

映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也

では、『君がトクベツ』のストーリーに当てはめるとどのような心理が働いているのでしょうか。本作に登場するさほ子は最初秘かに皇太を推していたので、ファン同士の一体感を求めて推し活をしているとはいえません。ただ、皇太にある出来事が起こったのを機に、彼を陰で支えようとする責任感に似た心理がさぼ子を動かしたように見えます。そして、さほ子の行動が徐々に周囲に影響を及ぼす展開では、ファン同士の一体感も見られます。

映画『君がトクベツ』畑芽育

一方、皇太はファンに応援され、自分もファンを応援するような態度を取っているのが特徴です。だから、ファンに元気を振りまいているうちは幸福に見えます。ただ、ある人物に対して後悔が拭えない過去をみると、応援に対して気持ちを返せなかったことが皇太を苦しめています。

映画『君がトクベツ』大橋和也

このように考えると、やはり応援はされる側よりもする側のほうが幸福感を得ているといえます。だから、推し活の話題になると、話す方が笑顔になるんでしょうね。

<参考・引用文献>
Dunn, E. W., Aknin, L. B., & Norton, M. I. (2008). Spending money on others promotes happiness. Science, 319(5870), 1687-1688
久保(川合)南海子(2022).「『推し』の科学——プロジェクション・サイエンスとは何か——」集英社.
井上淳子・上田泰(2023)アイドルに対するファンの心理的所有感とその影響について―他のファンへの意識とウェルビーイングへの効果―.マーケティングジャーナル,43(1),18-28
Pierce, J. L., Kostova, T., & Dirks, K. T. (2001). Toward a theory of psychological ownership in organizations. Academy of Management Review, 26(2), 298–310. doi: 10.2307/259124

映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也

『君がトクベツ』
2025年6月20日より全国公開
ギャガ
公式サイト

ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも

© 幸田もも子/集英社・映画「君がトクベツ」製作委員会

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2025年6月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『遠い山なみの光』吉田羊 吉田羊【ギャラリー/出演作一覧】

読み:よしだ よう2月3日生まれ。福岡県出身。詳しいプロフィールは→『遠い山なみの…

海外ドラマ『エイリアン:アース』海外ドラマ『エイリアン:アース』 エイリアン:アース【レビュー】

めちゃんこおもしろくて、あっという間に全話鑑賞。“エイリアン”シリーズとしていえば…

AXA生命保険お金のセミナー20251106 スイーツを食べながらゆったり学ぶ【明るい未来のための将来設計とお金の基本講座】女性限定ご招待!

漠然とただ心配するのはやめて、一度お金について一緒に学んでみませんか? セミナーの前に、映画ミニトークも行います。街並みが一新された虎ノ門で、気負わずに、みんなでスイーツを一緒に食べて楽しみながら、ゆったりと学ぶ機会にぜひご参加ください。by マイソン

映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』レオナルド・ディカプリオ ワン・バトル・アフター・アナザー【レビュー】

クセが強くて、クセになる!本作では、カンヌ、ベネチア、ベルリン、世界三大映画祭を制覇したポール・トーマス・アンダーソン監督と、3人のオスカー俳優の夢のタッグが実現…

映画『愚か者の身分』北村匠海/林裕太 『愚か者の身分』一般試写会 10組20名様ご招待

映画『愚か者の身分』一般試写会 10組20名様ご招待

映画『こんな事があった』前田旺志郎 前田旺志郎【ギャラリー/出演作一覧】

2000年12月7日生まれ。大阪府出身。

ポッドキャスト:トーキョー女子映画部チャンネルアイキャッチ202509 ポッドキャスト【トーキョー女子映画部チャンネル】お悩み相談「大学生のうちに観るとよい作品は?」「好きなことと異なる仕事をするモチベーションの保ち方って?」

今回も、正式部員の皆さんからいただいたお悩み相談の中から、下記のお2人のお悩みをピックアップして、…

映画『プロセキューター』ドニー・イェン プロセキューター【レビュー】

ドニー・イェンが監督、製作、出演の法廷劇と聞いただけでも意外に思いつつ、宣伝では“法廷アクション”と謳っているので…

映画『8番出口』花瀬琴音 花瀬琴音【ギャラリー/出演作一覧】

2002年4月22日生まれ。東京都出身。

映画『ラスト・ブレス』ウディ・ハレルソン/シム・リウ/フィン・コール ラスト・ブレス【レビュー】

奇跡としかいいようのない出来事を描いた本作は、実話に基づいているというから本当に驚き…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ:アイキャッチ1/本の上の犬と少女 AI時代を生き延びる人間力を磨く【映画学ゼミ】開講!一緒に学ぶ仲間を募集!

この映画学ゼミでは、時代に翻弄される側ではなく、時代の波を乗りこなす人間力を磨くために、あらゆる角度から映画を通して、自分、他者、人間、社会に対する理解を深めることを目的としています。そして、物理的に孤立しやすい環境が増えた現代だからこそ、皆さんが楽しく集まれる場所になれたら嬉しいです。

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 ファストムービー時代の真逆を行こうと覚悟を決めた!大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート前編

『るろうに剣心』シリーズ、『レジェンド&バタフライ』などを手掛けた大友啓史監督が<沖縄がアメリカだった時代>を描いた映画『宝島』。今回、当部の部活史上初めて監督ご本人にご参加いただき、映画好きの皆さんと一緒に本作について語っていただきました。

学び・メンタルヘルス

  1. AXA生命保険お金のセミナー20251106
  2. 映画学ゼミ:アイキャッチ1/本の上の犬と少女
  3. 映画『ふつうの子ども』嶋田鉄太/瑠璃

REVIEW

  1. 海外ドラマ『エイリアン:アース』海外ドラマ『エイリアン:アース』
  2. 映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』レオナルド・ディカプリオ
  3. 映画『プロセキューター』ドニー・イェン
  4. 映画『ラスト・ブレス』ウディ・ハレルソン/シム・リウ/フィン・コール
  5. 映画『テレビの中に入りたい』ジャスティス・スミス/ジャック・ヘヴン

PRESENT

  1. AXA生命保険お金のセミナー20251106
  2. 映画『愚か者の身分』北村匠海/林裕太
  3. 映画『ホーリー・カウ』クレマン・ファヴォー
PAGE TOP