REVIEW
本作のタイトルにある「大統領」は、イラクで長らく独裁政治を行っていたサダム・フセインを指しています。映画公式資料によると、2003年4月にフセイン政権が崩壊するまで、24年にもおよぶ独裁政治が続いていました。劇中でもサダム・フセインの像や肖像画、写真などがあちこちにみられ、当時のイラクの人口が約 2,000 万人だったのに対して、約 4,000万もあったといわれています。フセイン政権のイラクで育ったハサン・ハーディ監督は、当時の人々がどのように認識していたかについて以下のように答えています。

人々は彼を独裁者だと認識していましたが、誰も声を上げることはできませんでした。だからこそ独裁政権は危険なのです。それは人間の本質を歪め、代替現実を作り出します。心の底では彼を憎んでいながら、公の場では情熱と愛を持って振る舞わなければならない。このような乖離は、危険な結末を招くことになります。(映画公式資料)
本作は、フセイン政権下のイラクが国連安保理により経済制裁を受けていた1990年代を舞台に描かれています。当時フセインは、国民が困窮しているにもかかわらず、自分の誕生日を祝うよう強制していました。本作は、大統領の誕生日を強制的に祝うことが、国民の生活にどう影響していたのかを描いています。

川のほとりで祖母と暮らす少女ラミアは、2日後に大統領の誕生日を控えていた日、学校のくじ引きでケーキ係になってしまいます。毎日の自分達の食事ですら満足にできない状況で、ケーキを作る材料を買うお金があるわけがありません。それでも祖母は、翌日にラミアを連れて町に買い出しに出かけます。
本作で描かれる当時の様子は、ハーディ監督自身の幼少期の記憶に基づいています。たかがケーキ係とは侮れず、ハーディ監督の友人はケーキが用意できず、後に学校を退学させられ、サダム・フセインの少年軍に入隊せざるを得なかったといいます(映画公式資料)。

本作ではラミアがケーキを用意できるのかを見守りつつ、同時に別の問題も起こる点で予測不可能な状況をハラハラドキドキしながら観ることになります。ラミアが奔走するシーンでは、ラミア自身はもちろん、ラミアが出会う人々の様子から、貧富の差が激しい状況や、女性が置かれている状況も伝わってきます。独裁政治によって甘い汁を吸っていたのはサダム・フセインはもちろん、国民の中にもいて、それが弱者をどれだけ危険な状況に置いていたかがわかります。

邦題は英語のタイトル“THE PRESIDENT’S CAKE”を訳したものですが、原題は“Kingdom of the Reeds(葦の王国)”をアラビア語にしたタイトルだそうです。ハーディ監督は、「湿地帯」が歴史的に『葦の王国』と呼ばれてきた背景には「崩れやすい砂上の楼閣」という意味も含まれ、サダム・フセイン政権の実態を完璧に言い表しており、この二重の意味と音の響きから、『葦の王国』というタイトルは「完璧にフィット」したと述べています(映画公式資料)。葦で作られているとみられるラミアの家には、そうしたメタファーも含まれていたんでしょうね。
ラストは衝撃で、何ともいえない気持ちになります。幼い子ども達がこんなに過酷な状況で日々暮らしているのかと思うと言葉もありません。現代に生きる私達にも無関係ではなく、既に実質独裁政権になっている国、独裁政権へと向かいつつある国がいくつも頭にうかびます。
デート向き映画判定

デートの雰囲気が盛り上がりそうな内容ではないものの、世の中にはこうした現実もあると知っているのと知らないのとでは、人生観が変わりそうなので、一緒に観るのもアリでしょう。生活が立ちゆかなくなった時に何を大切にするのかという話にも繋がりそうなので、鑑賞後の感想から、お互いの価値観が合うかを知る手掛かりが掴めるかもしれません。
キッズ&ティーン向き映画判定

9歳のラミアが主人公なので、キッズやティーンの皆さんは等身大で観られる部分があると思います。大人ですらどうしようもできない事態に子どもの立場でどう立ち向かうのか。ラミアは勇敢に振る舞うものの、悪い大人にも遭遇します。国民が声をあげずにいるとどうなるのかを想像できる内容です。政治がいかに国民の政治に結びついているかを知る機会として観るのも良いでしょう。

『大統領のケーキ』
2026年7月10日より全国公開
PG-12
松竹
公式サイト
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TEXT by Myson
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情報は2026年7月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。





























