学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画61:欲求の階層からみるキャラクターの心情『嵐が丘』『炎上』『マテリアリスト 結婚の条件』

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『炎上』森七菜/髙橋芽以

今回は、マズローの「基本的欲求」の観点から、キャラクターがどのような心理状態にあるのかを考察します。最初にマズローが提唱した「基本的欲求」を簡単に説明します。

マズローが唱えた基本的欲求

Maslow(1970)は、生理的欲求について、「あらゆる欲求の中で最も優勢なもの」(p.57)であり、「他のどんな欲求よりも最も主要な動機づけとなる」(p.58)と説明しています。さらに、「有機体に慢性的な極端な飢餓や渇きを感じさせることは、明らかにより高次な動機づけをぼかし、人間の能力や人間性について偏った見解をもたせるにはうまい方法である」とも述べています(p.59)。基本的欲求の5つの階層は、「生理的欲求」を最下位として、以下のような並びで考えられています。

自己実現の欲求

承認の欲求

所属と愛の欲求 

安全の欲求

生理的欲求 

映画『炎上』一ノ瀬ワタル

現代の先進国における標準的な生活では、大人が食べることに困って餓死するまでに至る状況はほとんどないでしょう。ただし、家族単位、個人単位まで細分化して考えれば、食べるのに困っていたり、さまざまな理由で住む場所がない人はいます。ましてや、子どもになると、先進国であっても、親による虐待等でまともな生活ができない状況はあります。

映画『炎上』森七菜

映画『炎上』の主人公、小林樹理恵(森七菜)は、家庭の事情からまともな生活を送れていませんでした。家を出てからは、新宿歌舞伎町のトー横で知り合った他の若者達と生活をするようになり、「生理的欲求」→「安全の欲求」→「所属と愛の欲求」までは得られたようにみえます。ただし、得たものが本物なのかどうかは別です。とはいえ、樹理恵は、徐々に状況を立て直しつつあると感じていたのでしょう。だから、次の「承認の欲求」が出てきて、自分が救えなかった人物からの信頼を取り戻そうと考えたのではないでしょうか。その後は、映画をご覧いただくとして、いくつもの階層を急激に逆戻りすると考えたら、樹理恵が最後にとった行動には納得がいきます。

映画『嵐が丘』マーゴット・ロビー

次に、『嵐が丘』のキャサリン(マーゴット・ロビー)と、孤児ヒースクリフ(ジェイコブ・エロルディ)を例に挙げます。物語の舞台となる時代では、女性の自立が認められているようにはみえません。キャサリンの家はかつては裕福だったとみられるので、身分からして、キャサリンが自分で働いて稼ぐという選択肢はないに等しいと思われます。キャサリンとヒースクリフは、身分が異なるために結ばれなかったようにみえつつも、実際は「生理的欲求」が満たされていなかったために、キャサリンは生きていくための選択をしたように映ります。

映画『嵐が丘』ジェイコブ・エロルディ

一転して、ヒースクリフが見違える姿で戻ってきたあとは、2人とも「安全の欲求」までは満たされているようにみえます。ヒースクリフは、キャサリンのもとに戻ってこず、社会的な成功を手に入れた場所にそのままいれば「承認の欲求」までは満たされていたかもしれません。ところが、戻ってきてしまったがために、既に他の男と結婚したキャサリンとは結ばれないという現実を前にして、「所属と愛の欲求」が満たされない状況に陥り、もがき苦しむことになったのではないでしょうか。

映画『嵐が丘』マーゴット・ロビー

キャサリンも、ヒースクリフが戻ってこなければ、それなりに幸せだったかもしれません。でも、失ったままになっていた存在が目の前に現れたことで、2人の“居場所”を思い出し、ヒースクリフとの間の「所属と愛の欲求」が呼び起こされたようにみえます。

映画『マテリアリスト 結婚の条件』ダコタ・ジョンソン

最後に、『マテリアリスト 結婚の条件』を取り上げます。主人公のルーシー(ダコタ・ジョンソン)は、タイトルにもある通り、“マテリアリスト物質主義者”です。でも、彼女がそうなった背景には理由があります。ルーシーもまた、さまざまな経験を経て、高次な欲求へと発展しているようにみえます。ネタバレを避けて詳細は書かないでおくとして、『マテリアリスト 結婚の条件』は、婚活の話にみえて、実際はそうではありません。本編を観ていただくと、結婚が目的であるというスタンスから、結婚は選択であるというスタンスに変化したと気づくでしょう。ルーシーは、「自己実現の欲求」を叶えようとしているのだといえます。

映画『マテリアリスト 結婚の条件』ダコタ・ジョンソン/ゾーイ・ウィンターズ

マズローが提唱した欲求の階層が絶対に正しいというわけではないとしても、人の言動を理解する上ではわかりやすいです。満たされている立場、満たされていない立場で見え方は異なります。映画でさまざまな立場を疑似体験すると、一見不可解な他者の価値観も少し理解できるところがあるかもしれません。

<参考・引用文献>
Maslow. Abraham H.(1970)Motivation and Personality(Second Edition). Herper & Row(マズロー,A. H. (著)小口忠彦(訳)(1987)改訂新版・人間性の心理学—モチベーションとパーソナリティ.産業能率大学出版部)

映画『炎上』森七菜

『炎上』
2026年4月10日より全国公開中
公式サイト  REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

映画『嵐が丘』マーゴット・ロビー/ジェイコブ・エロルディ

『嵐が丘』
2026年4月24日よりデジタル販売&レンタル開始
2026年7月15日ブルーレイ&DVD発売
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

映画『マテリアリスト 結婚の条件』ダコタ・ジョンソン/クリス・エヴァンス/ペドロ・パスカル

『マテリアリスト 結婚の条件』
2026年5月29日より全国公開
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも

©2026 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
© 2026「炎上」製作委員会
Copyright 2025 © Adore Rights LLC. All Rights Reserved

TEXT by Myson 武内三穂(認定心理士)

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2026年5月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『キングダム 魂の決戦』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/志尊淳/神尾楓珠/山田裕貴/坂口憲二/豊川悦司/斎藤工/玉木宏/佐藤浩市/小栗旬 キングダム 魂の決戦【レビュー】

本作でシリーズ5作目となりますが、勢いは止まりません…

映画『急に具合が悪くなる。』ヴィルジニー・エフィラ/岡本多緒 岡本多緒【ギャラリー/出演作一覧】

1985年5月22日生まれ。千葉県出身。

映画『サヨナラの引力』ク・ギョファン/ムン・ガヨン 映画に隠された恋愛哲学とヒント集81:恋愛は長く続けば幸せなのか

今回は、『オブセッション 災愛』と『サヨナラの引力』を例に、恋愛関係は長く続いたほうが幸せなのかを考えます。

映画『チルド』染谷将太 チルド【レビュー】

私達の生活に溶け込んでいるコンビニエンスストアは、角度を変えると、“特別な場所”なのかもしれません。その意味が本作を観ると…

映画『ヌーヴェルヴァーグ』ギヨーム・マルベック/ゾーイ・ドゥイッチ ヌーヴェルヴァーグ【レビュー】

“ヌーヴェルヴァーグ”(日本語に訳すと「新しい波」)とは、「1950年代後半のフランスで台頭した新世代の監督たちが、既存のルールに縛られず…

映画『オブセッション 災愛』マイケル・ジョンストン/インディ・ナヴァレッテ オブセッション 災愛【レビュー】

これはやばい(笑)。いろいろな意味で怖過ぎて、笑っちゃうおもしろさです。監督を務めたのは、1999年生まれの若き新鋭カリー・バーカー…

映画『リライト』篠原篤 篠原篤【ギャラリー/出演作一覧】

1983年2月1日生まれ。福岡県出身。

映画『大統領のケーキ』バニーン・アハマド・ナーイフ 大統領のケーキ【レビュー】

本作は、フセイン政権下のイラクが国連安保理により経済制裁を受けていた1990年代を舞台に描かれています。当時フセインは、国民が困窮しているにもかかわらず…

映画『サヨナラの引力』ク・ギョファン/ムン・ガヨン サヨナラの引力【レビュー】

本作は、超大ヒットした『私の頭の中の消しゴム』(2004)が持つ韓国での観客動員数記録を塗り替え、260万人を突破する記録的大ヒットを飛ばしました…

映画『スーパーガール』ミリー・オールコック ミリー・オールコック【ギャラリー/出演作一覧】

2000年4月11日生まれ。オーストラリア出身。

【映画でSEL】にたどりつくまでの道

今のあなたに必要な非認知能力を伸ばす【映画でSEL】プログラムのご案内

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集! 【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集!

今回は、私の研究で扱っている情動知能を取り上げます。非認知能力という言葉を聞いたことがあるでしょうか…

映画『ボヘミアン・ラプソディ』ラミ・マレック 映画好きが選んだ実在アーティストの伝記映画ランキング

今回は実在アーティストの伝記映画について、正式部員の皆さんに投票してもらいました。さまざまな有名アーティストにまつわる作品がある中で上位にランクインしたのはどの作品でしょうか?

映画『ズートピア2』 映画好きが選んだ2025アニメ映画ベスト

今回は、2025年に劇場公開されたアニメ映画について、正式部員の皆さんによる投票結果ベスト30を発表!2025年のアニメ映画ベストに輝いたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『四月の余白』一ノ瀬ワタル/上阪隼人
  2. 【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集!
  3. 映画『炎上』森七菜/髙橋芽以

REVIEW

  1. 映画『キングダム 魂の決戦』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/志尊淳/神尾楓珠/山田裕貴/坂口憲二/豊川悦司/斎藤工/玉木宏/佐藤浩市/小栗旬
  2. 映画『チルド』染谷将太
  3. 映画『ヌーヴェルヴァーグ』ギヨーム・マルベック/ゾーイ・ドゥイッチ
  4. 映画『オブセッション 災愛』マイケル・ジョンストン/インディ・ナヴァレッテ
  5. 映画『大統領のケーキ』バニーン・アハマド・ナーイフ

PRESENT

  1. 映画『急に具合が悪くなる。』ヴィルジニー・エフィラ/岡本多緒
  2. 映画『トイ・ストーリー5』Tシャツ
  3. 映画『だぁれかさんとアソぼ?』鎮西寿々歌(FRUITS ZIPPER)
PAGE TOP