REVIEW
真利子哲也監督(脚本も担当)による西島秀俊主演作という情報のみで、毎度ながら前情報をほぼ入れずに観て、いろいろ良い驚きがありました。まず、全編ニューヨークで撮影されている点です。企画の始まりについて、映画公式資料には以下のように書かれています。
2019年、監督がハーバード大学の客員研究員としてボストンに滞在中に「日本から離れた生活の中で、自分のアイデンティティの曖昧さや、新たなコミュニティに溶け込むことの難しさを感じながら、それまでごく当たり前にあった人間関係の複雑さを意識するようになった」のが、この映画の礎となる。(映画公式資料)

本作は、日本、台湾、アメリカの合作で、ニューヨークに住む夫婦を演じた西島秀俊とグイ・ルンメイは共に英語で話しており、時折、日本語と台湾語が出る程度です。90%以上が英語の脚本はどう作られたかというと、監督が日本語で書き、翻訳チームと議論の上、作成されたとのことです。そして、西島秀俊が演じる賢治の話し方は、多少日本語なまりが残るよう、ダイアログコーチ(発音指導)の村松ショーンと確認しながら、発音の微妙なさじ加減が施されたといいます(映画公式資料)。

タイトルの“ディア・ストレンジャー”が意味するところは、真利子監督のアメリカでの経験によるものであると想像できると同時に、それぞれのキャラクターがどういう意味でストレンジャーなのかを想像するおもしろさがあります。本作では廃墟もキャラクターの役割を担っているといえるほど重要な要素として扱われています。廃墟は虚無感の象徴のようでありつつ、歴史を物語る遺産ともいえて、そこにキャラクター達のルーツや心情が重なり、さまざまな意味をもたらします。廃墟という存在をどう捉えるかが、社会問題をどう捉えるかというところにも繋がってくる点も秀逸です。

具体的な内容は伏せておくとして、本作を観ると、人は生き続けなければいけないこと、そして生き続けなければいけないことが苦しみを与え、時に人を誤った方向に導いてしまうこと、その責任は何にあるのかは目に見えている問題だけでは捉えられないこと…など、さまざまな考えが頭を巡ります。さらに不自由さを表現する上で、たとえ流暢に話しているとしても、メインキャラクター達が母国を離れ、母国語ではない言語を使っている意味も大きいと感じます。誰もがストレンジャーといえる状況は、今日本に住む日本人にも増えてきたように思えます。
デート向き映画判定

アメリカに住む日本人と台湾人の夫婦の物語ではあるものの、国籍にかかわらずどんなカップルにも通じる要素が多くあります。自分自身の人生と、家族としての人生で葛藤が起きた時、それをどう乗り越えようとするのか、そして乗り越えられるのか乗り越えられないのかを観て、思うところが多く出てくるでしょう。気まずくなる可能性はあるものの、敢えて一緒に観る価値はありそうです。
キッズ&ティーン向き映画判定

大人向けの内容ではありつつ、虚無感、孤独感を意識するようになる年頃なら、
キャラクター達の心情をリアルに想像しながら観られると思います。キャラクター達はそれぞれ壁にぶつかっていて、やり場のなさがある大きな問題を生んでしまいます。現実の厳しさとともに一筋の光が指す部分はあるので、苦しんでいるのは自分だけではないと感じられるのではないでしょうか。

『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』
2025年9月12日より全国公開
東映
公式サイト
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©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
TEXT by Myson
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情報は2025年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
