『この世界の片隅に』の製作スタッフと再びタッグを組んで『天間荘の三姉妹』に挑んだ、のんさんにインタビュー!主人公のたまえのキャラクターを深く読み解き役作りをされたお話や、創作活動についてもお話を伺いました。一つひとつの質問に一生懸命に答えてくださる様子がとても印象的で、お話の内容からも強い信念があるからこそ多くの方を魅了しているのだなと改めて感じました。
<PROFILE>
のん:小川たまえ 役
1993年、兵庫県生まれ。劇場アニメ『この世界の片隅に』(2016)で主人公すずの声を担当し高評価を得て、第38回ヨコハマ映画祭にて審査員特別賞を受賞した。その他、『星屑の町』(2020)、『8日で死んだ怪獣の12日の物語』(2020)、『私をくいとめて』(2020)、『さかなのこ』(2022)など多くの映画に出演している。またYouTube Original『おちをつけなんせ』(2019年より配信中)では、初めて監督を務め、主演、脚本、撮影、編集を自身で担当。『Ribbon』(2022)でも、脚本、監督、主演を務めた。さらに【創作あーちすと】として、アート、音楽の分野でも活動中。2017年には、新レーベル“KAIWA(RE)CORD”を発足し、自ら代表を務める。
※ネタバレ注意。
※前半は合同インタビュー、後半は独占インタビューです。
ヒーローであることが自分にとって大事
記者A:
本作への出演が決まった際の気持ち、原作を読んだ感想をお聞かせいただけますか?
のんさん:
原作を読んで素晴らしいと思って、やろうと決めました。それまで震災で遺された方達の思いに寄り添ったり、お話を聞かせていただく機会があり、今生きている方に思いを傾けてはいたんですけど、亡くなった方達がどういう風に思っているのか考えるという発想がなかったんですね。この原作は亡くなった方達の目線で語られていくストーリーだったので、すごくなるほどと思いました。読み進めていくうちに、亡くなった方達も遺された方達のことを思ってくれている、大事に思ってくれていると想像できると、遺された方達も救われるというか、時間が動き出すような、そんな希望を持っている作品だと思って、すごく感動しました。
記者B:
たまえという役柄をどのように解釈して役作りをされましたか?
のんさん:
たまえは底抜けに明るく振る舞うし、何か危機に陥っても「大丈夫です!」と言ってやり過ごそうとする子なんですけど、実はすごく傷付いているんです。現世では人に必要とされていないから、三ツ瀬に行って可愛がられて、自分の居場所、役割がある、ここに家族がいると思って三ツ瀬にいようと頑張る。でも、三ツ瀬の人達の真相に直面して、自分は現世に戻るか、三ツ瀬に残るかという選択を迫られた時にすごく葛藤するんですよね。その時の複雑な心境が表現できたらいいなと思いました。
記者B:
たまえは三ツ瀬にいってポジティブになっていった、明るく変わっていったんですかね?
のんさん:
基本的には変わっていなくて、自分が生きていくために明るく武装する子だと思うんです。だから、傷付いている気持ちとか寂しい気持ち、孤独感が内包されていて、でも表向きは「頑張ります!」という感じ。どの役も裏腹なセリフはあったりすると思うんですけど、たまえはセリフと裏腹な部分がすごく多くて、その幅も広いというか、それがうまく表現できればいいなと思いました。
記者C:
たまえが置かれた状況、生きていくか、死を選ぶかって、自分で選ぶには難しいと思いますが、ご自身が同じ状況に置かれた時にどういう選択をするかなという想像はされましたか?
のんさん:
自分がっていうのはあまり想像しなかったですね。でも、たまえのことを思うと、迷うのもすごくよくわかります。たまえと同じ状況に置かれたとしたら、家族が一番大事だと思うだろうなと。たまえにとって自分の居場所が大事、自分に役割があることが大事で、それが日々過ごしていく糧になっている。そこに現世なのかどうかは関係していないっていうところにすごく共感しました。
記者C:
生きるか死ぬかよりももっと大事なものを見つけられたという…?
のんさん:
“のん”になってから(役作りで)ノートを書いていて、ハリウッドではポピュラーなやり方らしいです。役の人生の目的を設定して、その障害になっているものや痛みを書き出して、シーン毎に変動していく目的も書いています。たまえが何を人生の目的にしているのかなと考えた時に、役割、ギフトを求めている子なんじゃないかという風に構築していったんですね。そう考えると、三ツ瀬にはギフトがあって、自分が求められる環境にあるんですけど、現世にはなかったんです。原作を読んでいても、人はいいんだけど損をしているというか、誰にも必要とされていない。でも自分の居場所を見つけたいと思って過ごしていて、前向きな子ではあると思うんですよね。前向きに考えることで頑張っている。そのなかで三ツ瀬でそれを見つけたのに、「あんたは帰りなさい」と言われて葛藤しているんだと思います。
マイソン:
今お話をお聞きしていても、最初から脚本をすごく読み込んで役を理解して挑まれたのだなと思いました。演じていくうちに新たに発見したことはありましたか?
のんさん:
最初にそういう風に設定して、セリフを読んでいくうちにこうかな、ああかなと試していくっていう感じなんですけど、現場で言われたこととか、相手の役者さんの演技とか、解釈が同じだとしても表現が変わっていくみたいなところで、日々発見でした。私は永瀬さんと崖で話すシーンがとても好きで、すごく親子な感じがしたんです。小さい頃に生き別れてると思うんですけど、たまえにとって一番近い距離にいる家族がお父さんだったんだなという実感が湧きました。
あとはイルカですね。イルカはやってみないとわからなかったので(笑)。自分の意志を持っていないと、言うことを聞いてくれないんですよね。賢くて、従順じゃなくて、良い子ちゃんじゃないから、そこが思っていたのと違いました。最初はイルカのことをかわいがれるかなと思ったんです。でも、口を開けたら(歯が)ギザギザなところがイイじゃんと思えたり、良い子ちゃんじゃないところが可愛いなと思えたので、逆に従順だったらあまり可愛いがれなかったかもしれません。
マイソン:
人間とは違った真剣勝負ですね。
のんさん:
そうですね。結構警戒心が強くて、撮影隊が入っていくとイルカ・ファーストでやらなければいけない状況だったんですが、イルカに癒されました。
記者A:
イルカのトレーニングって大変でしたか?
のんさん:
大変でした!かなり大技に挑戦していたので体幹が必要でした。イルカのお腹に乗って円を描いて進むので、自分の体重移動で舵を取らないといけなくて、それが結構難しくて、一番苦労しましたね。あとはイルカのヒレに乗った状態でジャンプしてもらったり、すごく難しかったです。
記者C:
たまえが人を元気にする力があるといわれるシーンが心に残ったんですが、のんさんご自身はどんな力があると思いますか?
のんさん:
何だろうな…。ヒーローであることが自分にとって大事なことだと思っていて、そういうポジションにいて皆に元気になってもらったり、そういう存在でいることに自信があります。
記者C:
周りを明るくするというのは、たまえと近いところがご自身にもあるなと普段から感じているということですか?
のんさん:
そうですね。そこをすごく大事にしていますし、求められているなと思います。力といわれるとわからないですけど、たぶんそうだと思います。
マイソン:
ヒーローであることは、出演する作品選びにも紐付いていますか?
のんさん:
そうですね。そういうところをすごく大事にしています。私はヒーロー的なポジションで、たくさんの方に知ってもらったので、ダメダメなんだけど無鉄砲で人生を切り拓いて、皆を引っ張っていくみたいな、そういうキャラクターの軸をすごく大事にしています。そのイメージを払拭したいと思ったことはないし、払拭すべきではないと思っています。イメチェンするのが得策な方もいると思うんですけど、私はそのイメージのストライクゾーンがすごく深かったと思うので、何か真逆な役をやるのが得策ではないと思っているんです。自分が人に響く一番威力のある演技をしたいと思った時に、どういうイメージが求められていて、そのイメージにどう応えられるのかというところと、どう驚かせるか、そのイメージから逸脱するところをどうやって逸脱するかということを同時に考えることが大事だなと思っています。
どういう風におもしろがってもらえたのかがすごく気になる
マイソン:
“創作あーちすと”として、さまざまな立場で芸術に関わっていらっしゃいますが、原点となったものは、ありますか?
のんさん:
私はずっと画を描くのが好きなんですけど、幼稚園の頃、節分の日に皆で鬼を描いたんです。赤鬼や青鬼、緑の鬼を描いている子ばっかりだったんですけど、私はカッコ良い鬼がいいと思って、真っ黒の鬼を描いたんですね。そうしたら、子どもの絵の展覧会に飾られることが決まって、それがすごく嬉しくて家族で観に行きました。そこから自分はずっと絵を描くのが好きなんだと思います。それが原点ですね。
マイソン:
画を描くスタイルというか、軸はそれからずっと同じですか?
のんさん:
描いてるものとかスタイルは変わっていると思うんですけど、子ども心が一番おもしろいと思っていて、子どもっぽくおもしろがるとか、子どもみたいに好奇心旺盛でいるとか、そういうのは大事にしています。
マイソン:
それはどの芸術でも大事にしてらっしゃるんですね。さきほどの合同取材でのお話をお聞きしていて、のんさんはすごくご自身のことを分析されているなと思いました。
のんさん:
気になるんです。どう思われたかとか、どういう風に伝わったのかとか、どうすればもっと威力を持って観てもらえるんだろうとか。それくらい自分を表現することが好きっていうか、やってる時の気持ち良さももちろん素晴らしいんですけど、それをどういう風におもしろがってもらえたのかがすごく気になるんです。ただ感動したっていうのではなくて、どういうところに感動したのかとか、自分は自信があるシーンだったけどどこが響いたのかとか、事細かく聞きたいんですよね。「ということは、こういうこと?」「じゃあ、こういう人だからここが響いたってこと?」みたいな。だから、探究心が強いところはあると思います。
マイソン:
作って終わりではなくて、届いた先まで知りたいという感じですかね。
のんさん:
自分のこういう部分の魅力が人にとって良かったんだなっていう、思いもしない反応があるので、そこで実感できたり、自覚できたり、「だったら次はこうしようか」みたいな作戦が変わっていったりするので、アンテナを張るようにしています。
マイソン:
では、ご自身が出演したくなる作品と、監督として作りたい作品で共通点、相違点があるとしたら、どんなところでしょうか?
のんさん:
自分が表現していくものは、のんから出てきているものだというのは大前提にあると思うので、どういう作品を送り出すかという考え方は同じだと思います。のんという軸は同じで、それぞれ全然違う表現方法なので、やり方が変わってくるという感じだと思います。
マイソン:
両方やっているからこそ閃きもあったりするんですかね?
のんさん:
そうですね。それはすごく、全部が全部影響し合ってるなと思います。音楽で振る舞っていることと、役者でやってることをどう摺り合わせるかと考えた時に、こういう人物像をフィーチャーしたほうが良いんじゃないかとか。自分のどういう部分が魅力になるかというのをいろいろな視点で考えられるので、おもしろく料理できるというか、いろいろ練られるかなと思います。
マイソン:
では最後にこれまでに大きな影響を受けた作品、または人物がいらっしゃれば教えてください。
のんさん:
宇野亜喜良(画家)さんがとても大好きで、すごく影響を受けました。あと矢野顕子さん、忌野清志郎さんにも影響を受けました。宇野さんは、高校生の時に画集を観て、すごく好きになりました。いろいろな女の子を描いていて、映画スターのデッサンもいっぱい描かれています。女の子達はちょっとエロチックな感じで描かれているんですけど、キュートな装飾で表現されているところ、不気味なところ、大人をバカにしてにらみつけてるような女の子がリボンで可愛く着飾っているところがすごく好きなんです。相反する魅力が合わさっているところに影響されました。それで私も女の子ばっかり描くようになったり、リボンを描くのが好きになったり、それまでは色をのせるのが苦手だと思って白黒というか鉛筆やペンだけで描いていたのが、宇野さんの絵を観てから、色をのせて可愛くするのにハマっていきました。
マイソン:
YouTubeで宇野さんの絵を買って部屋に飾られていたのを観ました。
のんさん:
そうなんですよ!人生で初、美術品を買うっていう、は〜大きな買い物でした(笑)。
マイソン:
ハハハハ。本日はありがとうございました!
2022年10月7日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『天間荘の三姉妹』
2022年10月28日より全国公開
監督:北村龍平
出演:のん 門脇麦/大島優子
高良健吾 山谷花純 萩原利久
平山浩行 柳葉敏郎 中村雅俊(友情出演)/三田佳子(特別出演)
永瀬正敏(友情出演) 寺島しのぶ 柴咲コウ
美しい海を目の前にして立つ天間荘は、天界と地上の間にある三ツ瀬の老舗旅館で、ここに来る客はワケありな人ばかり。そんな天間荘へ、ある日、小川たまえという少女が連れられてきて…。
©2022髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
- イイ俳優セレクション/のん(後日UP)