REVIEW

アメリカン・アニマルズ【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『アメリカン・アニマルズ』エヴァン・ピーターズ/バリー・コーガン/ブレイク・ジェナー/ジャレッド・アブラハムソン

本作は2004年、ケンタッキー州トランシルヴァニア大学の図書館で実際に起きた窃盗事件を映画化。なんと実際の犯人も劇中に登場して当時について語るというドキュメンタリーと、俳優によるドラマが融合した、ユニークな構成で作られています。事件は、ごく普通の中流階級出身の大学生が起こしたものですが、一見犯罪を起こす必要性を感じない彼らが、なぜ犯行に踏み切ったのか、本作を観るととてもしっくりくるところがあります。
例えば、歴史上の偉人は皆、壮絶な人生を歩んだ経験からすごいアイデアや作品を生み出しているというイメージがありますよね。美術家を目指していたスペンサー(本人)が、“何かすごいことを起こさないと、何かすごい体験をしないと、すごいものは作れない”といった考えを当時もっていたと語るシーンがありましたが、この発想って誰でも持っているのではないでしょうか。何かにチャレンジしようとしても、自分は人並みの人生しか送ってきていないから大したものが生み出せないと、自信を持てない人はたくさんいます。大学生の頃って、大人の一歩手前でアイデンティティが形成されようとしている時期で、自分は何者かという自覚や、進むべき方向を模索しているモラトリアムの期間に当てはまります。まだ自分自身に可能性は感じているけれど、自分は特別ではない、何者でもないことに薄々気付き始める時期でもあって、うまくいかないことが続くと、焦りは相当感じるはずです。あくまで私の解釈ですが、本作で出てくる4人の青年達は、本心ではお金を欲しかったというよりは、危ない方法で自分達を試したかったのではないでしょうか。本作を観て、若者のバカな犯罪と笑う人もいるかも知れませんが、私には他人事に思えませんでした。他人は傷つけたくないけど、自分達の欲望は果たしたいという身勝手さだって、誰でも持っているはずで、若い頃はなおさら制御が効かない。彼らは冒険する方法を間違えたに過ぎないと思うと、共感せざるを得ない部分があります。主人公達と同世代の人はもちろん、大人が観ても昔を振り返るきっかけになる作品です。エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソンの4人の俳優達のリアルな演技、そして本作が長編ドラマ初監督のバート・レイトン監督が手腕をふるった演出もぜひ堪能してください。

デート向き映画判定
映画『アメリカン・アニマルズ』エヴァン・ピーターズ/バリー・コーガン/ジャレッド・アブラハムソン

とてもスタイリッシュでセンスを感じる作品なので、デートで観るのもアリだと思います。実話ベースという点でも興味が一層わくと思います。ロマンチックなムードになるタイプの映画ではありませんが、誰にでもどこか共感できるところがあるストーリーなので、学生カップルは今の自分達と照らし合わせるのも良し、大人は昔どんな若者だったか話すきっかけにするも良しです。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『アメリカン・アニマルズ』エヴァン・ピーターズ/バリー・コーガン

主人公達が勢いでとんでもないことをやってしまう心理は、皆さんは等身大で通じるものを感じ取れるのではないでしょうか。もちろん絶対に真似をしてはいけませんが、もうすぐ社会に出ようとしていて、何者かにならなければいけないと勝手に焦ってしまう状況のなかで、無茶をしたくなる気持ちを持ったことがある人は、そんな衝動を冷静に客観視するきっかけになるはずです。もちろん純粋にエンタテインメントとしても楽しめる作品なので、アーティスティックな描写などにも注目してください。

映画『アメリカン・アニマルズ』エヴァン・ピーターズ/バリー・コーガン/ブレイク・ジェナー/ジャレッド・アブラハムソン

『アメリカン・アニマルズ』
2019年5月17日より全国公開
ファントム・フィルム
公式サイト

© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン 心理学から観る映画60:記憶障害の診断「神経認知領域」と「病因」からみる『殺し屋のプロット』

今回は、急速に進行してしまう認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病に冒された殺し屋の最後の“仕事”を描く『殺し屋のプロット』を取り上げます。

映画『チャップリン』チャーリー・チャップリン『キッド』の一場面 映画好きが選んだチャーリー・チャップリン人気作品ランキング

俳優および監督など作り手として、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作の数々を生み出したチャーリー・チャップリン(チャールズ・チャップリン)。今回は、チャーリー・チャップリン監督作(短編映画を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画『ただ、やるべきことを』チャン・ソンボム/ソ・ソッキュ 『ただ、やるべきことを』鑑賞券 3名様プレゼント

映画『ただ、やるべきことを』鑑賞券 3名様プレゼント

映画『星と月は天の穴』綾野剛/咲耶 星と月は天の穴【レビュー】

映画に対してというよりも、本作で描かれる男女のやり取りについては、解釈の仕方および、その解釈に伴った好みが…

映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』ウーナ・チャップリン アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ【レビュー】

REVIEWシリーズ3作目となる本作でも、まず映像美と迫力に圧倒されます。物理的に目の前で…

映画『新解釈・幕末伝』ムロツヨシ/佐藤二朗 新解釈・幕末伝【レビュー】

幕末を描いた本作は、“新解釈”とタイトルにあるように、ユニークな解釈で描かれて…

映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』来日ジャパンプレミア、ジェームズ・キャメロン監督、山崎貴監督、宮世琉弥 お互いの才能を讃え合うジェームズ・キャメロン監督と山崎貴監督、若者代表、宮世琉弥も感動『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』来日ジャパンプレミア

最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のワールドツアーの一環として、ジェームズ・キャメロン監督が3年ぶりに来日。山崎貴監督と宮世琉弥も会場に駆けつけました。

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』八木莉可子 八木莉可子【ギャラリー/出演作一覧】

2001年7月7日生まれ。滋賀県出身。

映画『グッドワン』リリー・コリアス 『グッドワン』トーク付きプレミア試写会 10組20名様ご招待

映画『グッドワン』トーク付きプレミア試写会 10組20名様ご招待

映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』コリン・ファレル/マーゴット・ロビー ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行【レビュー】

「人生をやり直せるドア」が登場する点と、コリン・ファレルとマーゴット・ロビーが向かい合うキービジュアルから、恋愛をやり直すストーリーかと思いきや…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『チャップリン』チャーリー・チャップリン『キッド』の一場面 映画好きが選んだチャーリー・チャップリン人気作品ランキング

俳優および監督など作り手として、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作の数々を生み出したチャーリー・チャップリン(チャールズ・チャップリン)。今回は、チャーリー・チャップリン監督作(短編映画を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン
  2. 映画学ゼミ2025年12月募集用
  3. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ

REVIEW

  1. 映画『星と月は天の穴』綾野剛/咲耶
  2. 映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』ウーナ・チャップリン
  3. 映画『新解釈・幕末伝』ムロツヨシ/佐藤二朗
  4. 映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』コリン・ファレル/マーゴット・ロビー
  5. 映画『THE END(ジ・エンド)』ティルダ・スウィントン/ジョージ・マッケイ/モーゼス・イングラム/ブロナー・ギャラガー/ティム・マッキナリー/レニー・ジェームズ/マイケル・シャノン

PRESENT

  1. 映画『ただ、やるべきことを』チャン・ソンボム/ソ・ソッキュ
  2. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
  3. 映画『サリー』エスター・リウ
PAGE TOP