これはお互いにうまく愛せない母と子の物語です。母が娘と同じ下着を着る背景には、1人の女性として生き続けたい、若くありたいという願望が見えます。一方娘は、母との繋がりを求めているように見て取れます。2人が同じ下着を着るというところで、母親になりきれない母、大人になりきれない子どもの両方がお互いに縛られている状況が比喩されているようにも見えます。
前半は一見、母親が子どもを虐待しているかのように感じる描写が出てきて、緊張感が漂います。後半は、母と娘がそれぞれに家庭の外でさまざまなことを経験し、心が変化していく様子が描かれています。この母と娘のこじれた関係に、愛憎が渦巻いています。本作の母親は反面教師のようでいて、世の母親が表に出すことができない、子育てで感じる複雑な心境を前面に出したキャラクターといえるかもしれません。一方娘のほうは母の愛情に飢えていて、なかなか親離れできません。愛着障害が疑われる部分もあり、心が深く傷付いていることがわかります。2人の姿を観ていると、反感と同情、困惑といった感情が一度に湧いてきます。母と娘の心の奥に渦巻くさまざまな思いをあぶり出し、女性として生きることの意味を見事に表現したキム・セイン監督の手腕にも脱帽です。本作で長編映画デビューした、娘イジョン役のイム・ジホと、母スギョンを演じたヤン・マルボクの名演も見どころです。観る方によって感じ方が大きく変わる作品だと思います。だからこそ、いろいろな方の感想を聞いてみたくなる作品です。


母と娘の関係に恋愛も大きな影響を与える様子が描かれているので、これから家族を持とうとしているカップルにとってはとても辛辣な内容に思えるでしょう。いろいろな考えが巡ると思うので、1人でじっくり観るか、仲の良い友達と観るほうが向いている作品だと思います。


子ども目線で観ると辛くなるシーンが多々あります。一方で親が表に出さない面を本作で垣間見ることによって、少し救われる部分もあるかもしれません。いずれにしても、表面的な部分より深い内面を洞察しながら観て欲しい作品です。親子関係に悩んでいる方は、思い切って親子で一緒に観てみるのもアリかもしれません。

『同じ下着を着るふたりの女』
2023年5月13日より全国順次公開
Foggy
公式サイト
TEXT by Myson