REVIEW

ほかげ【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ほかげ』塚尾桜雅

REVIEW

終戦後の日本を舞台にした本作は、戦争が終わっても苦しみ続ける人達の姿を映しています。まだ幼いながらもなんとか1人で生きている少年が、孤独に生きる女性、トラウマを抱えて生きる元兵士など大人達を見つめる眼差しが特徴的です。
それぞれのキャラクターの背景は最初わからず、皆自分が生きるのに必死で、信じて良い相手なのか、悪者なのかわからず、終始緊張感が漂います。一方で、お互いの関わり合いによって安らぎがもたらされるシーンもあり、観ている側も感情の揺らぎを体感できます。セリフで多くを語らず、風景やキャラクター達のふとした言動によって、戦後の世界の異質さを描いている点も秀逸。塚本晋也監督の演出力を感じます。
俳優達の演技も見ものです。趣里は、時に静かに、時に激しく、感情を表現していて、キャラクターの心が揺れ動く様を見事に体現しています。寝転ぶ後ろ姿が映されたシーンでは、素肌が見えている足が何とも美しく艶めかしくて、芸術性も感じられます。また、森山未来も神秘的なキャラクターを好演。何を考えているのかわからない怖さもあり、観ていてハラハラさせられます。そして、何といっても子役の塚尾桜雅の演技が素晴らしいです。特有の佇まいがあり、子どもらしさ、自然な演技に惹きつけられます。
現代もある意味生き残るのに必死にならざるをえない状況です。周囲を敵とみなして生きるのか、支え合う者とみなして生きるのか、辛くても正しくあろうとするのか、辛さを言い訳に人の道を踏み外すのか。本作は現代に生きる私達にさまざまな問いを投げかけてきます。

デート向き映画判定
映画『ほかげ』森山未來

テーマが重く、濡場もあり、デートムービーとはいえません。ただ見応えはあり、人生観を問う内容なので、映画鑑賞後に語るのが好きなカップルは一緒に観るのも良さそうです。それぞれの登場人物の言動をどう解釈したかによって、お互いの物の見方を垣間見ることができるでしょう。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『ほかげ』趣里/塚尾桜雅

皆さんは、“坊や”と呼ばれる少年の目線で本作の過酷な世界を体感できるところがあるでしょう。大人でも食べる物、寝る場所に困る状況で、幼い少年がどうやって生きていくのかを観て、自分ならどうするか、何ができるのか考えてみるのも良いですね。彼がさまざまな経験を経て成長する姿に学べることもあると思います。

映画『ほかげ』趣里/塚尾桜雅/森山未來

『ほかげ』
2023年11月25日より全国順次公開
新日本映画社
公式サイト

©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

TEXT by Myson

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2023年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『レイブンズ』瀧内公美さんインタビュー 『レイブンズ』瀧内公美さんインタビュー

写真家、深瀬昌久の78年に渡る波瀾万丈の人生を、実話とフィクションを織り交ぜて描いた映画『レイブンズ』。今回は本作で、深瀬昌久の最愛の妻であり被写体でもあった洋子役を演じた瀧内公美さんにインタビューさせていただきました。

映画『ミッキー17』ロバート・パティンソン ミッキー17【レビュー】

『パラサイト 半地下の家族』で第92回アカデミー賞(作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)を受賞したポン・ジュノ監督(脚本、製作を兼務)が、この度制作したハリウッド映画は…

映画『ANORA アノーラ』マイキー・マディソン マイキー・マディソン【ギャラリー/出演作一覧】

1999年3月25日生まれ。アメリカ出身。

映画『BAUS 映画から船出した映画館』染谷将太 BAUS 映画から船出した映画館【レビュー】

2014年、東京都、吉祥寺の映画館“バウスシアター”が閉館となりました。本作は、この映画館を親の代から運営してきた本田拓夫著…

映画『白雪姫』レイチェル・ゼグラー 白雪姫【レビュー】

1937年に製作されたディズニーの『白雪姫』は、世界初のカラー長編アニメーションであり、ウォルト・ディズニー・スタジオの原点とされています…

映画『ニンジャバットマン対ヤクザリーグ』 ニンジャバットマン対ヤクザリーグ【レビュー】

バットマン・ファミリーが戦国時代の歴史改変を食い止めた『ニンジャバットマン』の続編…

【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性 自分を知ることからすべてが始まる【映画でSEL】

SEL(社会性と情動の学習)で伸ばそうとする社会的能力の一つに「自己への気づき」があります。他者を知るにも、共感するにも、自己をコントロールするにも、そもそも自分のことを全く理解していなければ始まりません。

映画『悪い夏』北村匠海 悪い夏【レビュー】

REVIEW染井為人著の原作小説は、「クズとワルしか出てこない」と話題を呼び、第37回横溝…

映画『女神降臨 Before 高校デビュー編』Kōki,/渡邊圭祐/綱啓永 女神降臨 Before 高校デビュー編【レビュー】

本作は、縦スクロール形式のデジタルコミック“webtoon”で人気を博したyaongyi(ヤオンイ)作の同名コミックを原作としています…

映画『教皇選挙』レイフ・ファインズ 教皇選挙【レビュー】

圧倒されっぱなしの120分でした。教皇に“ふさわしい”人間の境界線をテーマに、神に仕える聖職者達の言動、ひいては人格を通して…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー 映画好きが選んだ2024洋画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の洋画ベストを選んでいただきました。2024年の洋画ベストに輝いたのはどの作品でしょうか!?

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性
  2. 映画『風たちの学校』
  3. 【映画でSEL】海辺の朝日に向かって手を広げる女性の後ろ姿

REVIEW

  1. 映画『ミッキー17』ロバート・パティンソン
  2. 映画『BAUS 映画から船出した映画館』染谷将太
  3. 映画『白雪姫』レイチェル・ゼグラー
  4. 映画『ニンジャバットマン対ヤクザリーグ』
  5. 映画『悪い夏』北村匠海

PRESENT

  1. 映画『ガール・ウィズ・ニードル』ヴィク・カーメン
  2. 映画『私の親愛なるフーバオ』
  3. 映画『デュオ 1/2のピアニスト』カミーユ・ラザ/メラニー・ロベール
PAGE TOP