REVIEW

キノ・ライカ 小さな町の映画館【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』アキ・カウリスマキ

REVIEW

本作は、フィンランドを代表する映画監督アキ・カウリスマキが共同経営者のミカ・ラッティと一緒に、地元である鉄鋼の町カルッキラに初めての映画館“キノ・ライカ”を作り、開業するまでの日々を追ったドキュメンタリーです。監督は本作が初の長編作となるヴェリコ・ヴィダクが務めています。
カルッキラの人口は約9000人で周囲は自然に溢れています。町の住人達は皆、映画館ができるなんて思いもしなかったと喜びを口にします。また、その会話の中ではカウリスマキ作品の数々に対する思いが語られ、映画愛が存分に感じられると同時に、アキ・カウリスマキ自身や作品への親しみが伝わってきます。それぞれイチオシのカウリスマキ監督作について語っているので、話を聞くとどれも観たくなるはずです。

映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

複数のカウリスマキ作品がこのカルッキラで撮影されており、住人の中には出演経験がある人もいて、映画を観る文化と同時に作り手側としても関わりを持つ映画文化が浸透しているのがわかります。そして、そもそもキノ・ライカの設立は、カウリスマキとミカ・ラッティが理事長を務めていたKino Iglu(キノ・イグルー)という映画サークルに縁があるといいます(映画公式資料)。だから、キノ・ライカもただ映画を上映するだけの場所ではなく、バーが併設されていたり、人々が集い交流する場所として設計されているのがわかります。

映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

また、劇中ではカウリスマキ自ら現場で作業をする様子が映っています。映画公式資料でラッティは「アキは35年間、映画のセットの設営もやってきたから、工事中はアキがデザインや色彩、コンセプトなどを担当する現場責任者でした。だからキノ・ライカには彼の映画の要素がたくさん。モダンなバーの看板、犬のライカの絵、アキの映画で何度も使われてきたバーカウンターとか。色彩的にもサロン室は『ル・アーヴルの靴みがき』の世界観です」と語っています。
映画館の名前についているライカは、カウリスマキの愛犬の名前です。ライカ1、ライカ2と歴代で2匹飼っていたようです。劇中のジム・ジャームッシュ監督へのインタビューでも話題にあがり、カウリスマキのもとを訪れた際の思い出話にはホッコリします(笑)。

映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

本作には、町の人々(一般の方)が多く登場します。公式サイトには全員の紹介が載っているのでぜひチェックしてみてください。町の人々の日常会話から映画館が町にやってくるワクワク感がヒシヒシと伝わってきて、観ているこちらも幸福感でいっぱいになります。同時に、映画館で映画を観られる環境のありがたみを改めて実感します。そして、この町では映画を愛する人同士の“共通言語”が浸透していて、既に映画の町といえます。そんなカルッキラに映画館ができるのですから、本来あるべき場所に建つのだなと、運命的なものを感じます。

映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

とにかく、本作を観ると、特に映画ファンは至福の時間を過ごせます。そして、日本でも映画館で映画を観る文化を今後残せるのかと危惧されるなかで、希望をもらえます。映画ファンはもちろんのこと、映画関係者にもぜひ観て欲しい作品です。

デート向き映画判定

映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』アキ・カウリスマキ/ミカ・ラッティ

特に映画ファンにはたまらない内容なので、2人とも映画ファンなら観た後は会話が弾むでしょう。劇中の会話に出てくるアキ・カウリスマキ作品や、アキ・カウリスマキ自身が昔を振り返って若かりし頃に観たと語る作品は、全部観たくなると思います。本作を観た後に、そういった作品を一緒に観る約束をするのも良いですね。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

キノ・ライカが建てられたカルッキラでは、若者達の間でも映画文化が浸透しているのが伝わってきます。また、町の人々の会話からは、映画の楽しみ方が身体に染みついているのもわかります。そして、映画館で映画を観る醍醐味も感じられると思います。大きなスクリーンで観られるというだけではない、映画館そのものの魅力をぜひ本作を機に知ってもらえれば嬉しいです。

映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

『キノ・ライカ 小さな町の映画館』
2024年12月14日より全国順次公開
ユーロスペース
公式サイト

映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも

© 43eParallele
Photo: Tomi Wahlroos

TEXT by Myson


関連作

劇中で話題にあがるアキ・カウリスマキ監督作から一部をご紹介

『ル・アーヴルの靴みがき』
REVIEW/デート向き映画判定
Amazonでブルーレイを購入する

『枯れ葉』
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
Amazonプライムビデオで観る Amazonでブルーレイを購入する

『希望のかなた』
Amazonでブルーレイを購入する

アキ・カウリスマキが若かりし頃に観たという作品

『ママと娼婦』監督・脚本:ジャン・ユスターシュ
Amazonでブルーレイを購入する【4Kレストア版】

『極北のナヌーク』監督:ロバート・フラハティ
Amazonでブルーレイを購入する

『黄金時代』監督・脚本::ルイス・ブニュエル
Amazonプライムビデオで観る AmazonでDVDを購入する

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2024年12月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『2つ目の窓』松田美由紀 松田美由紀【ギャラリー/出演作一覧】

1961年10月6日生まれ。東京都出身。

「第38回東京国際映画祭」クロージングセレモニー:受賞者 東京グランプリは『パレスチナ36』!第38回東京国際映画祭ハイライト

2025年10月27日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕したアジア最大級の映画の祭典である第38回東京国際映画祭が、11月5日(水)に閉幕。今年も個性豊かな作品が多数出品され、さまざまなイベントが実施されました。以下に、第38回東京国際映画祭ハイライトをお届けします。

映画『平場の月』堺雅人/井川遥 平場の月【レビュー】

朝倉かすみ著の同名小説を実写化した本作は、『ハナミズキ』『花束みたいな恋をした』(2021年)などを手がけた土井裕泰が監督を務めて…

映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル ぼくらの居場所【レビュー】

カナダのトロント東部に位置するスカボローを舞台に、さまざまな背景を抱えた3組の親子の姿を…

映画『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』ヨナス・ダスラー ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師【レビュー】

第二次世界大戦下のドイツに実在した牧師、ディートリヒ・ボンヘッファーは、ナチスに支配された教会やユダヤ人達を救おうと奮闘…

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』SUMIRE 佐藤菫【ギャラリー/出演作一覧】

1995年7月4日生まれ。東京都出身。

映画『プレデター:バッドランド』エル・ファニング プレデター:バッドランド【レビュー】

おもしろい!いろいろユニーク!“プレデター”シリーズは…

映画『モンテ・クリスト伯』ピエール・ニネ モンテ・クリスト伯【レビュー】

アレクサンドル・デュマ・ペールの傑作小説「巌窟王」を映画化した本作は…

映画『秒速5センチメートル』松村北斗 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年10月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年10月】のアクセスランキングを発表!

映画『旅と日々』シム · ウンギョン/堤真一 旅と日々【レビュー】

つげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を原作に、『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』などを手がけた三宅唱監督が映画化…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年11月募集用 AI時代における人間らしさの探求【映画学ゼミ第2回】参加者募集!

ネット化が進み、AIが普及しつつある現代社会で、人間らしさを実感できる映画鑑賞と人間にまつわる神秘を一緒に探求しませんか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  2. 映画『おーい、応為』長澤まさみ
  3. AXA生命保険お金のセミナー20251106ver3

REVIEW

  1. 映画『平場の月』堺雅人/井川遥
  2. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル
  3. 映画『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』ヨナス・ダスラー
  4. 映画『プレデター:バッドランド』エル・ファニング
  5. 映画『モンテ・クリスト伯』ピエール・ニネ

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP