REVIEW

林檎とポラロイド【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『林檎とポラロイド』アリス・セルヴェタリス

ある日、家を出かけた主人公はバスに乗っていて記憶を失い、病院に運ばれます。林檎が好きなことしか覚えていない彼は、治療のために“新しい自分”という回復プログラムに参加することに。そのプログラムでは毎日指示された課題に取り組み、ポラロイド写真に収めます。冒頭あたりでは認知症患者さんのお話かなと思ってしまうのですが、「それにしても…?』というところがあり、観れば観るほど謎が増え、ラストで真相に辿り着きます。
どんな真相があるのかは先入観なしに観ていただくほうが楽しめるので具体的には書きませんが、本作は人間のある側面を見事に比喩しています。それは人間の弱さとも、生きていく術とも言えて、でもそこからどうするかは自分次第だよと教えてくれているような優しさを感じます。そして、患者達が課題に取り組む姿やプログラムを管理する人間の滑稽さには皮肉が込められていて、「これで本当にいいの?」と問われているような感覚になります。
抜群のセンスでこの独特な世界観を持つ作品を作り出したのは、リチャード・リンクレイターや、ヨルゴス・ランティモスの助監督を務め、本作が初監督作となるクリストス・ニク監督。本作にはエグゼクティブ・プロデューサーとしてケイト・ブランシェットが名を連ねており、彼女は審査員長を務めていたヴェネツィア国際映画祭で本作の評判を聞き、鑑賞後に参加を熱望して加わったそうです。また本作は、ケイト・ブランシェットがプロデュース、キャリー・マリガン主演でハリウッド映画化が決定しており、ニク監督は早くも2作目にしてハリウッド・デビューを果たします。ニク監督に起きているこの展開は、本作を観れば納得できるはず。ストーリーの奥にあるメッセージに気付けたら、最後には清々しい気持ちになれるので、鬱々とした気分の時や、悩み事ばかりで身動きが取れず何もかも投げ出したいと思っている時にぜひ観て欲しい1作です。

デート向き映画判定
映画『林檎とポラロイド』アリス・セルヴェタリス/ソフィア・ゲオルゴヴァシリ

ロマンチックなムードにさせてくれるタイプの映画ではありませんが、大切なことに気付かせてくれる作品です。価値観に影響をもたらす要素もあるので、カップルで一緒に観るのも良いでしょう。どんな解釈をするかは人それぞれなので、ディスカッションが好きなカップルは鑑賞後の会話も盛り上がりそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『林檎とポラロイド』アリス・セルヴェタリス

観察力と想像力があればあるほど、楽しめる作品だと思います。大人向けの作品なので、キッズにはピンときづらかったり、まだ難しいかもしれませんが、大きくなって興味が湧いたら観てみてください。大人になってからのほうが共感できる部分も多いとは思いますが、ティーンの皆さんは大人が陥る一種の道をシミュレーションしてみるのも良さそうです。

映画『林檎とポラロイド』アリス・セルヴェタリス

『林檎とポラロイド』
2022年3月11日より全国順次公開
ビターズ・エンド
公式サイト

© 2020 Boo Productions and Lava Films

TEXT by Myson

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ロストランズ 闇を狩る者』ミラ・ジョヴォヴィッチ ロストランズ 闇を狩る者【レビュー】

“バイオハザード”シリーズでお馴染みの2人、ミラ・ジョヴォヴィッチとポール・W・S・アンダーソン夫妻が再びタッグを組み、“ゲーム・オブ・スローンズ”の原作者、ジョージ・R・R・マーティンの短編小説を7年の歳月をかけて映画化…

映画『ウィキッド ふたりの魔女』シンシア・エリヴォ/アリアナ・グランデ トーキョー女子映画部が選ぶ 2025年ベスト10&イイ俳優MVP

2025年も毎年恒例の企画として、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集!

ネットの普及によりオンラインで大抵のことができ、AIが人間の代役を担う社会になったからこそ、逆に人間らしさ、人間として生きる醍醐味とは何かを映画学の観点から一緒に探ってみませんか?

映画『スワイプ:マッチングの法則』リリー・ジェームズ スワイプ:マッチングの法則【レビュー】

リリー・ジェームズが主演とプロデューサーを兼任する本作は…

映画『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』アルテュス/アルノー・トゥパンス/ルドヴィク・ブール サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行【レビュー】

パラリンピックやハンディキャップ・インターナショナルのアンバサダーを務めるアルテュスが…

映画『消滅世界』蒔田彩珠/眞島秀和 眞島秀和【ギャラリー/出演作一覧】

1976年11月13日生まれ、山形県出身。

映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン Fox Hunt フォックス・ハント【レビュー】

“狐狩り隊(=フォックス・ハント)”と呼ばれる経済犯罪捜査のエリートチームが、国を跨いだ巨額の金融詐欺事件の真犯人を追い詰めるスリリングな攻防戦が描かれた本作は…

Netflix映画『フランケンシュタイン』オスカー・アイザック フランケンシュタイン【レビュー】

メアリー・シェリー著「フランケンシュタイン」はこれまで何度も映像化されてきました。そして、遂にギレルモ・デル・トロ監督が映画化したということで…

映画『大命中!MEは何しにアマゾンへ?』リュ・スンリョン/チン・ソンギュ/イゴール・ペドロゾ/ルアン・ブルム/JB・オリベイラ 大命中!MEは何しにアマゾンへ?【レビュー】

『大命中!MEは何しにアマゾンへ?』という邦題がいい感じで「どういうこと?」と好奇心をそそります(笑)…

映画『君の顔では泣けない』芳根京子 芳根京子【ギャラリー/出演作一覧】

1997年2月28日生まれ。

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『ウィキッド ふたりの魔女』シンシア・エリヴォ/アリアナ・グランデ トーキョー女子映画部が選ぶ 2025年ベスト10&イイ俳優MVP

2025年も毎年恒例の企画として、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集!

ネットの普及によりオンラインで大抵のことができ、AIが人間の代役を担う社会になったからこそ、逆に人間らしさ、人間として生きる醍醐味とは何かを映画学の観点から一緒に探ってみませんか?

映画『チャップリン』チャーリー・チャップリン『キッド』の一場面 映画好きが選んだチャーリー・チャップリン人気作品ランキング

俳優および監督など作り手として、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作の数々を生み出したチャーリー・チャップリン(チャールズ・チャップリン)。今回は、チャーリー・チャップリン監督作(短編映画を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

学び・メンタルヘルス

  1. 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集
  2. 映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン
  3. 映画学ゼミ2025年12月募集用

REVIEW

  1. 映画『ロストランズ 闇を狩る者』ミラ・ジョヴォヴィッチ
  2. 映画『スワイプ:マッチングの法則』リリー・ジェームズ
  3. 映画『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行』アルテュス/アルノー・トゥパンス/ルドヴィク・ブール
  4. 映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン
  5. Netflix映画『フランケンシュタイン』オスカー・アイザック

PRESENT

  1. 映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』チャージングパッド
  2. 映画『ただ、やるべきことを』チャン・ソンボム/ソ・ソッキュ
  3. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
PAGE TOP