REVIEW

セプテンバー5【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『セプテンバー5』ジョン・マガロ/レオニー・ベネシュ

REVIEW

ミュンヘンオリンピック開催中の1972年9月5日、パレスチナ武装組織“黒い九月”はイスラエル選手団を人質にとりました。本作は、その事件が発生してから終結するまでを中継していたテレビ局のクルー達の実話を映画化した作品です。
この事件を生中継していたのはニュース番組ではなくスポーツ番組のクルー達でした。彼等はオリンピックの生中継をしていた際に事件に気づき、犯人の様子を放送し続けました。ただ、人質が危険にさらされているなか、犯人の様子や周囲の警察の動きなどを放送すれば、他の危険な事態を招くことになります。そんななか、クルー達は視聴率と倫理観の間で大きな葛藤を強いられます。

映画『セプテンバー5』ジョン・マガロ

インターネットは普及しておらず、即時性のあるメディアといえばテレビだった時代に、もともとオリンピックという高視聴率な番組の途中に衝撃的な事件が生中継されたとなれば、この番組の放送がいかに大きなインパクトを持っていたかを想像できます。この事件の生中継では、番組のクルー達に報道すべきかどうかの判断が委ねられたわけですが、現代では個人がスマートフォンで中継、録画ができるので、本作は私達一人ひとりの倫理観を問う内容といえます。

映画『セプテンバー5』レオニー・ベネシュ

クルー達が視聴率を稼ぐ役割を担う一方で、何が起きているかを伝えたいというジャーナリストとしての使命も感じていたかもしれません。そして、視聴者は放送されていれば観てしまうという受け身の立場であり、心配で観ていようが野次馬として観ていようが直接の責任は問われません。でも、視聴者がいれば放送は続けられるという相互的な関係が成立する点で、視聴者にも責任が全くないわけではありません。こうした観点でも、テレビに限らず現代に溢れる情報の扱いはすべて、送り手と受け手の両方に責任があるといえるのではないでしょうか。

映画『セプテンバー5』ピーター・サースガード

本作は緊迫感のあるドラマチックなエンタテインメント作品となっていると同時に、メディアリテラシーを問う内容となっています。情報社会になった今、映画化される意味は大きいと感じます。

デート向き映画判定

映画『セプテンバー5』ジョン・マガロ/ピーター・サースガード/レオニー・ベネシュ

デートのムードを盛り上げるテンションの作品ではないものの、一緒に観ると、お互いのメディアリテラシーのレベルを知るきっかけになるでしょう。個人が情報を発信する時代になったので、自分達のプライベートな内容をどう扱うかという点でも倫理観、価値観が合うかは重要です。情報の選び方、解釈の仕方、応用の仕方も、その人の思想、引いては生き方に通じる部分があります。本作の感想からあまりに自分と感覚がかけ離れているようなら、何かしら対応を考えたほうが良いかもしれません。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『セプテンバー5』

登場人物は報道する側なので報道の在り方がメインのテーマとなりつつも、広く捉えると受け手も含めた情報の扱い方を問う内容となっています。約50年前の出来事とはいえ、現代でも身近な問題として観られます。現代では、日常でさらされる情報量が増えた分、精度が低い内容が含まれている可能性も上がり、めまぐるしくどんどん新しい情報が出てくるので、情報の鮮度が落ちるスピードも早いです。情報の扱いによって、人の命を危険にさらすレベルの事態を引き起こす可能性もあるので、情報が持つ影響力について考えるきっかけとして本作を観てもらえればと思います。

映画『セプテンバー5』ジョン・マガロ/ピーター・サースガード/レオニー・ベネシュ/ベン・チャップリン

『セプテンバー5』
2025年2月14日より全国公開
東和ピクチャーズ
公式サイト

ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも

©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

TEXT by Myson

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2025年2月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

「Kodansha Studios 設立発表会見」野間省伸(株式会社講談社 代表取締役社長)、 クロエ・ジャオ(Kodansha Studios 最高クリエイティブ責任者)、 ニコラス・ゴンダ(Kodansha Studios COO) 映画業界に新風を吹かせられるか?2025新レーベル発足および官民の取組みまとめ

今回は近日発足された新レーベルをまとめて紹介します。

映画『果てしなきスカーレット』 果てしなきスカーレット【レビュー】

細田守が原作、脚本、監督を担当した本作は、16世紀のデンマークの王女、スカーレットが主人公です。細田監督は…

映画『ブラックフォン2』イーサン・ホーク/メイソン・テムズ ブラックフォン2【レビュー】

2022年に作られたシリーズ1作目『ブラック・フォン』から4年後を描いた本作でも…

映画『金髪』白鳥玉季さんインタビュー 『金髪』白鳥玉季さんインタビュー

今回は『金髪』で生徒の板緑役を演じた白鳥玉季さんにインタビューさせていただきました。“金髪デモ”を起こすキーパーソンである板緑を演じた感想や、撮影裏でのエピソードを直撃しました。

映画『TOKYOタクシー』倍賞千恵子/木村拓哉 TOKYOタクシー【レビュー】

クリスチャン・カリオン監督『パリタクシー』を原作とした本作は、東京にある柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設までの道のりを舞台に、山田洋次監督が映画化…

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ 心理学から観る映画59:研究倫理に反する実験とその被害『エクスペリメント』『まったく同じ3人の他人』

『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーを観ました。生き別れた三つ子が再会する感動のストーリーかと思いきや、驚愕の背景を知り、研究倫理について改めて考えさせられました。そこで今回は研究倫理をテーマとします。

映画『コンビニ・ウォーズ~バイトJK VS ミニナチ軍団~』ヴァネッサ・パラディ ヴァネッサ・パラディ【ギャラリー/出演作一覧】

1972年12月22日生まれ。フランス出身。

映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮 ブルーボーイ事件【レビュー】

高度成長期にあった1965年の東京では、街の浄化のため、警察はセックスワーカー達を厳しく取り締まっていました。ただ、セックスワーカーの中には性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けて女性的な体をした通称ブルーボーイが…

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人 君の顔では泣けない【レビュー】

高校1年生の夏、坂平陸(武市尚士)と水村まなみ(西川愛莉)はプールに一緒に落ちたことで体が入れ替わってしまいます。2人はすぐに元に戻ることができず15年を過ごし…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  2. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  3. 映画『おーい、応為』長澤まさみ

REVIEW

  1. 映画『果てしなきスカーレット』
  2. 映画『ブラックフォン2』イーサン・ホーク/メイソン・テムズ
  3. 映画『TOKYOタクシー』倍賞千恵子/木村拓哉
  4. 映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮
  5. 映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP