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『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗さんインタビュー

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映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗さんインタビュー

2022年から約2年間で107本に及んだ森山直太朗 20thアニバーサリーツアー『素晴らしい世界』の映像作品をもとに、新規映像と新たな楽曲をとりいれたドキュメンタリー映画『素晴らしい世界は何処に』。今回は本作に出演の森山直太朗さんにインタビューをさせていただきました。

<PROFILE>
森山直太朗(もりやま なおたろう)
1976年4月23日東京都生まれ。フォークシンガー。2002年10月ミニ・アルバム『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』でメジャーデビュー。以降、独自の世界観を持つ楽曲と唯一無二の歌声が幅広い世代から支持を受け、定期的なリリースとライブ活動を展開し続けている。2022年3月に20周年アルバム『素晴らしい世界』をリリース。同年6月より“全国一〇〇本ツアー”と銘打ち行われたアニバーサリーツアー『素晴らしい世界』は、番外篇となる両国国技館や海外公演含め計107回の公演を行った。その102公演目にあたる東京・両国国技館公演の模様を収めたライブBlu-ray&DVD、ライブ音源「森山直太朗 20th アニバーサリーツアー『素晴らしい世界』in 両国国技館」を2024年11月にリリース。またパッケージ版の映像を再編集した映画『素晴らしい世界は何処に』が2025年3月28日より全国公開されるとともに、同作品の主題歌となっている“新世界”も、全国公開日の同日に先行配信が決定している。
近年は俳優としても活動しており、NHK土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』、NHK連続テレビ小説『エール』、2025年7月4日から公開の映画『夏の砂の上』などに出演。


僕にとって舞台は言語です

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗

シャミ:
最初にご自身のツアー映像がドキュメンタリー映画になるというお話をいただいた時はどんなお気持ちでしたか?

森山直太朗さん:
結果的にドキュメンタリー映画にすることを決めたのが自分だったので、頑張ろうと思いました。プロセスを話すと、ライブをやるとその公演をBlu-rayやDVDとして作品にして残しますよね。今回もそのつもりで音や映像のチェックをするためにスタジオに行きました。その時に、今映画館で主流となっている5.1サラウンドやドルビーアトモスなどのシステムで大画面の音を聞いて、「何だこれ!?」と思ったんです。これだったら一夜限りの両国という東京の限られた地域でやったライブを観られなかった方、応援してくださっているファンの方達にも共有したいと思い、もし借りられるなら映画館をお借りして、そこでファンクラブイベントのような形で映像を皆にシェアしようと思ったのが発端です。その時は、まさかこんな形で皆さんに観ていただけるとは、想像もしていませんでした。
そのための作品を作ってくれたのが番場秀一監督です。番場監督とは7年近くの付き合いがあって、6、7年前の僕が苦悩している時期から今時点までのすべてを知っている人です。100本のツアーを1年半かけて行い、さらに最終的に期間が延びて約2年近くかけて107本やりました。それだけ長いツアーだったので、とにかく番場監督が撮り続けていた素材はたくさんありました。長いツアーをやっていると、ツアー以外でも人生や日常にいろいろなことが起こりますよね。僕の場合は、父が他界して別れがありました。早くに両親が離婚していたのですが、父の亡くなる前には家族での再会もありました。それが番場監督の作るなかで、長い107本のツアーの旅と僕の生きてきた人生であがいている部分、素晴らしい世界を探し求めていることや人生の中で起こっていることが複雑に絡み、重なり合っているというのが彼に見えていた世界だったのではないかと思います。

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗さんインタビュー

この作品が完成した時に、何かの会話の拍子から番場監督に「バンバン(番場)はどうしたいの?」と聞いたんです。そしたら、一言「評価されたい」と言ったんです。そういう感覚とか赤裸々な思考から、すごく対極にあるようなものづくりをしてきた人だったので、評価だけされたいんだったら、正直別の作り方があるよねと思いました(笑)。だけど、この作品を経て思ったのは、これは僕を題材にした彼、番場秀一の作品なんだと。この作品が、多くの方に評価されるなんていう保証はできませんが、少なくとも観ていただく方達に番場監督が作った作品として評価してもらえるところまでは持っていきたいと、いち友人として思いました。だから、最初は映画館4館くらいをお借りして、自分達のできる範囲の中でやろうと思っていたのですが、今回アスミック・エースさんにバックアップしていただき、まさかこういう風に全国公開になるとは。番場監督は僕に足を向けて寝られないですよね。冗談ですが(笑)。

一同:
ハハハハハ!

シャミ:
ツアーを始めた頃は、まさかこういう終着点にたどり着くというのは想像していなかったということですね。

森山直太朗さん:
全く思っていませんでした。でも、たぶん最初から映画化することを考えていたら、ものすごくつまらないものになっていたと思います。本当に映画のために撮った素材はほとんど皆無なんです。ただ積み重ねてきたものをその時の直感に従って映像化していったので、そういう意味では二度と作れない良さがあると思います。

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗

シャミ:
本当に偶然というか奇跡が重なって、こういう素敵な作品ができたんですね。

森山直太朗さん:
おっしゃる通りです。

シャミ:
森山さんから監督にこういう作品にしたいなど、何か声をかけたことはあったのでしょうか?

森山直太朗さん:
結論からいうとありません。僕の想いというよりも番場監督が作りたいものを作ることを尊重したいと考えていました。ただ、もしこういう風にバンバンが作るならこういう素材があるよ、あるいはこういう考え方もあるんじゃないかみたいな、ディベートはしました。例えば、父と母の再会シーンの音声が劇中で使われていますが、107本のライブ中に最終公演となる台湾ツアーで一度だけあの再会シーンのことをMCで話したことがありました。そのシーンを彼はこの映画にも、Blu-ray&DVDの特典映像にも長尺で使っていて、それがたぶん彼なりの答えなんだろうなと思いました。
実は父と母の再会シーンというのは、たまたま音声が録れていたもので、映画作りのリアリティやインスピレーションになるかと思い、その音声をバンバンにだけなら聞かせるよと言いました。そしたら番場監督は、すごく慎重に「聞けない」と言って、「それは何で?」と聞いたら、「友人としてはすごく聞きたいんだけど、聞いたらたぶん監督としてはこの素材を100%作品に使ってしまうから」と。でも、僕はこの作品が誰も傷つけないということを前提に1ミリでも良くなるのであればと思い、「その時になったら考えよう」と話しました。あのシーンは、前後も合わせると20分ぐらいの音声なのですが、番場監督なりにあのような形にしてくれ、映像の中でとても印象的なシーンとして作り上げてくれました。

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗さんインタビュー

シャミ:
音声だけだからこそ余計に染み入るものがあるシーンでしたね。

森山直太朗さん:
臨場感があるというか、こちらの想像力を掻き立てられるようなシーンになりましたよね。

シャミ:
本当にそう思います。ツアー『素晴らしい世界』は約2年をかけて、全107本に及ぶツアーが行われましたが、特に印象に残っている場所はありますか?

森山直太朗さん:
本当にたくさん印象に残っている場所がありますが、敢えてあげるなら佐渡島ですかね。ツアー自体はまずは100本を1年半かけて回りましたが、その1年半が僕にとってはやっぱり印象深くて。100本を全部同じスタイルで回るのは、僕の性格的にも無理だと思ったので、前半は弾き語り、中盤はブルーグラスという両国国技館でもやったスタイル、そして後半は大所帯のバンドスタイルで回りました。でも、やっぱり原点になるのは前篇の弾き語りで、離島にも行かせていただきました。
中でも佐渡島はどこか懐かしいというか。僕は小学校の修学旅行で佐渡島に行ったことがありました。でも、その時は雨も降っていて、修学旅行なのに一つも楽しくなかったんです(笑)。だけど何の因果か、巡り巡って今佐渡島で弾き語りのライブをしている。その瞬間に、ものすごく懐かしい感覚になったんです。でも、それは小学生時代とは違う懐かしい感覚であり、遠い昔、前にもここに来たことがあると感じました。佐渡島には番場監督と共にいろいろな撮影も込みで2、3日滞在し、さらにその後また違う撮影でも再度、番場監督と共に佐渡島に行く機会がありました。何があったかというと、毎晩同じ“かとうレストラン”という場所でただ飲んでいただけなのですが(笑)。でも、それが僕にとってはどこか普遍的で特別な時間でした。映画の中でも佐渡島のシーンが使われていて、僕が日本海を背に語っているシーンは佐渡島です。

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗

シャミ:
そうなんですね!その日本海を背に語っているシーンで「舞台の上で遊んでいるのが1番楽しい」というコメントがありました。森山さんにとって、ライブや舞台とはどんな存在でしょうか?

森山直太朗さん:
今こうして言葉で話したり、お仕事でもプライベートでも自分の感覚や感情を言葉を駆使して、ボディランゲージも含めて何かを誰かに伝えたりしようとしますが、やはり結局僕達は言葉では追いつかない感情を抱えていて、それを誰かと分かち合えた時に、生きていて良かったと思えます。舞台作りというのは、感情よりも空間を作る行為、世界をそこに立ち上げる行為なんです。だからきっと僕の言葉で説明できないことを、舞台であったら説明を通り越して感じてもらえるかもしれない。だから毎回舞台を作ること、その空間ごとに自分の景色を作っていくことがすごく楽しいんです。だから僕にとって舞台は言語ですね。

シャミ:
とても素敵ですね。本作のエンドロールに使用されている“新世界”という楽曲は、お父様のことを歌った楽曲とのことですが、どういった想いを込めて作られたのでしょうか?

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗さんインタビュー

森山直太朗さん:
僕の個人的な想いは全く込めていなくて、どちらかというと父親に手足を動かされて曲を作るみたいな、不思議な感覚になった曲です。父が亡くなる2ヶ月ぐらい前に、もう父とは会えなくなるのかと思ったら、父との間にはいろいろあったので、どこかで清々する気持ちと、心のどこかで後悔にも似た寂しい気持ちを抱えている自分がいると思いました。その時に、父はこの人生を自分らしく生きることができたのかなと思ったら無性に、それこそ言語化できない寂しさに駆られました。それから当時、父も肺がんで、あまり上手く話せなくなっている状況だったので、たぶん父の無念ややり切れなさ、そして感謝の気持ちを最後の最後に僕の体を使って曲を作っていると考えるほうが合点のいくような感じでした。
実はこの曲は、映画の主題歌のために作ったわけではなくて、そういった形で実質数分で完成して、そのままスマホのボイスメモに残していました。その2ヶ月後に父は亡くなったのですが、曲のことは全く忘れていたんです。それから半年後に、映画が完成した時に、当初はエンディング曲はなしでエンドロールも流さないというコンセプトだったのですが、僕自身は携わってくれた皆さんのことも考え、「やっぱりエンドロールは流したら」と言ったら、番場監督から「直太朗がそう言うんだったらそうしよう」と。でも、併せて「真っ白な世界だから黒バックよりも白バックがいい」と言われた時に、あれ?エンドロールに流す曲に何か心当たりがあるぞと思い、それこそこの曲を引っ張り出して、その場で番場監督に聞いてもらいました。そしたら「これでいきたいです!」と即決で言ってもらい、エンディングが決まったという経緯でした。

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗

シャミ:
すごいですね!鳥肌が立ちました。

森山直太朗さん:
本当にそういうことの連続だった作品です。

シャミ:
偶然の奇跡が重なってできた作品なんですね。では、最後の質問です。今回はドキュメンタリー映画でしたが、森山さんは俳優としても活躍されています。今後挑戦してみたい役や携わってみたい作品のジャンルがあったら教えてください。

森山直太朗さん:
学園ものの生徒です!

一同:
ハハハハハ!

森山直太朗さん:
やってみたいと思うのは自由ですもんね(笑)。

シャミ:
もちろんです!どんな生徒を演じてみたいですか?

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗さんインタビュー

森山直太朗さん:
中学イチのワルとかいいですよね!でも、これは嘘です(笑)。僕が俳優として何かを演じたいなんて毛頭なくて、ただこうやって話しているように、皆さんと音楽をするように、響き合うことなので。ただ、演劇的な発想や思想というのは元々好きなので、その時その時の出会いで、どんな役でも挑戦してみたいです。やっぱり声や身体表現をするような活動は、僕の創作とか表現活動にもとても良い学びがあるので、今後もやってみたいと考えています。

シャミ:
本日はありがとうございました!

2025年2月14日取材 Photo& TEXT by Shamy

映画『素晴らしい世界は何処に』森山直太朗

『素晴らしい世界は何処に』
2025年3月28日より2週間限定公開
監督:番場秀一
出演:森山直太朗
主題歌:“新世界”森山直太朗
配給:アスミック・エース

デビュー20周年ツアー『素晴らしい世界』を巡るアーティスト森山直太朗。107本の公演をおよそ2年かけ各地を回るなか、父親の死に直面する。そして、さまざまな想いを胸に国内最後となる両国国技館公演を迎える。「素晴らしい世界」を探し求めて辿り着いた場所とは?ツアー記録として撮影された映像と自身による独白をもとに再構成したドキュメンタリー。

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