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パトリシア・ハイスミスに恋して【レビュー】

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映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』パトリシア・ハイスミス

「見知らぬ乗客」「キャロル」「太陽がいっぱい」などの小説で知られる作家パトリシア・ハイスミス。本作は彼女の人生を、彼女が遺した日記や、生前のインタビュー、元恋人や親戚など近しい人達のコメントによって綴ったドキュメンタリーです。「見知らぬ乗客」はアルフレッド・ヒッチコックによって映画化され、「太陽がいっぱい」は、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』、マット・デイモン主演の『リプリー』として映画化されました。他にも『アメリカの友人』(ヴィム・ヴェンダース監督)、『ギリシャに消えた嘘』(ヴィゴ・モーテンセン主演)など、多くの作品が映画化され、映画ファンにも馴染み深い作家です。そんな彼女はどんな思いで作品を書いていたのか、彼女の心の中を垣間見られるドキュメンタリーとなっています。
彼女の人生を語る上で欠かせない要素は、母親との関係と、同性愛です。詳しくは本編でご覧いただくとして、小説を書くことは彼女にとってある種の生きる術だったように感じます。それは、「私が小説を書くのは生きられない人生の代わり、許されない人生の代わり」という言葉(映画公式サイトにも記載あり)にも表れています、興味深いのは、世間的には彼女の小説が「犯罪小説」といわれているものの、彼女は「犯罪小説」のつもりで書いてはいないという点です。こうした作家としての彼女の心情を知ると、ストーリーの解釈の仕方も一層深まりそうです。本来は「犯罪小説」という小さな枠に収まらないストーリーであり、もっと深い感情、複雑な感情が、犯行シーンに投影されているのではと想像できます。
彼女の日記やインタビューからは、彼女の強さを感じると同時に、孤独とどう付き合っていくかを心得ていながら、とても寂しがり屋でもあった一面が見えます。また、彼女にとって恋愛がとても重要だったこともうかがえます。ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラ共演で映画化されたことでも知られる小説「キャロル」は、同性愛がタブー視されていた時代に書かれ、最初はパトリシア・ハイスミスではない作家名で出版されていました。この小説にはさまざまな背景があり、いかに特別な作品であったかということも本作を観るとわかります。
本作のタイトル『パトリシア・ハイスミスに恋して』の通り、私も本作を観て、パトリシア・ハイスミスに魅了されました。彼女が紡ぎ出す言葉に魅了され、彼女の正直な生き方に魅了されます。彼女の小説を読んでお好きな方も、まだ小説を読んだことがない方も、映画だけで知っているという方も、ぜひご覧ください。

デート向き映画判定
映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』パトリシア・ハイスミス

パトリシア・ハイスミスの恋愛遍歴が綴られているので、今恋愛中の方々には一層関心が湧くと思います。恋に破れた経験も語られながら、不思議と美しさを失わない恋愛として語られているので、映画デートのムードを壊すことにはならないでしょう。ただし、ドキュメンタリーはそもそも好みが分かれそうなジャンルであると同時に、題材そのものに関心があるかどうかで満足度が変わります。相手の好み、関心を確認してから誘うと良いですね。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』パトリシア・ハイスミス

パトリシア・ハイスミス自身に興味があるか、小説家に興味があるほうが、一層楽しめる内容です。彼女の小説に限らず、何冊か小説を読むようになってから、もしくは彼女の小説の映画化作品を観てみてから、本作を観ると良さそうです。彼女は、苦しみ、哀しみ、寂しさを小説に昇華させたようにも映ります。何か悩み事がある方は、何となく「一人じゃない」と思える部分もあるのではないでしょうか。

映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』パトリシア・ハイスミス

『パトリシア・ハイスミスに恋して』
2023年11月3日より全国順次公開
ミモザフィルムズ
公式サイト

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© 2022 Ensemble Film / Lichtblick Film
© Courtesy Family Archives
© EllenRifkinHill_CourtesySwissSocialArchives
© CourtesySwissLiteraryArchives

TEXT by Myson


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