REVIEW

シンプル・アクシデント/偶然【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『シンプル・アクシデント/偶然』ハディス・パクバテン/マジッド・パナヒ/モハマッド・アリ・エリヤ

REVIEW

イランの巨匠ジャファル・パナヒ監督は、『チャドルと生きる』(2000)でヴェネチア国際映画祭金獅子賞、『人生タクシー』(2015)でベルリン国際映画祭金熊賞、本作でカンヌ映画祭パルムドールを受賞し、世界三大映画祭のすべてで最高賞を獲得した史上4人目の人物とされています(映画公式資料)。

映画『シンプル・アクシデント/偶然』ワヒド・モバシェリ

イランの現体制では実質、言論の自由は許されておらず、パナヒ監督の過去作には、本国で上映禁止となった作品があるどころか、パナヒ監督自身が投獄された経験を持っています。本作は2度目に収監された経験から生まれたというパナヒ監督は、「人物は架空だが、彼らの語るストーリーは実在の囚人が体験した事実に基づいている。登場人物や、その反応の多様性も事実だ」(映画公式資料)と述べています。

映画『シンプル・アクシデント/偶然』ワヒド・モバシェリ/マルヤム・アフシャリ/ハディス・パクバテン/マジッド・パナヒ/モハマッド・アリ・エリヤ

本作はこのような背景を持つものの、私はいつものようにあらすじを含めてほぼ前情報なしに観ました。だから、冒頭の家族のやり取りや表情に対する違和感、主人公ワヒド(ワヒド・モバシェリ)の言動の不可解さの意味が、徐々に繋がっていく感覚でした。キャラクターはごく普通の人々であるからこそ、彼等の関係性がわかると、これがイランの日常なのかと愕然とします。

映画『シンプル・アクシデント/偶然』ワヒド・モバシェリ

『シンプル・アクシデント/偶然』というタイトルには、とても皮肉が効いています。本当に些細な出来事が発端で、複数の人物の日常が脅かされることになります。厳密にいうと、普段も些細な出来事で投獄されるような状況に置かれていると同時に、日常を取り戻してもなお、平穏な日々を送れていない現実があるといえます。

映画『シンプル・アクシデント/偶然』ワヒド・モバシェリ/マルヤム・アフシャリ/モハマッド・アリ・エリヤ

本作の撮影も公式に申請して通るわけがないので、これまで通り隠密手法を使ったものの、クランクアップ直前には私服警官によって圧力をかけられ、撮影が一時中断したそうです。撮影中はもちろん、撮影後も関係者にはリスクがあります。そうした状況下で、「公に体制を批判するイラン映画では通常キャストやクルーの名前を伏せ」るなか、本作はそうしていない点について、出演者全員が名前を出すことを望んだとのことです(映画公式資料)。

こうした覚悟の上で生まれた作品です。今、イランの人々は、アメリカとの紛争でも苦境に立たされています。私達にも他人事ではありません。ぜひ本作で世界で起きている現実をご覧ください。

デート向き映画判定

映画『シンプル・アクシデント/偶然』ハディス・パクバテン/マジッド・パナヒ

結婚を間近に控えた花嫁でさえも、“偶然”の出来事によって、過去の辛い経験に一気に引き戻されてしまう状況が映し出されています。セリフでしか出てこないとはいえ、投獄された女性達が計り知れない恐怖を味わわされる現実を知る機会にもなります。こうした社会問題をどう捉えるかに、人生観が表れると思います。相手を知るきっかけに誘ってみるのもアリでしょう。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『シンプル・アクシデント/偶然』ワヒド・モバシェリ/マルヤム・アフシャリ/マジッド・パナヒ/モハマッド・アリ・エリヤ

本作には小さな子どもも登場します。本作を観ていると、子ども達の目にこの世界はどう映っているのか心配になります。子どものうちは、事情を知らされないかもしれませんが、本作で映し出されているような状況で、穏やかに過ごせるはずがありません。また、親が体制側の人間かどうかという違いは、子ども達の人間関係にも影を落とすのではないかと想像します。本作を観ると、平和な日常は当たり前ではないと実感できるでしょう。

映画『シンプル・アクシデント/偶然』ワヒド・モバシェリ/マルヤム・アフシャリ/ハディス・パクバテン/マジッド・パナヒ/モハマッド・アリ・エリヤ

『シンプル・アクシデント/偶然』
2026年5月8日より全国公開
セテラ・インターナショナル
公式サイト

ムビチケ購入はこちら
映画館での鑑賞にU-NEXTポイントが使えます!無料トライアル期間に使えるポイントも

©LesFilmsPelleas

TEXT by Myson

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2026年5月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ』ジューン・スキッブ ジューン・スキッブ【ギャラリー/出演作一覧】

1929年11月6日生まれ。アメリカ、イリノイ州ヴァンダリア出身。

映画『億万長者の不都合な終末』メアリー・エリザベス・ウィンステッド 億万長者の不都合な終末【レビュー】

『プラットフォーム』で階級社会を見事に描いたガルデル・ガステル=ウルティア(ガルダー・ガステル=ウルティアと書くこともある)監督の作品…

映画『マジカル・シークレット・ツアー』有村架純/黒木華/南沙良 マジカル・シークレット・ツアー【レビュー】

金の密輸をした主婦達が中部国際空港で逮捕された事件が報道された2017年、育児に追われていた天野千尋監督は、「【金塊を下着に隠して密輸した主婦5人を逮捕】という記事を目にして…

映画『Chime』吉岡睦雄 吉岡睦雄【ギャラリー/出演作一覧】

1976年7月11日生まれ。広島県出身。

映画『急に具合が悪くなる。』ヴィルジニー・エフィラ/岡本多緒 急に具合が悪くなる。【レビュー】

ずっとセリフを浴びていたいと思える作品です。本作を観て、ヴィルジニー・エフィラが演じるマリー=ルー・フォンテーヌと、岡本多緒が演じる森崎真理の間で繰り広げられる対話に…

映画『黒牢城』本木雅弘/菅田将暉/吉高由里子/青木崇高/宮舘涼太/柄本佑/オダギリジョー 黒牢城【レビュー】

歴史ものでこれほどミステリー色が前面に出ているとは新鮮…

映画『ヌーヴェルヴァーグ』ギヨーム・マルベック/ゾーイ・ドゥイッチ 『ヌーヴェルヴァーグ』一般試写会 10組20名様ご招待

映画『ヌーヴェルヴァーグ』一般試写会 10組20名様ご招待

映画『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』ジョン・リスゴー 叫んで、泣いて、笑って楽しむ!2026ホラー&スリラー特集

2026年も、ホラー、スリラーがたくさん劇場公開されます。今回は、5つの切り口で分類してみました。お好みの切り口の作品を観る参考にしてもらえると嬉しいです。

【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集! 【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集!

今回は、私の研究で扱っている情動知能を取り上げます。非認知能力という言葉を聞いたことがあるでしょう…

映画『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』ジェニファー・ローレンス DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ【レビュー】

REVIEWジェニファー・ローレンスとロバート・パティンソンが共演する本作は、アリアナ・ハ…

【映画でSEL】にたどりつくまでの道

今のあなたに必要な非認知能力を伸ばす【映画でSEL】プログラムのご案内

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集! 【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集!

今回は、私の研究で扱っている情動知能を取り上げます。非認知能力という言葉を聞いたことがあるでしょう…

映画『ボヘミアン・ラプソディ』ラミ・マレック 映画好きが選んだ実在アーティストの伝記映画ランキング

今回は実在アーティストの伝記映画について、正式部員の皆さんに投票してもらいました。さまざまな有名アーティストにまつわる作品がある中で上位にランクインしたのはどの作品でしょうか?

映画『ズートピア2』 映画好きが選んだ2025アニメ映画ベスト

今回は、2025年に劇場公開されたアニメ映画について、正式部員の皆さんによる投票結果ベスト30を発表!2025年のアニメ映画ベストに輝いたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画学ゼミ第9回】「作品との心理的距離感に影響を与え得る情動知能」参加者募集!
  2. 映画『炎上』森七菜/髙橋芽以
  3. 【映画学ゼミ第8回】「感情は有用か、有害か、映画の場合で考える」参加者募集!

REVIEW

  1. 映画『億万長者の不都合な終末』メアリー・エリザベス・ウィンステッド
  2. 映画『マジカル・シークレット・ツアー』有村架純/黒木華/南沙良
  3. 映画『急に具合が悪くなる。』ヴィルジニー・エフィラ/岡本多緒
  4. 映画『黒牢城』本木雅弘/菅田将暉/吉高由里子/青木崇高/宮舘涼太/柄本佑/オダギリジョー
  5. 映画『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』ジェニファー・ローレンス

PRESENT

  1. 映画『ヌーヴェルヴァーグ』ギヨーム・マルベック/ゾーイ・ドゥイッチ
  2. 映画『大統領のケーキ』バニーン・アハマド・ナーイフ
  3. 映画『サヨナラの引力』ク・ギョファン/ムン・ガヨン
PAGE TOP