REVIEW

英雄の証明【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『英雄の証明』アミル・ジャディディ/サレー・カリマイ

これは1人の男性が情報社会に翻弄される物語。借金の返済ができずに投獄されているラヒムは、返済さえできればすぐに出所できる状況にあります。ここで、たくさんの金貨が入ったバッグがキーアイテムとして出てくるのですが、これを巡るラヒムの行動によって、彼は英雄としてまつりあげられます。そうしてラヒムに幸運にも出所の可能性が見えてくるのですが、彼を良く思わない者もいて、ある出来事をきっかけに関係者同士の猜疑心が強まり、ラヒムの出所の話にも暗雲が立ち込めます。
ここからは本編をご覧いただくとして、本作には誰にでも起こり得る出来事が描かれています。ラヒムに感情移入して観ると、彼の出所や再起を阻む人物が疎ましいのですが、彼等の言い分には間違えているとも言えないところがあります。さらにそこにはそれぞれの感情も入り混じっているために、一方的な解釈や言い分がマスメディアやSNSを通して公になり独り歩きをしてしまいます。そうして無関係な第三者の反応が余計に問題をこじらせてしまう怖さが、本作ではリアルに伝わってきます。
また、始めはちょっとした“演出”程度に考えていたことがすべてを破壊することに繋がり、小さなほころびが全部を台無しにする展開は最初から予想できるものの、同じような事態は私達の日常にありふれています。この光景に人間の愚かさを感じると同時に、どんなに個人的な出来事もすぐに公にできてしまう時代になったことで、私達は常に大きな力に翻弄されてしまい我を失う危険性と隣り合わせにいることを痛感します。そして、そもそも公にならなければ、取り繕う必要はなく、当事者同士で真摯に向き合えば済むことが、それだけでは済まない事態に複雑化してしまうことを余儀なくされる時代に私達が生きていることを思い知らされます。SNSなどの普及で自分を演出できる時代になりましたが、本作はその功罪を見事に描いています。

デート向き映画判定
映画『英雄の証明』サハル・ゴルデュースト

ラブストーリーではありませんが、ラヒムと婚約者の関係も物語の鍵を握っています。正しい行いかどうかより先に、婚約者はラヒムを助けたい思いでいっぱいになっているのは、好きな人がいる方なら共感できると思います。でも、客観的に冷静に考えてどうすることが1番相手のためになるのか、本作でシミュレーションすることができます。観終わった後にお互いの考えを話すことで、価値観の相性を知ることができるのではないでしょうか。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『英雄の証明』アミル・ジャディディ

いろいろな人間の利害関係が絡んだストーリーなので、キッズには少し難しいかもしれません。またイランの法制度も日本と違うので、そういった背景を理解しながら観るならば中学生以上向けかなと思います。大人が主人公ですが、SNSが普及し日常的に使うことが多い皆さんにとっても身近なストーリーです。この時代に生きる上でのいろいろなリスクを客観的に観られるので、ティーンの皆さんにはぜひ観て欲しいと思います。

映画『英雄の証明』アミル・ジャディディ

『英雄の証明』
2022年4月1日より全国順次公開
シンカ
公式サイト

©2021 Memento Production -Asghar Farhadi Production -ARTE France Cinema

TEXT by Myson

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『嵐が丘』マーゴット・ロビー/ジェイコブ・エロルディ 嵐が丘【レビュー】

エミリー・ブロンテが1847年に書いた「嵐が丘」は、1970年にも一度…

Netflixドラマ『エミリー、パリへ行く シーズン5』ブリュノ・グエリ ブリュノ・グエリ【ギャラリー/出演作一覧】

1975年7月11日生まれ。フランス出身。

映画『教皇選挙』レイフ・ファインズ/スタンリー・トゥッチ 映画好きが選んだ2025洋画ベスト

正式部員の皆さんに投票していただいた2025年洋画ベストの結果を発表!2025年の洋画ベストに輝いたのは!?

映画『災 劇場版』中島セナ 中島セナ【ギャラリー/出演作一覧】

2006年2月17日生まれ。東京都出身。

映画『超時空英雄伝エイリアノイド PART1』リュ・ジュンヨル/キム・ウビン/キム・テリ 超時空英雄伝エイリアノイド PART1【レビュー】

『10人の泥棒たち』『暗殺』のチェ・ドンフンが監督を務め、『パラサイト 半地下の家族』のCJ ENMが手掛ける本作は…

映画『クライム 101』クリス・ヘムズワース/マーク・ラファロ/バリー・コーガン/ハル・ベリー クライム 101【レビュー】

犯罪小説の巨匠、ドン・ウインズロウが書いた原作小説は、収録された短編集「クライム101」(「壊れた世界の者たちよ」から改題)が2020年10月に出版されると、映画化権を巡って…

映画『スペルマゲドン 精なる大冒険』 スペルマゲドン 精なる大冒険【レビュー】

思春期の少年のカラダの中で、“スペルマゲドン”の瞬間を待つ精子達の姿を描くという奇想天外なストーリーながら、大作系アニメーションの…

映画『レンタル・ファミリー』ブレンダン・フレイザー/ゴーマン シャノン 眞陽 レンタル・ファミリー【レビュー】

REVIEW『ザ・ホエール』で米アカデミー賞主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーが主…

映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』ジョシュ・ハッチャーソン ジョシュ・ハッチャーソン【ギャラリー/出演作一覧】

1992年10月12日生まれ。アメリカ出身。

映画『ブゴニア』エマ・ストーン ブゴニア【レビュー】

それぞれに強烈な世界観を持つ作品を作り出してきたヨルゴス・ランティモスとアリ・アスターがタッグを組んだ本作は…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『教皇選挙』レイフ・ファインズ/スタンリー・トゥッチ 映画好きが選んだ2025洋画ベスト

正式部員の皆さんに投票していただいた2025年洋画ベストの結果を発表!2025年の洋画ベストに輝いたのは!?

【映画学ゼミ第5回】「登場人物にみる人間の非合理性」参加者募集! 【映画学ゼミ第5回】「登場人物にみる人間の非合理性」参加者募集!

2025年10月から始めた映画学ゼミは、皆様のおかげで第4回(全8コマ)を実施できました。本当にありがとうございます! 2026年に入り、プチリニューアルし、第5回を実施します。

映画『ウィキッド ふたりの魔女』シンシア・エリヴォ/アリアナ・グランデ トーキョー女子映画部が選ぶ 2025年ベスト10&イイ俳優MVP

2025年も毎年恒例の企画として、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画学ゼミ第5回】「登場人物にみる人間の非合理性」参加者募集!
  2. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
  3. 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集

REVIEW

  1. 映画『嵐が丘』マーゴット・ロビー/ジェイコブ・エロルディ
  2. 映画『超時空英雄伝エイリアノイド PART1』リュ・ジュンヨル/キム・ウビン/キム・テリ
  3. 映画『クライム 101』クリス・ヘムズワース/マーク・ラファロ/バリー・コーガン/ハル・ベリー
  4. 映画『スペルマゲドン 精なる大冒険』
  5. 映画『レンタル・ファミリー』ブレンダン・フレイザー/ゴーマン シャノン 眞陽

PRESENT

  1. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP