学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画60:記憶障害の診断「神経認知領域」と「病因」からみる『殺し屋のプロット』

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映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン

今回は、急速に進行してしまう認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病に冒された殺し屋の最後の“仕事”を描く『殺し屋のプロット』を取り上げます。

今回の本題に入る前に、これまで【心理学から観る映画】コーナーで取り上げた、記憶に関連する記事を挙げておきます。

心理学から観る映画11-1:記憶はその人を作る」では、記憶喪失になった主人公のストーリー『記憶にございません!』を取り上げ、記憶の仕組みとして、“感覚記憶”“短期記憶”“長期記憶”があることなどを説明しました。続く「心理学から観る映画11-2:認知症でも諦めない」では、認知症の方々が行う認知症改善プログラム「学習療法」を使ったトレーニングの様子を捉えたドキュメンタリー『僕がジョンと呼ばれるまで』や、アルツハイマー病患者が音楽療法を受ける様子を捉えたドキュメンタリー『パーソナル・ソング』をご紹介しました。

心理学から観る映画32:バイクに乗ったり、戦ったり、自然に身体が動くのはなぜ?」では、主人公が“体で覚えた動き”といえる戦闘力を発揮する『ブラック・ウィドウ』を例に、自転車の乗り方や楽器の弾き方などといった技能に関する行動的スキルや、暗算など方略に関する認知スキルにまつわる“手続き的記憶”について取り上げました。

映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン

記憶に関わる説明は上記をご覧いただくとして、今回は記憶障害はどのような領域に関係するのかをご紹介します。

DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)によると、神経認知領域は下記のように分類されています。

神経認知領域
●複雑性注意:持続制注意(一定の時間注意を維持する)、分配性注意(同じ時間内に2つの仕事に対応する/例:話を聞きながら内容をタイピングする)、選択性注意(複数の刺激がある状況で特定の刺激に対する注意を維持する)、処理速度
●実行機能:計画性、意思決定、ワーキングメモリー、フィードバック/エラーの訂正応答、習慣無視/抑制(例:1つの語を読むのではなく文字の色を答える)、心的/認知の柔軟性(例:数字から文字への変換、大きさの順序から色による順序への変換)
●学習と記憶:即時記憶、近時記憶(自由再生、手がかり再生、再認記憶を含む)、長期記憶(意味記憶、自伝的記憶)、潜在学習
●言語:表出性言語(呼称、喚語、流暢性、文法および構文を含む)と受容性言語(理解、言語的指示に従った動作および活動の実行)
●知覚ー運動:視知覚、視覚構成、知覚ー運動(視覚的手がかりがなしに動作をする/例:穴にネジを差し込む)、実行(習得した動作の統合/例:別れの際に手を振る、道具の使い方を身振りで示す)、認知
●社会的認知:情動認知、心の理論(他者の精神状態や体験を考慮する能力)

American Psychiatric Association(2014)

映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン

あくまで映画上の設定であり、実際の診断に即した見立てではないことを前提に、ジョンが神経認知領域のどの部分に支障をきたしているのかを観てみると、はじめのうち殺し屋としての手続き的記憶の部分はあっても、これから立てて実行しようとする計画、つまり新しい記憶は長く保持できない様子が描かれています。よって、主に「学習と記憶」の部分に支障をきたしていると見受けられます。

認知症かどうかの診断は、以上にある各神経認知領域でどのような変化が起こっているかによって下されます。さらに、病因による分類があります。例として、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、血管性疾患、外傷性脳損傷、物質・医薬品の使用、HIV感染、ブリオン病、パーキンソン病、他の医学的疾患、複数の病因などが挙げられています(高橋三郎・大野裕,2014)。

では『殺し屋のプロット』の主人公ジョン・ノックス(マイケル・キートン)が患うクロイツフェルト・ヤコブ病は、どの病因にあたるのでしょうか。

クロイツフェルト・ヤコブ病は、プリオン病と呼ばれる「脳に異常なプリオン蛋白が沈着し、脳神経細胞の機能が障害される一群の病気」の代表的なものであり、罹患率は「年間100万人におよそ1~2人」とされています。また、「この病気の原因は、プリオンと呼ばれる感染因子」であるといわれています。(難病情報センター)

映画『殺し屋のプロット』ジェームズ・マースデン

映画の中でも説明されていますが、クロイツフェルト・ヤコブ病は進行が早いため、ジョン・ノックスの殺し屋の仕事にも大きく影響します。そして、ジョンは引退を決意するものの、思わぬ事態が発生。ある人物を助けるプロットだけは完遂しようとします。そのプロットには、ジョンが記憶をなくしていくことが想定されている点が、本作の展開の見どころとなっています。ジョンのプロットは、何手も先を見越した仕掛けになっている点では、ジョンが博士号を持った頭脳派という設定によって説得力を持たせています。

映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン

人間の記憶のメカニズムはとても複雑で、キャラクター描写でどこまで忠実に描けるのかという観点でいっても難しいのではと感じます。そんななか、本作では「記憶を失っていく」という設定を上手くプロットに組み込んだストーリーが観られます。不可解な主人公の行動が最後に上手く集結する展開をぜひお楽しみください。

<参考・引用文献>
難病情報センター「プリオン病(1)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)(指定難病23)」
American Psychiatric Association(著)高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5—精神疾患の分類と診断の手引.医学書院,pp.270—283

映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン

『殺し屋のプロット』
2025年12月5日より全国公開
キノフィルムズ
公式サイト

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TEXT by Myson 武内三穂(認定心理士)

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