REVIEW

ファースト・カウ【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ファースト・カウ』ジョン・マガロ

REVIEW

1820年代、未開の地オレゴンで、料理人のクッキーと中国人移民のキング・ルーは運命的に出会います。貧しいながらも助け合って生活をしていた2人は、村に初めて一頭の乳牛がやってきたのを知り、妙案を思いつきます。それは、村に一頭しかいない乳牛からミルクを盗んでドーナツを作り、売ることでした。そして、料理人のクッキーが作る甘いドーナツは、あっという間に売り切れるほど人気になり、2人の貯金も増えていきます。でも、その後、2人に思わぬ展開が待ち受けていました。
未開の地で食料そのものが不足しているなか、甘いドーナツは貴重な”美味しい食べ物”で、すぐに人気が出ます。まさにアメリカン・ドリームが叶いそうな展開は観ていてワクワクします。ただ、主人公2人も、観客である私達も、ミルクを盗んで作っている事実を知っているだけに、手放しに喜べません。さらに、忘れた頃に映画の冒頭のくだりを思い出して、嫌な予感も増してきます。本作は、まずこうした物語の組み方が絶妙です。
そして、貧しい者が逃れられない運命を辛辣に描くと同時に、清貧も描いている点で、観る者の心を揺さぶります。さらに、ちょっとした出来心が致命傷になりうると薄々わかっていながら過ちをおかしてしまう人間の性を映し出していて、束の間のサクセスストーリーがあることで残酷さを増しています。同時に、貧しい者が富める者から奪うことは絶対に許されないにもかかわらず、時代や場所を問わず、世の中は富める者が貧しい者から奪うことは許される現実を思い出させます。「ゴドーを待ちながら」を彷彿とさせる不条理を描いた本作は、とてもシンプルな設定ながら、現実社会を痛いほど投影しています。
類い希なる才能を見せつけるケリー・ライカート監督による本作は、アメリカ本国では、数々の個性豊かな秀作を輩出してきたA24によって配給されました。さらに、世界の映画祭では157部門にノミネートされ、27部門で受賞しています。日本の映画ファンも本作を見逃せませんね。

デート向き映画判定

映画『ファースト・カウ』ジョン・マガロ/オリオン・リー

ロマンチックな展開はないので、逆にデートで観やすいでしょう。ただ、切ない展開もあり、ウキウキしたテンションで過ごしたい日のデートには不向きかもしれません。また、ビジネスに関心が深い方が観ると、観賞中に仕事脳にスイッチが入る可能性があります。その辺りが気にならないなら、デートで観るのも良さそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『ファースト・カウ』トビー・ジョーンズ

将来起業する予定がなくても、起業を擬似体験できるストーリーで、ビジネスの勉強になる部分があります。そして、ビジネスをする上での注意点、というか倫理的にそもそもやってはダメなことを再確認できるでしょう。自分ならどうするか考えながら観ると、自分の価値観を方向づけるきっかけとできるところもありそうです。

映画『ファースト・カウ』

『ファースト・カウ』
2023年12月22日より全国公開
東京テアトル、ロングライド
公式サイト

ムビチケ購入はこちら

©︎ 2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

TEXT by Myson

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2023年12月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『流麻溝十五号』余佩真(ユー・ペイチェン) 流麻溝十五号【レビュー】

本作の原作は、曹欽榮(ツァオ・シンロン)と鄭南榕基金会による「流麻溝十五號:綠島女生分隊及其他」です…

映画『ツイスターズ』オリジナルハンディファン 『ツイスターズ』オリジナルハンディファン 2名様プレゼント

映画『ツイスターズ』オリジナルハンディファン 2名様プレゼント

映画『このろくでもない世界で』ホン・サビン/ソン・ジュンギ このろくでもない世界で【レビュー】

冒頭から緊張感のあるシーンで始まる本作は、ろくでもない世界でもがく18歳の少年を主人公に…

映画『OUT』公開初日舞台挨拶、杉本哲太 杉本哲太【プロフィールと出演作一覧】

1965年7月21日生まれ。神奈川県出身。『白蛇抄』(1983)で映画デビューし…

映画『あのコはだぁれ?』清水崇監督インタビュー 『あのコはだぁれ?』清水崇監督インタビュー

昨年話題となった『ミンナのウタ』のDNAを引き継ぐ最新作『あのコはだぁれ?』。今回は本作を手掛けた…

映画『デッドプール&ウルヴァリン』ライアン・レイノルズ/ヒュー・ジャックマン デッドプール&ウルヴァリン【レビュー】

たくさん言いたいことはありながら、ネタバレになるので言えないことが多過ぎ…

映画『時々、私は考える』デイジー・リドリー 時々、私は考える【レビュー】

主人公のフラン(デイジー・リドリー)はとても静かだけれど、ここぞという時には…

映画『お隣さんはヒトラー?』デヴィッド・ヘイマン/ウド・キアー お隣さんはヒトラー?【レビュー】

タイトルは『お隣さんはヒトラー?』で、物語の舞台は1960年のコロンビア…。「むむむ?アドルフ・ヒトラーって…

映画『ロイヤルホテル』ジュリア・ガーナー/ジェシカ・ヘンウィック ロイヤルホテル【レビュー】

『アシスタント』のキティ・グリーン監督と、主演を務めたジュリア・ガーナーが再びタッグを組んだ本作は…

映画『チャレンジャーズ』ゼンデイヤ 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外10代、20代編】個性部門

映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外10代、20代編】番外編として、今回は<個性部門>のランキングを発表します。特に個性が光る俳優としてどの俳優に投票が集まったのでしょうか?

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『チャレンジャーズ』ゼンデイヤ 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外10代、20代編】個性部門

映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外10代、20代編】番外編として、今回は<個性部門>のランキングを発表します。特に個性が光る俳優としてどの俳優に投票が集まったのでしょうか?

Netflix映画『悪魔はいつもそこに』トム・ホランド 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外10代、20代編】演技力部門

映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外10代、20代編】番外編として、今回は<演技力部門>のランキングを発表します。演技派揃いのなか、どのような結果になったのでしょうか。

海外ドラマ『THE GREAT 〜エカチェリーナの時々真実の物語〜』エル・ファニング 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外10代、20代編】雰囲気部門

映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外10代、20代編】番外編として、今回は<雰囲気部門>のランキングを発表します。雰囲気の良さが特に評価されているのは、どの俳優でしょうか。

REVIEW

  1. 映画『流麻溝十五号』余佩真(ユー・ペイチェン)
  2. 映画『このろくでもない世界で』ホン・サビン/ソン・ジュンギ
  3. 映画『デッドプール&ウルヴァリン』ライアン・レイノルズ/ヒュー・ジャックマン
  4. 映画『時々、私は考える』デイジー・リドリー
  5. 映画『お隣さんはヒトラー?』デヴィッド・ヘイマン/ウド・キアー

PRESENT

  1. 映画『ツイスターズ』オリジナルハンディファン
  2. 映画『サユリ』
  3. 映画『ボストン1947』ハ・ジョンウ/イム・シワン
PAGE TOP