REVIEW

ペイン・アンド・グローリー

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ペイン・アンド・グローリー』アントニオ・バンデラス/ノラ・ナバス

ペドロ・アルモドバル監督の自伝的作品と言われる本作は、アントニオ・バンデラスが演じる主人公サルバドールの子どもの頃と今を行き交う物語です。慢性的な背中の痛み、頭痛などに苦しむサルバドールは、映画監督として成功を収めつつも、うつ病に悩まされ、長らく映画制作から離れていました。そんな彼のもとに、32年前に撮った映画の上映依頼が届き、当時仲違いした俳優と再会することになります。そして彼はこのことをはじめ、子どもの頃の母との思い出や、若かりし頃の恋人との思い出に触れていくのですが、一見それぞれ“点”だった思い出は、線となって彼の今へと繋がっていることが、物語が語られるなかで綴られていきます。これはあくまで私の解釈ですが、それぞれの思い出は今の彼を形作っていて、それぞれを繋ぐものは、母親の存在です。そして、愛ゆえに息子として母を思う心と、母の思いに応えられない葛藤が、彼の中にずっとあって、彼は苦しんできたのではないかと思うのですが、それを独特な描写で芸術的にそして情緒的に描くペドロ・アルモドバル監督の手腕を実感します。これまでのペドロ・アルモドバル監督作にはぶっ飛んだ作品もあれば、母をテーマにした作品もありましたが、本作は後者で、監督にとって母親の存在は神秘的で特別なもので、芸術への意欲を高める存在なんですね。そのことが本作のストーリーのなかにも投影されていて、ペドロ・アルモドバル監督のルーツに触れられる作品となっています。官能的で情熱的で温かく詩的な本作は、スペイン映画の魅力も存分に感じられます。アントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルスの名演にも魅了されますよ。

デート向き映画判定
映画『ペイン・アンド・グローリー』ペネロペ・クルス

本作は主人公サルバドールのルーツを辿る物語で、その中にはもちろん恋愛も出てきます。切なさもありますが、清々しくもある美しい恋愛が描かれていて、渦中にいる時は辛くても人生で一度はこういう恋愛があって良いのではないかと思わせてくれます。カップルで観て気まずいシーンはないので、そこはご心配なく。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『ペイン・アンド・グローリー』アントニオ・バンデラス

R-15なので15歳未満の人はまだ観られません。内容的にも大人向けで、人生でいろいろな経験をしてから観るほうが、感情移入しやすい内容だと言えます。でも、本作では、主人公の物語を通して、アイデンティティを形作るきっかけとなる出来事が綴られていくので、大人に近づきつつある15歳以上の思春期の皆さんには、共感できるポイントがいくつか見つかるかも知れません。また母と子どものストーリーなので、親子関係を客観視できる部分もあると思います。親の愛情の裏にどんな思いがあって、子が親に対して思うことの裏にどんな本心があるのか、見つめ直すきっかけに観てみるのもアリですよ。

映画『ペイン・アンド・グローリー』アントニオ・バンデラス/ペネロペ・クルス

『ペイン・アンド・グローリー』
2020年6月19日より全国公開
R-15+
キノフィルムズ、木下グループ
公式サイト

©El Deseo.

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ 心理学から観る映画59:研究倫理に反する実験とその被害『エクスペリメント』『まったく同じ3人の他人』

『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーを観ました。生き別れた三つ子が再会する感動のストーリーかと思いきや、驚愕の背景を知り、研究倫理について改めて考えさせられました。そこで今回は研究倫理をテーマとします。

映画『コンビニ・ウォーズ~バイトJK VS ミニナチ軍団~』ヴァネッサ・パラディ ヴァネッサ・パラディ【ギャラリー/出演作一覧】

1972年12月22日生まれ。フランス出身。

映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮 ブルーボーイ事件【レビュー】

高度成長期にあった1965年の東京では、街の浄化のため、警察はセックスワーカー達を厳しく取り締まっていました。ただ、セックスワーカーの中には性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けて女性的な体をした通称ブルーボーイが…

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人 君の顔では泣けない【レビュー】

高校1年生の夏、坂平陸(武市尚士)と水村まなみ(西川愛莉)はプールに一緒に落ちたことで体が入れ替わってしまいます。2人はすぐに元に戻ることができず15年を過ごし…

映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト スプリングスティーン 孤独のハイウェイ

物語の舞台は1982年。ブルース・スプリングスティーン(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、名声を手に入れながらも、葛藤を抱えて…

映画『2つ目の窓』松田美由紀 松田美由紀【ギャラリー/出演作一覧】

1961年10月6日生まれ。東京都出身。

「第38回東京国際映画祭」クロージングセレモニー:受賞者 東京グランプリは『パレスチナ36』!第38回東京国際映画祭ハイライト

2025年10月27日(月)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開幕したアジア最大級の映画の祭典である第38回東京国際映画祭が、11月5日(水)に閉幕。今年も個性豊かな作品が多数出品され、さまざまなイベントが実施されました。以下に、第38回東京国際映画祭ハイライトをお届けします。

映画『平場の月』堺雅人/井川遥 平場の月【レビュー】

朝倉かすみ著の同名小説を実写化した本作は、『ハナミズキ』『花束みたいな恋をした』(2021年)などを手がけた土井裕泰が監督を務めて…

映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル ぼくらの居場所【レビュー】

カナダのトロント東部に位置するスカボローを舞台に、さまざまな背景を抱えた3組の親子の姿を…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画学ゼミ2025年11月募集用 AI時代における人間らしさの探求【映画学ゼミ第2回】参加者募集!

ネット化が進み、AIが普及しつつある現代社会で、人間らしさを実感できる映画鑑賞と人間にまつわる神秘を一緒に探求しませんか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  2. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  3. 映画『おーい、応為』長澤まさみ

REVIEW

  1. 映画『ブルーボーイ事件』中川未悠/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕/泰平史/錦戸亮
  2. 映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人
  3. 映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ジェレミー・アレン・ホワイト
  4. 映画『平場の月』堺雅人/井川遥
  5. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP