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ノー・アザー・ランド 【レビュー】

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映画『ノー・アザー・ランド』バーセル・アドラー/ユヴァル・アブラハーム

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こんなに理不尽なことが日常的にあるとは信じがたい光景が本作には収められています。本作は、ヨルダン川西岸地区にあるパレスチナ人が住むマサーフェル・ヤッタという村で起きている、イスラエルによる侵略行為と、それに対抗し自分達が生まれ育った土地を守ろうと戦うパレスチナ人達の姿を追ったドキュメンタリーです。

映画『ノー・アザー・ランド』バーセル・アドラー

監督は、マサーフェル・ヤッタに住むパレスチナ人のバーセル・アドラーと、彼と同い年でイスラエル人のユヴァル・アブラハームを中心に、パレスチナ人2名、イスラエル人2名の若き映像作家兼活動家4名が共同で務めています。映画公式資料にある、監督4名(バーセル・アドラー/ユヴァル・アブラハーム/ハムダーン・バラール/ラヘル・ショール)の声明文を以下に掲載します。

映画『ノー・アザー・ランド』バーセル・アドラー/ユヴァル・アブラハーム

私たちはパレスチナ人とイスラエル人の、映画作家であり活動家でもある4人組です。
本作を共同制作した理由は、マサーフェル・ヤッタで今まさに進行しているパレスチナ人の強制追放を阻止し、現代にもはびこるアパルトヘイトの現実に、壁の両方から、不平等を映し出すことによって抵抗したいからです。
私たちを取り巻く現実は日に日に恐ろしく、暴力的になり、マサーフェル・ヤッタの人々は弱く小さな存在へと追いやられています。私たちができることは、叫び声をあげることだけです。
本作の核心にあるものは、イスラエル人とパレスチナ人が、この地で、抑圧する側とされる側ではなく、本当の平等の中で生きる道を問いかけることです。

映画『ノー・アザー・ランド』

イスラエルによるマサーフェル・ヤッタへの暴虐は「1967年の第三次中東戦争でイスラエルがガザ地区とヨルダン川西岸地区を軍事的に制圧して以来、この二つの地域は今日まで同国の占領下にある」(映画公式資料、国際政治学者・高橋和夫氏解説より)ことが発端となっています。マサーフェル・ヤッタでは、パレスチナ人の家が毎日ブルドーザーで壊され、突然家を追い出された村人達は洞窟に住んでいます。イスラエル兵に抵抗すれば逮捕されるだけでなく、銃撃されることもあります。実際にカメラの前で村人が銃に倒れる姿が映っています。

映画『ノー・アザー・ランド』

村人達はこれまでも、家を壊されては建て直しを繰り返しているものの、イスラエル兵だけではなく、武装した入植者達が襲ってくることもあり、長年平和に暮らすことができていません。この状況を変えるために、バーセルは15歳から活動家、ドキュメンタリー作家としてカメラを武器に戦っています。ユヴァルはイスラエル人なので人によっては敵対視される可能性があるものの、バーセルや家族、村人達とお互いに対等に仲良くしていて、彼らのような人達がいるからこそ、まだ平和への希望が残されていると感じます。

映画『ノー・アザー・ランド』ユヴァル・アブラハーム

観客の1人としてこうした現状を目の当たりにした時に、私達は役に立てるだろうかとしばしば考えさせられます。直接的には貢献できないとしても、世界から多くの目が向けられることで、侵略行為が抑制される効果はわずかだとしてもあるのだと本作から伝わってきます。ただ、ユヴァルが話していたように、多くの人に知られてから先に何ができるのか、そこでどうこの現状を変えるのかが肝心で、外から見守る私達も関心を切らしてはいけないと感じます。
とにかく1日でも早く、パレスチナの方もイスラエルの方も共に平和に暮らせることを祈ります。そのために、まずは1人でも多くの方にこの作品を観て欲しいです。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『ノー・アザー・ランド』

本作には小さな子ども達も登場し、危険な状況でも無邪気に遊ぶ姿に少し和まされます。ただ、子ども達の生活も脅かされます。子ども達が通う学校ですら、突然やってきたブルドーザーに壊されてしまいます。本作を観ると、住む家があり、学校に通えるのは当たり前ではないのだなとわかると思います。そして、たとえ国同士が敵対していても、心を通わせ人間同士で信頼し合う仲間となれるかは、個人が決められることであることも本作を観て知って欲しいと思います。

映画『ノー・アザー・ランド』バーセル・アドラー/ユヴァル・アブラハーム

『ノー・アザー・ランド』
2025年2月21日より全国順次公開
トランスフォーマー
公式サイト

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© 2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

TEXT by Myson

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