REVIEW

零落【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『零落』斎藤工

長い連載が終わり、次作もなかなか書けず、人気に陰りが出てきた漫画家の物語。本作には、漫画の人気が出ればもてはやされ、人気がなくなると手のひらを返したようにぞんざいに扱われる、漫画家の立場が生々しく描かれています。本作の原作は「ソラニン」などヒット作を生んだ人気漫画家、浅野いにおによる「零落」。人気漫画家自身が、人気漫画家を主人公に描いているわけですから、この原作も身を削って書かれたものといえるでしょう。この物語には世の中が作り上げた漫画家のヒーロー的なイメージと、実際の漫画家が自覚する姿とのギャップに対する悲痛な叫びが込められています。漫画家に限らず、人気商売の過酷さを実感する内容で、人気の有無に左右される仕事に就かれている方、そういった業界にいる方にとっては特に身近なテーマであるのはもちろん、昨今SNSで人気を集めることに関心が置かれる風潮を考えると、誰にでも当てはまるテーマともいえます。
自分が作りたい作品を作ることと、人気を得ることは必ずしも一致しない。これはクリエイティブな仕事をする方、目指す方がいつかぶつかる問題です。また、人気が出たら出たでできることが増える一方、できなくなること、手放さなければいけないことも増える。途中で気付ければ何とかできるのかもしれませんが、無我夢中でやってきて夢を掴んだと思ったら、気付かないうちに自分でもどこにいるのかわからない。本作を観ていると、そんな怖さも知ることができます。主人公と同じような状況にあるとして、本作を観てどうしたらよいという答えは正直見つかりません。でも、何ともいえない余韻がズシンと残り、1度自分の現在地を確認することはできます。そこでどちらに進むのかを選ぶこと、覚悟を決めることはできるのかもしれません。

デート向き映画判定
映画『零落』斎藤工/趣里

夫婦の複雑な関係も描かれていて、デートのムードが盛り上がる内容ではありません。ただ、仕事に没頭するあまりコミュニケーションが取れていないと感じているカップルには、自分達を客観視する良い機会になるのではないでしょうか。何となくずっと一緒にいるという感覚になってしまったマンネリカップルにも、何らかの刺激をもたらしてくれそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『零落』斎藤工

将来やってみたい仕事について、皆さんにはまだ理想や夢を持っていて欲しいと考えると、本作はもう少し大人になってから観ても良いのかもしれません。ただ、現実を知っておくことで「それでもやりたい」という思いが強まり、覚悟ができるのであれば観て損はないでしょう。具体的に進路を考え始める中学生、高校生くらいで観ると、自分の人生観を構築する上で参考になる部分があるかもしれないですね。

映画『零落』斎藤工

『零落』
2023年3月17日より全国公開
PG-12
日活、ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト

©2023 浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル ぼくらの居場所【レビュー】

カナダのトロント東部に位置するスカボローを舞台に、さまざまな背景を抱えた3組の親子の姿を…

映画『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』ヨナス・ダスラー ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師【レビュー】

第二次世界大戦下のドイツに実在した牧師、ディートリヒ・ボンヘッファーは、ナチスに支配された教会やユダヤ人達を救おうと奮闘…

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』SUMIRE 佐藤菫【ギャラリー/出演作一覧】

1995年7月4日生まれ。東京都出身。

映画『プレデター:バッドランド』エル・ファニング プレデター:バッドランド【レビュー】

おもしろい!いろいろユニーク!“プレデター”シリーズは…

映画『モンテ・クリスト伯』ピエール・ニネ モンテ・クリスト伯【レビュー】

アレクサンドル・デュマ・ペールの傑作小説「巌窟王」を映画化した本作は…

映画『秒速5センチメートル』松村北斗 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年10月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年10月】のアクセスランキングを発表!

映画『旅と日々』シム · ウンギョン/堤真一 旅と日々【レビュー】

つげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を原作に、『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』などを手がけた三宅唱監督が映画化…

映画『風のマジム』肥後克広 肥後克広【ギャラリー/出演作一覧】

1963年3月15日生まれ。沖縄県出身。

【20周年記念ボイスシネマ声優口演ライブ2025】羽佐間道夫、山寺宏一ほか 人気声優達が真剣勝負!会場が終始笑いに包まれた【20周年記念ボイスシネマ声優口演ライブ2025】本番リポート

発起人である羽佐間道夫のもと、山寺宏一、林原めぐみほか錚々たる人気声優達がズラリと顔を揃えたライブは今年で20周年を迎えました…

映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』ホン・サビン/シン・ジュヒョブ あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。【レビュー】

物語の始まりは、1995年の韓国、テグ。学校でいじめられていたドンジュン…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年11月募集用 AI時代における人間らしさの探求【映画学ゼミ第2回】参加者募集!

ネット化が進み、AIが普及しつつある現代社会で、人間らしさを実感できる映画鑑賞と人間にまつわる神秘を一緒に探求しませんか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年11月募集用
  2. 映画『おーい、応為』長澤まさみ
  3. AXA生命保険お金のセミナー20251106ver3

REVIEW

  1. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル
  2. 映画『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』ヨナス・ダスラー
  3. 映画『プレデター:バッドランド』エル・ファニング
  4. 映画『モンテ・クリスト伯』ピエール・ニネ
  5. 映画『秒速5センチメートル』松村北斗

PRESENT

  1. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP