REVIEW
バイオレンスがテーマである点は念頭にあったものの、毎度ながら前情報を入れずに観たので、主要キャラクターの関係性は、ストーリーが展開されるなかで知り、徐々に点と点が線になっていく感覚を味わいました。R-18となっているとおり、本作には性的な暴力描写が含まれます。暴力描写について、パトリシア・マズィ監督は以下のように述べています。

この映画を監督する上でのチャレンジの1つが暴⼒をどう扱うかということでした。観客に⾒せるべきか? それとも他の多くの映画がそうであるように⾒せないほうが正しいのか? 悩んだ末、⾒せないという選択肢だと“暴⼒はどう⽣まれるのか?”という問題から逃げることになるのでは、と考えました。そして逃げないことにしました。勇気を持たないといけません。(映画公式資料)

本作で描かれる暴力性には本能的なものが含まれていると感じます。それは、動物に携わる人物として立場が違うキャラクターが出てくることからも伝わってきます。また、夜の街を彷徨い、寂しげに見える青年アルマン(アシル・レジアニ)は、物語の冒頭から結末にかけて、両極端な表情を見せます。彼が葛藤する姿には人間味がありつつも、複数の状況がトリガーとなり、抑えていたものが爆発してしまう瞬間を私達は目の当たりにします。

メタファーと捉えられる要素も複数みられます。アルマンが家を持たずに過ごしている様子は野生的といえる一方で、狩猟を趣味をする男達の野蛮さは人間的であると同時に動物的であるとも捉えられます。また、襲い、襲われるという死に瀕した緊迫感に興奮する様子はオス特有のものといえそうです。本作はそうした視点をもたらす描写が豊富にある点で見応えがあります。

そして、アルマンを演じるアシル・レジアニはパトリシア・マズィ監督の実の息子です。キャスティング担当に説得されたそうで、マズィ監督は「アシルの役作りはすばらしいと思ってきたのですが、彼にアルマンを演じてもらうのは単純なことではありません。不安でした。(中略)オーディションで⽂句なしの結果が出ました。⼒強さと恐怖と優しさが混じったアルマンを表現できたのはアシル以外いませんでした」と語っています(映画公式資料)。多面的で複雑さを極めたアルマンを演じたアシル・レジアニの演技にもぜひご注目ください。
デート向き映画判定

激しい性暴力を扱う内容なので、デートには不向きです。主人公のアルマン、兄のギョームのキャラクターや2人の関係性は見応えがあるので、1人でじっくり観るほうが良さそうです。鑑賞後に考察を話したい方は、映画好きの友達を誘うと良いでしょう。
キッズ&ティーン向き映画判定

R-18なので18歳になったら観られるものの、激しい描写があると同時に、セリフよりも表情や言動でキャラクターの心情を描写しているので、ある程度映画を観慣れてから観たほうが一層深く観られると思います。特に女性にはショッキングな描写があるので、免疫がついてから観てください。

『サターン・ボウリング』
2025年10月4日より全国公開
R-18+
SENLIS FILMS
公式サイト
© Ex Nihilo – Les Films du fleuve – 2021
TEXT by Myson
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情報は2025年10月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。