スパイ映画といえば洋画はすぐにイメージが浮かびますが、邦画だとどんな作品なのか、気になるところですよね。本作はいかにもスパイ映画というトーンではなく、夫婦の物語が軸となっていて、誰がスパイなのかどうかも露骨に表現されていないところが、おもしろさの1つとなっています。1940年の神戸を舞台にしていますが、まず単純に夫の行動に疑惑を浮かべる妻というところで観ると、時代を問わず感情移入しやすい内容になっていて、もちろんそれだけに終わらず、疑惑に迫っていくことによって妻の決意が新たになり、行動力を発揮する様子が最大の見どころとなっています。蒼井優のしゃべり方も時代背景を投影しているのかのように昭和の女性らしさが出ていて、演技で個を表現するだけでなく、その人が生きた時代までこれほど表現できるってスゴいなと、彼女の演技力の高さにも改めて驚かされます。そして、人間ドラマに集中して観ていたら、最後にアッと驚く展開が待っています。女性が観やすい作品なので、スパイ映画と変に括らずに観て欲しいと思います。
騙し騙されという展開はもちろんありますが、それが悪意によるものではなく、大きな志に根付いている点で、好感が持てます。夫婦愛が根底に描かれていて、自分ならどうするかを考えながら観ると、自ずと相手をどれだけ思っているかがわかってくるのではないでしょうか。特に気まずくなるようなシーンはないので、どんな相手を誘って観てもオーケーです。
内容的にもノリ的にも大人向けの作品で、恋を一度や二度経験してから観るほうが、感情移入しやすいのではと思います。キャラクター達は目的を果たすために頭を働かせますが、ストーリーそのものはそれほど複雑ではないので、興味があれば観てみてください。露骨には映りませんが、ちょっとだけ拷問を匂わせるシーンがあるので、キッズにはちょっと刺激的かも知れません。そういったことを含めて考えると、中学生以上向けかなと思います。
『スパイの妻』
2020年10月16日より全国公開
ビターズ・エンド
公式サイト
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TEXT by Myson