監督、脚本、主演を務めたバーバラ・ローデンのデビュー作であり遺作となった本作は、1970年のヴェネツィア国際映画祭で最優秀外国映画賞を受賞しました。でも、知る人ぞ知る作品でありながら、これまで広く公開されることはなかったようです。そんな本作がマーティン・スコセッシ監督設立の映画保存組織とGUCCIの支援を受け、プリントが修復され、日本で公開されることとなりました。主人公はバーバラ・ローデンが演じるワンダ。彼女はどん底の状態で町を彷徨っている時にある出来事に巻き込まれてしまいます。本作はそこから始まるロードムービーです。
失うものが何もないといえるほどの状態で、ワンダは彼女なりの処世術で一日いちにちを生き延びていきます。正直なところ、すんなり彼女に共感できるとはいえないところもありますが、どこか純心で素直な彼女を応援したい気持ちになってきます。そして、彼女が“旅”を共にする人物も一見どうしようもない人間ですが、2人の様子を追っていくと、ジワジワと彼等が本来持っている暖かい部分が見えてきます。
本作は明確なメッセージをわかりやすくアピールしているタイプの映画ではなく、淡々と2人の様子を描いています。ただ、一見何でもないやり取りに2人の心の動きが見えて、それがラストを一層切なくてやるせないものにします。行き場をなくした2人を観ていると、時代を問わず、国を問わずこういう状況は常に社会にあると感じます。そんな本作は静かに訴えかけるものがあり、嚙めばかむほど味が出る作品といえます。
心の拠りどころを探している2人がたまたま出会い、一緒に過ごしている様子を描いているので、ロマンチックなラブストーリーというよりも、人間ドラマ色が強いです。好みが分かれそうという部分では、逆に会話のネタが豊富に生まれて、議論好きのカップルには向いているかもしれません。普段あまり映画を観ない方は不完全燃焼になる可能性があるので、お互いの映画の好みがわかっている同士で観るほうが良いでしょう。
大人向けのストーリーなので、キッズにはまだピンとこないと思います。中学生、高校生くらいなら本作に描かれる、今生きていくために必要な相手との不思議な共依存関係を少しは経験済みの方もいて、共感できるところがあるかもしれません。観る者の想像を膨らませるラストは解釈が分かれそうなので、映画が好きな友達を誘って観ると、鑑賞後の会話を楽しめると思います。
『WANDA/ワンダ』
2022年7月9日より全国順次公開
クレプスキュール フィルム
公式サイト
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TEXT by Myson