取材&インタビュー

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』ジョン・チェスター監督インタビュー

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映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』ジョン・チェスター監督インタビュー

「こんな広大な荒れ地をどうやって農地にするの!?」と思えるような場所で、8年かけてさまざまな植物や動物が生息し、命のサイクルによって健康な食材が生み出される美しい農場を作った、ジョンとモリー夫妻。今回、監督も務めたジョン・チェスターさんにスカイプ・インタビューをさせて頂きました。映画からも監督のインタビューからも、多くのことを学ばせて頂き感激しました!

<PROFILE>
ジョン・チェスター:製作、監督、脚本、撮影監督
映画制作者、テレビ番組の監督・カメラマンとして25年のキャリアを持つ。アニマルプラネットとITVの野生生物番組の制作者として世界中を回ったのを機に、複雑な生態系の相互作用に興味を持つ。2010年に妻のモリーと共にバイオダイナミックで再生型の農場“アプリコット・レーン・ファーム”を始め、そこで飼育している豚や牛達を撮影し、米オプラ・ウィンフリー・ネットワーク『スーパーソウル・サンデー』用に制作した短編“Saving Emma(原題)”、“Worry For Maggie(原題)”“The Orphan(原題)”などで、監督賞、脚本賞、撮影賞他5つのエミー賞を受賞。また、伝説のロック写真家ロバート・ナイトのドキュメンタリー映画“Rock Prophecies(原題)”の監督を務め、ダラス国際映画祭、ナッシュビル国際映画祭、ロードアイランド国際映画祭の長編ドキュメンタリー映画部門で3つの観客賞を受賞。『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』では、製作、監督、脚本、撮影監督を兼任し、米レビューサイトRottenTomatoesで驚異の96% (2019年11月1日現在)、2018年から数々の映画祭で数々の観客賞を受賞している。

大きな夢を実現した監督が思う、チャレンジに必要なこととは

映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』ジョン・チェスター/モリー・チェスター/愛犬トッド/動物たち

マイソン:
愛犬トッドの一件が農場作りのきっかけになったとありましたが、私は映画を観ていてそれ以前に監督と奥様が出会ったところから、既にこの奇跡が始まっていたのではないかと感じました。お2人が出会ってから今までを振り返って、こういった価値観を共有できる相手だなと実感したエピソードがあれば教えてください。

ジョン・チェスター監督:
いつもモリーと僕は意味とか目的がある人生を送りたいと思っていたし、自然の中で、あるいは自然の周りで過ごすことが好きで、食べ物がとても大事だと思っていたんです。食べ物が体に及ぼす影響というのはすごく大きくて、その食べ物が健全かどうかというのは、最終的には農地の土壌が良いかどうかということになるんです。だから非常に健康な土壌で物を作るっていうのは良いよねっていう考えを話し始めて、それが私とモリーのお気に入りの話題になったんです。

映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』モリー・チェスター

マイソン:
あんなに大きな農場を作るという決断もかなり挑戦的なので、それを夫婦揃ってやろうと思えるところもすごいと思ったのですが、お2人のなかであの決断に至るまでに1番葛藤したのはどんなことでしょうか?

ジョン・チェスター監督:
最初は自分達がやろうとしていることが、一体どのくらい時間がかかるものなのか、1日のうち、1週間のうちどのくらいを費やすのかとかが、わかっていなかったんです。だから実は自分達の時間の全部を取られるということを知らなかったわけです(笑)。ものすごく大きな恐怖もありました。私は20年くらいフィルムメーカーとしてキャリアを築いてきて、それを全く未知のもののために諦めてしまう、妻のほうも自分がやってきたことを辞めて、全く知らないことに乗りこんでいくということは非常に恐怖でした。

マイソン:
そうだったんですね。監督は、野生生物の番組制作者としてキャリアがあって、生態系に興味があったと思いますし、奥様は料理家として食材に詳しいっていうことがあったと思うんですけど、元々のキャリアが活かされた部分と、逆に先入観が邪魔した部分があったら教えてください。

ジョン・チェスター監督:
良くなかったこととしては、映画を作っている分には家に帰ったら映画のことを忘れられますけど、農場というのは忘れられないんですね。止まらないんです。キャリアが役に立った点は、野生動物の映画の仕事で、南アフリカの野生動物を撮るにあたって、3つの違う学校でトレーニングを受けた獣医の学生さんと仕事をしたことです。獣医さんがどういうことをやるのか、学生さんが何をやるのかをたくさん見ていたので、実際自分達の農地で馬とか羊に関わる時に、それが非常に役立ちました。

映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』ジョン・チェスター

マイソン:
監督は元々動物が好きだから、動物の番組などを撮るお仕事に就いたのでしょうか?

ジョン・チェスター監督:
野生動物とか自然が大好きだったということと、自然の中でお互いがどれだけ繋がっているか、どういう風に関係し合っているのかというのを見るのがすごく好きだったんです。野生動物、あるいは自然の関係を見れば見るほど、それが人間のことを反射してくれて、考えさせてくれる、人間についての洞察をくれるということがありました。

マイソン:
農場に連れてくる動物はどのように決めているのでしょうか?あと、一緒に暮らしてみて一番意外性を感じた動物がいたら教えてください。

ジョン・チェスター監督:
すべて良い土壌を形成する上で必要なものという観点で選びました。何百万年もの間、非常に複雑で良い土壌というものは、いろいろな植物とか動物によって形成されてきたんですね。なので、牛も羊も良い土壌を作るためのエコシステムにおいてとても大切な動物だったんです。意外性があった動物は、豚のエマですね。あんなに友達のように親しくなるとは思わなかったです。僕はわりと友達とコネクトしやすいのですが、エマは本当に友達になって1日に3〜4回そばを通るのですが、こんなに大好きになるとは思いませんでした。

映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』ジョン・チェスター

マイソン:
ハハハハ(笑)。人間にとっての8年間はすごく長いと思うんですけど、映画を観ていて、小さな生態系が出来上がりつつある状態が地球の年齢から考えるとすごく早い気がしました。そういうところにも、あらゆるものの存在価値とか生命力に神秘的なものを私は感じたんですけど、監督や農場の皆さんが8年間で1番驚いたこととか、1番変化を感じた部分はどんなところですか?

ジョン・チェスター監督:
非常に短い間にいろいろな自然が回帰してきたというのが驚きだったんですけど、さらに驚いたのが本当に多様な野生動物が戻ってきて、僕達を助けてくれたことなんです。そうなったら良いなと願ってはいたんですが、叶わないと思っていたので、それがあの短い間に起こったというのが本当に驚きでした。一瞬問題だと思えたものが、自然がバランスを取り戻すまでに時間がかかるわけで、例えばアブラムシの問題だと、それを食べてくれるテントウムシが来るまでに時間がかかります。だから、生物的な多様性が戻るには時間がかかるということなんだと、そこが人間の忍耐力がテストされる部分でもあります。

映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』

マイソン:
もうこんなにすごい状況を経験されると、何でもできるっていう自信がわくんじゃないかと思ったんですが(笑)、これからやりたいことや夢はありますか?

ジョン・チェスター監督:
今は5歳の息子を育てるのが最大のプロジェクトです(笑)。それから私の大切な友人である豚のエマを150ポンド(約70キロ)くらい減量させないといけないというのも非常に大きな問題です(笑)。今までの8年間でやってきた、土壌を良いものにするとか、生物的な多様性を育むということは、ある意味で農園の免疫システムを作ってきたことだと思うんですね。この農園のいろいろなことが人間によって動かされているので、人と人とのコミュニケーションとか、何を大切にしているのかということ、あるいは問題解決能力というものが、次のレベルの農園の免疫システムになると思っています。なので、これから僕達がやることは、チームの中のコミュニケーションシステムなどをより効率的にすることだと思っています。

マイソン:
さきほど時間が解決してくれるのを待つのが大事だとおっしゃっていましたが、やはり人間なので、焦ると何かしなきゃって思っちゃいますよね。でも、一旦立ち止まって考えたり、流されないでちゃんと待つことができたのは、なぜでしょうか?

ジョン・チェスター監督:
1年目に問題解決したと思ったものが、3年目に全然解決していなかったとわかったりして、そういうことから学んだんですよね。つまり自分達が間違った方法を使っていたとわかるまでに時間がかかって、それからようやく正しい解決というものが見えてくるっていうことを学んだからだと思います。

マイソン:
なるほど〜。じゃあ今は時間の使い方が変わりましたか?

映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』ジョン・チェスター

ジョン・チェスター監督:
変わりましたね。自信や忍耐力がついたと思います。何かがあった時、理解する前にバンドエイドを貼りたいと思うのではなく、一体どこまで傷が深いのか、どこまで傷が深くいくのかっていう理解をすることで、長期的な問題解決をすることができるというか、そういうものが必要であるということで、待つ自信、忍耐力がついた気がします。8年かけてわかったのは、確証はできないし、何事も自分が絶対こうだと思ったものはないんです(笑)。だけど、そのほうが良いのかなって今は思えます。

マイソン:
深いですね〜。では最後の質問です。観ていて農場の話でありながら、とても普遍的なお話で、これから何かにチャレンジする人に勇気を与えてくれる映画だと思いました。監督から、これから何かにチャレンジする人に向けて一言お願いします。

ジョン・チェスター監督:
夢に対するアプローチとして、少なくともモリーと僕は自分達の理想に対して脆弱さもあったし、謙遜さというか腰の低さもあったと思います。だから周りのいろいろな偉大な先生に教えを請うことができたわけなんですけど、自分達の方向性をはっきり宣言しなければいけないと同時に、脆弱さと謙虚さを持つことが大事なんじゃないかと思います。もう1つ付け加えると、若者は「意味のある、目的のある人生を送りなさい」という風に言われがちですが、僕はそれは間違いだと思うんですよね。やはり自分の好奇心に従うことが大切で、そうすることによって、すごく生き甲斐のある人生になってくると思います。というのは、時には好奇心だけがヒントをくれる、どういう人生を送りたいかっていうことを教えてくれるからです。

マイソン:
ありがとうございました!

2020年2月18日取材 PHOTO & TEXT by Myson

映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』ジョン・チェスター/モリー・チェスター/愛犬トッド/動物たち

『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』
2020年3月14日より全国順次公開
監督:ジョン・チェスター
出演:ジョン・チェスター/モリー・チェスター/愛犬トッド/動物たち
配給:シンカ

ひょんなことがきっかけで、大都会ロサンゼルスでの生活から一転、大農場作りにチャレンジすることになったジョンとモリー夫妻の8年間を追ったドキュメンタリー。2人はあらゆる植物と動物が生息する小生態系を農場に作ることで、本当に健康な食材を育てようと奔走する。

公式サイト 映画批評&デート向き映画判定

© 2018 FarmLore Films,LLC
photo credit:Yvette Roman Photography

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REVIEW

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  5. 映画『ミーツ・ザ・ワールド』杉咲花/南琴奈/板垣李光人

PRESENT

  1. 映画『爆弾』山田裕貴/佐藤二朗
  2. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル
  3. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

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