特集

映画に隠された恋愛哲学とヒント集67:「結婚に愛は不要」は通じない!?

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ストーリ・オブ・マイ・ワイフ』レア・セドゥ/ハイス・ナバー

ネタバレ注意!

今回は、『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』を例に考えてみました。

始まりに愛は不要、でも結婚を続けるには…

『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』の物語の舞台は、1920年のマルタ共和国。主人公は、船長のヤコブ(ハイス・ナバー)です。彼は航海中に身体に不調を感じた際、船員との会話からふと結婚しようと思い付いたのか、陸に下りた際に立ち寄ったカフェで「今から一番最初に店に入ってきた女性と結婚する」と心に決めます。その時に最初に店に入ってきたのがリジー(レア・セドゥ)でした。ヤコブはリジーに声をかけ、決意通りにプロポーズ。まさか受けてもらえるとは思っていませんでしたが、リジーはある男性への当てつけもあったのか、プロポーズに応じます。

映画『ストーリ・オブ・マイ・ワイフ』レア・セドゥ/ハイス・ナバー

そもそも2人は見知らぬ者同士。愛もありません。ヤコブの都合にリジーが合わせ、リジーにとっても少し都合が良かったという、いわば利害関係で結ばれたような2人です。ヤコブはあわよくば愛のある幸せな結婚生活を期待していたかもしれませんが、始まりが始まりなだけにきっとこの時点ではリジーから愛されることをそれほど期待していなかったでしょう。ヤコブは船長なので、また何ヶ月も海に出ますが、結婚直後に航海に出る時の彼の言葉には、この結婚が続くかどうかわからないという自覚が表れています。

この2人のような関係を私達の身近なケースに置きかえてみます。一見、ヤコブとリジーは特異なケースに見えますが、結婚相談所などで見知らぬ者同士が条件で恋愛相手を選ぶというケースに近いのではないでしょうか。もちろん、結婚相談所を介して出会う場合は結婚する前に交際期間があるのでまったく同じとはいえませんが、目的は結婚、最初は見知らぬ者同士で愛はないという状況は同じです。

映画『ストーリ・オブ・マイ・ワイフ』レア・セドゥ

ヤコブがリジーにどんどん惹かれていく様子は観ていてすぐにわかります。そして、リジーの美しさと奔放な性格が、余計にヤコブを不安にさせ、ヤコブはどんどん制御不能になっていきます。一方のリジーは、どこかマイペースで、ヤコブの態度がどんどん変わっていくことに不服を感じるようになります。こうして、どんどん2人はすれ違っていくのです。

映画『ストーリ・オブ・マイ・ワイフ』レア・セドゥ/ハイス・ナバー/ルイ・ガレル

2人の様子を見ていると、一方は「だって、最初から愛なんてないんだから」というスタンス、片方は「結婚したんだから、愛して何が悪い?」とどちらも正論に思えます。2人がもし似たようなタイプで価値観が同じなら、こうはならなかったのかもしれません。でも逆にいうと、2人が同じタイプだったら結婚生活ももっと早く終わるのではないでしょうか。結婚は長く続けば良いというものでもないとするならば、ただ辛いだけの結婚生活が続くのは地獄ですね。

だから、本作から得られる教訓は、「結婚に愛は不要」は通用しないということ。たとえ始めはそう思えても、人間の結婚はそう単純にはいかないようです。「愛する人との結婚」が絵空事だという考え方があるとして、逆の「愛のない結婚」もただの絵空事なのかもしれないですね。

映画『ストーリ・オブ・マイ・ワイフ』レア・セドゥ/ハイス・ナバー

『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』
2022年8月12日より全国公開
彩プロ
公式サイト

© 2021 Inforg-M&M Film – Komplizen Film – Palosanto Films – Pyramide Productions – RAI Cinema – ARTE France Cinéma – WDR/Arte

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『悪魔祓い株式会社』マ・ドンソク/ソヒョン/イ・デヴィッド 悪魔祓い株式会社【レビュー】

本作は、『悪人伝』や“犯罪都市”シリーズ、ハリウッド映画『エターナルズ』などでお馴染みのマ・ドンソクが…

映画『ツーリストファミリー』シャシクマール/シムラン/ミドゥン・ジェイ・シャンカル/カマレーシュ・ジャガン/ヨーギ・バーブ 『ツーリストファミリー』特別試写会 10組20名様ご招待

映画『ツーリストファミリー』特別試写会 10組20名様ご招待

Netflixシリーズ『イクサガミ』岡田准一 イクサガミ【レビュー】

今村翔吾著のベストセラー「イクサガミ」シリーズを原作とする本シリーズでは、岡田准一が主演、プロデューサー、アクションプランナー、藤井道人、山口健人、山本透が監督と脚本を担当…

映画『TOKYOタクシー』蒼井優 蒼井優【ギャラリー/出演作一覧】

1985年8月17日生まれ。福岡県出身。

映画『バーフバリ エピック4K』来日舞台挨拶イベント、プラバース、ショーブ・ヤーララガッダ(プロデューサー) プラバース、ショーブ・ヤーララガッダ来日!『バーフバリ エピック4K』には追加シーンも

2025年に劇場公開10周年を迎える大ヒット作『バーフバリ 伝説誕生』と『バーフバリ2 王の凱旋』を一つの作品として再編集し、壮大な物語を4K映像で体験できる『バーフバリ エピック4K』の日本公開を目前にして、バーフバリ役のプラバースと、プロデューサーのショーブ・ヤーララガッダが来日しました。

映画『楓』福士蒼汰/福原遥 楓【レビュー】

残酷過ぎて、切な過ぎて、優し過ぎて、どうしましょ(笑)。ネタバレを避けると、ほぼ何も書けませんが…

【東京コミコン2025】オープニング:イライジャ・ウッド、カール・アーバン、リー・トンプソン、トム・ウィルソン、クローディア・ウエルズ、ダニエル・ローガン、ジョン・バーンサル、クリスティーナ・リッチ、イヴァナ・リンチ、ノーマン・リーダス、ショーン・パトリック・フラナリー、ジャック・クエイド、マッツ・ミケルセン、浅野忠信、ピルウ・アスベック、セバスチャン・スタン、ジム・リー、C.B.セブルスキー、フランク・ミラー、クリストファー・ロイド、中丸雄一(MC)、伊織もえ(PR大使)、山本耕史(アンバサダー) 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』一行や人気アメコミ出演者達が勢揃い!【東京コミコン2025】オープニングセレモニー

年末恒例行事となった東京コミコンのオープニングセレモニーを取材してきました。今年は過去最高といえるのではないかという数のスター達が来日してくれました。

映画『ズートピア2』 ズートピア2【レビュー】

さまざまな動物達が人間と同じように暮らすズートピアを舞台にした本シリーズは…

映画『エディントンへようこそ』ホアキン・フェニックス/ペドロ・パスカル エディントンへようこそ【レビュー】

アリ・アスター監督とホアキン・フェニックスの2度目のタッグが実現した本作は、メディアの情報に翻弄される人々の様子を…

映画『愚か者の身分』林裕太 林裕太【ギャラリー/出演作一覧】

2000年11月2日生まれ。東京都出身。

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年12月募集用
  2. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  3. 映画学ゼミ2025年11月募集用

REVIEW

  1. 映画『悪魔祓い株式会社』マ・ドンソク/ソヒョン/イ・デヴィッド
  2. Netflixシリーズ『イクサガミ』岡田准一
  3. 映画『楓』福士蒼汰/福原遥
  4. 映画『ズートピア2』
  5. 映画『エディントンへようこそ』ホアキン・フェニックス/ペドロ・パスカル

PRESENT

  1. 映画『ツーリストファミリー』シャシクマール/シムラン/ミドゥン・ジェイ・シャンカル/カマレーシュ・ジャガン/ヨーギ・バーブ
  2. 映画『楓』旅からはじまるトラベルポーチ
  3. 映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン
PAGE TOP