学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画59:研究倫理に反する実験とその被害『エクスペリメント』『まったく同じ3人の他人』

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ

先日Netflixで『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーを観ました。生き別れた三つ子が再会する感動のストーリーかと思いきや、驚愕の背景を知り、研究倫理について改めて考えさせられました。そこで今回は研究倫理をテーマとします。

※ネタバレ注意!

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ

研究倫理を問われる実験としてよく知られるのは、1971年に心理学者のフィリップ・ジンバルドー博士が行った、スタンフォード監獄実験です。この実験は、『es[エス]』『エクスペリメント』と、映画化されました。この実験で、実験参加者は、看守と囚人という役割を与えられ、刑務所と同様の環境でどのような反応を示すかを試されました。結果、映画でも描かれているとおり、実験参加者に危害が及ぶ状況となり中止されました。この実験の真相には疑問が上がっている点もあるようで、真実を解明しようとする『解析!スタンフォード監獄実験の真実』という番組も作られています。

映画『エクスペリメント』フォレスト・ウィテカー

スタンフォード監獄実験とは異なり、本人が知らないまま無断で実験されている事例もあります。
たとえば、田代志門(2025)は、「同性間での性行為に関する秘密研究の事例」として、「アメリカの社会学者ハンフリーズが
1960年代に実施した同性間での性行為に関する調査18)(Humphreys[ 1970]2008)」を挙げています(p.47)。ハンフリーズは以下のような方法で実験を行いました。

「彼は当時,男性同士の性行為の場として利用されていた公衆トイレ(「ティールーム」)に赴き,そこでのやりとりを2年間かけて観察した。その際,ハンフリーズは研究者としての身分は明かさずに「見張り役(watch queen)」として観察データを収集し,親しくなった何人かには事後的に身分を打ち明けてインタビュー調査を実施した。(田代志門 2025,p.47)

さらに、インタビューを行う際には、「見張り役」をしてきた人物と同一人物であるとバレないように調査から1年あけて取材をし、一部は別の大学院生に担当させ、自分が担当する場合は変装したといいます(田代志門 2025)。

他にも、映画化された実験では前述した『まったく同じ3人の他人』というドキュメンタリーがあります。本作の序盤は、生き別れた三つ子が奇跡的に再会にいたる様子が映し出されています。彼等は有名人になり、多くのメディアで取り上げられます。彼等は自分達のルーツを辿って、養子縁組をした業者に問いあわせることにします。そこから、思わぬ真相が見えてきます。

彼等は実験のために、故意に引き離されて育ちました。養子縁組をした親達も彼等が三つ子とは知らず、養子縁組をした子ども達の追跡調査だと偽りの説明をされていたといいます。

この真相の裏で実験の核となる人物が、ピーター・B・ヌーバウアーです。彼はアレクサンダー・ヌーバウアーとの共著で「遺伝と子育て―人は「生まれ」か「そだち」か」という書籍を出していることから察するとおり、双生児研究を行っていた心理学者です。でも、実験の真相は双生児研究にとどまりません。ピーター・B・ヌーバウアーは、「フロイトの文書保管担当を務めた精神科医」でした(『まったく同じ3人の他人』字幕より 45:10あたり)。引き離された三つ子の実験は、実は精神疾患に関する研究だったのではないかという疑惑がもたれています。

この実験では大変な悲劇が起きており、取り返しがつかない実験だったといえます。三つ子が生まれた当時(彼等は1061年7月12日生まれ)に比べると、現代では研究を進める際、倫理審査を経て行われるようになってきています。ただ、被験者が実験されているとわかってしまうと実験にならない研究もあり、倫理審査だけで完全に統制することは難しい部分があります。とはいえ、人生が実験によって奪われることはあってはいけません。研究者はもちろんのこと、被験者になり得る一般の方々も、こうした現状を知っておく必要があるのではないでしょうか。

<引用文献>
Humphreys, Laud, [1970]2008, Tearoom Trades: Impersonal Sex in Public Places, Enlarged Edition with a Retrospect on Ethical Issues, Aldine Transaction.―, 1972, Out of the Closets: The Sociology of Homosexual Liberation, Prentice-Hall.
田代志門(2025)同意によらない社会調査をどう正当化するか:ポスト「インフォームド・コンセント」の時代に向けて.理論と方法,40(1)pp.41-55

映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ/フォレスト・ウィテカー

『エクスペリメント』
Amazonプライムビデオで観る

©2010Experiment Film Holdings LLC.All Rights Reserved.

『es[エス]』
AmazonでDVDを購入する

『解析!スタンフォード監獄実験の真実』
公式サイト(上記紹介ページ)

『まったく同じ3人の他人』
Netflixにて配信中(2025年11月17日配信終了)
公式サイト

TEXT by Myson 武内三穂(認定心理士)

本ページには一部アフィリエイト広告のリンクが含まれます。
情報は2025年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

海外ドラマ『マンダロリアン シーズン1』ペドロ・パスカル マンダロリアン【レビュー】

本シリーズは新しい流れとして出てくるので、“スター・ウォーズ”の他の作品を全く観ていなくても、問題なくついていけます…

海外ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界 シーズン5』リンダ・ハミルトン リンダ・ハミルトン【ギャラリー/出演作一覧】

1956年9月26日生まれ。アメリカ出身。

映画『エレノアってグレイト。』ジューン・スキップ エレノアってグレイト。【レビュー】

ニューヨーク州ニューヨーク生まれのスカーレット・ヨハンソン初の監督作は、ニューヨークが舞台となっています…

海外ドラマ『華麗なるマードー家』パトリシア・アークエット パトリシア・アークエット【ギャラリー/出演作一覧】

1968年4月8日生まれ。アメリカ出身。

映画『NEW GROUP』山田杏奈/青木柚 NEW GROUP【レビュー】

組体操をしている怪しげなキービジュアルを観ただけで興味をそそられたのは私だけではないはず…

映画『大統領のケーキ』バニーン・アハマド・ナーイフ 『大統領のケーキ』一般試写会 5組10名様ご招待

映画『大統領のケーキ』一般試写会 5組10名様ご招待

映画『Michael/マイケル』ジャファー・ジャクソン Michael/マイケル【レビュー】

REVIEW伝説に残るスーパースター、マイケル・ジャクソン。生前の彼をリアルタイムで見てい…

映画『Michael/マイケル』来日ジャパンプレミア:ジャファー・ジャクソン、ジュリアーノ・ヴァルディ、グレアム・キング(プロデューサー)/香取慎吾、ちゃんみな(スペシャルゲスト) “2人”のマイケル・ジャクソン=ジャファー・ジャクソン、ジュリアーノ・ヴァルディと、長男プリンス・ジャクソン等が揃って来日『Michael/マイケル』来日ジャパンプレミア

伝説のスーパースター、マイケル・ジャクソンの半生を描いた映画『Michael/マイケル』の日本公開が目前に迫る2026年6月4日、本作のキャスト、スタッフが一斉に来日しました。

映画『the moment/ザ・モーメント』チャーリーxcx the moment/ザ・モーメント【レビュー】

本作は、2024年、アルバム“brat(ブラット)”が人気を呼び、“ブラット・サマー”と呼ばれる社会現象を巻き起こした、ポップスターのチャーリーxcxが本人役で登場し、ショービジネスの裏側を…

映画『ゆずり葉の頃』八千草薫 八千草薫【ギャラリー/出演作一覧】

1931年1月6日生まれ。大阪府出身。

【映画でSEL】にたどりつくまでの道

今のあなたに必要な非認知能力を伸ばす【映画でSEL】プログラムのご案内

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『ボヘミアン・ラプソディ』ラミ・マレック 映画好きが選んだ実在アーティストの伝記映画ランキング

今回は実在アーティストの伝記映画について、正式部員の皆さんに投票してもらいました。さまざまな有名アーティストにまつわる作品がある中で上位にランクインしたのはどの作品でしょうか?

映画『ズートピア2』 映画好きが選んだ2025アニメ映画ベスト

今回は、2025年に劇場公開されたアニメ映画について、正式部員の皆さんによる投票結果ベスト30を発表!2025年のアニメ映画ベストに輝いたのは?

【映画でSEL】イメージイラストドアの奥に草原 セルフ・モニタリングとモデリングの機会となる映画鑑賞(論文紹介)&映画でSELラボOPEN!

株式会社TSトーキョーは、映画でSELラボをオープンしました!

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『炎上』森七菜/髙橋芽以
  2. 【映画学ゼミ第8回】「感情は有用か、有害か、映画の場合で考える」参加者募集!
  3. 【映画でSEL】イメージイラストドアの奥に草原

REVIEW

  1. 海外ドラマ『マンダロリアン シーズン1』ペドロ・パスカル
  2. 映画『エレノアってグレイト。』ジューン・スキップ
  3. 映画『NEW GROUP』山田杏奈/青木柚
  4. 映画『Michael/マイケル』ジャファー・ジャクソン
  5. 映画『the moment/ザ・モーメント』チャーリーxcx

PRESENT

  1. 映画『大統領のケーキ』バニーン・アハマド・ナーイフ
  2. 映画『サヨナラの引力』ク・ギョファン/ムン・ガヨン
  3. Prime Original ドラマシリーズ 『クロエマ』杉咲花/多部未華子
PAGE TOP