心理学

心理学から観る映画11-2:認知症でも諦めない

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『僕がジョンと呼ばれるまで』

前回は記憶障害にまつわるお話を取り上げましたが、やはり気になるのは“物忘れ”と認知症の違いです。そこで今回は認知症を取り上げます。

記憶機能の低下だけではない。認知症にもいろいろある

まず認知症とは何か。下山ほか(2009)では、認知症とは「いったん獲得した知的機能が、器質性障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活が営めなくなっている状態」としています。また、認知症といっても種類がさまざまで、アルツハイマー病による認知症、血管性認知症、外傷性脳損傷による認知症、パーキンソン病による認知症など、原因や症状が異なる認知症が多くあります。

では、物忘れと認知症の違いは何なのでしょうか?丹野ほか(2015)では、高齢者の物忘れとアルツハイマー病との違いについて、「物忘れは体験の一部を忘れるものだが、認知症の場合はすべてを忘れる」「物忘れは頻度が増えても物忘れに留まるが、認知症は認知障害、見当識障害などに進行する」「物忘れの場合は物忘れを自覚して心配するが、認知症の場合は自分の欠陥を自覚できず、かえって忘れたことを否定したりする」と例を挙げています。日常でよくある例だと、物忘れの場合は何を食べたかを忘れるけれど、認知症の場合は食べたことを忘れるというわけです。

また認知症は、記憶障害だけが顕著な症状というわけではありません。丹野ほか(2015)では、神経認知障害に分類される下記の4種の認知症の特徴が紹介されています。

  • アルツハイマー病:根気のなさや気力低下から始まり、記憶障害、見当識障害、実行機能の障害が徐々に現れる。
  • 脳血管性認知症:脳出血や脳梗塞が原因で生じ、症状の変動が大きい。機能が正常な領域と異常な領域が混在する。
  • レヴィー小体型認知症:頭が冴えている時とぼんやりしている時の差が大きい。幻視がある。パーキンソン病で見られる身体的症状が初期から出現する。
  • ピック病:初期には記憶障害よりも、自分勝手な行動、反社会的な行動、常同行動、食行動異常などが目立ち、性格も変化したように見える。まともに考えようとしない「考え無精」も特徴。

こういったように、さまざまな症状、原因があるので、認知症かどうかは医師の判断が必要です。では、認知症になると症状を緩和することはできないのでしょうか?

ドキュメンタリー映画『僕がジョンと呼ばれるまで』では、「脳トレ」ブームを作った東北大学の川島隆太教授と公文教育研究会と介護現場の協力によって生まれた認知症改善プログラム「学習療法」を使ったトレーニングの様子が収められています。挑戦しているのは、アメリカのオハイオ州にある、平均年齢80歳以上の人々が暮らす介護施設にいる認知症のおばあちゃん達。彼女達の中には、若い頃はバリバリ働き、引退後も活発だった人もいますが、本当に誰がかかるのかわからないんだなと感じます。

一方、ドキュメンタリー映画『パーソナル・ソング』では、アルツハイマー病の患者にその人が好きだった音楽を聴いてもらった際、どんな反応を見せるかを映しだしています。そこには、普段ほぼ反応のない患者でも音楽を聴いた途端に身体を動かし始めたり、豊かな表情に変わったりする様子が描かれています。また、脳のメカニズムなども紹介されていて、なぜ音楽が効果があるのかについて述べられています。このご時世、高額な医療に頼れない事情がある人も多いと思いますが、音楽は費用もそれほどかからず誰にでも試すことができる点で希望をもらえます。

高齢化社会を生きる私達にとって、認知症は、身近な人、そして将来の自分自身にも関わってくるかも知れません。さらに若年性認知症もあるので、誰も他人事とは言えません。ストレスが多い社会になり、今は新型コロナウィルス感染症の影響で余計にストレスフルな生活になっています。また人との接触が限られていることでコミュニケーションが減ったり、心配事が増えたり、運動不足になったり、環境の変化が心身に及ぼす影響も無視できません。前述のとおり、原因はいろいろあるので予防できることできないことはありますが、自分の健康を過信し過ぎず気を配りたいですね。

<参考・引用文献>
下山晴彦ほか(2009)「やわらかアカデミズム・<わかる>シリーズ よくわかる臨床心理学[改定新版]」ミネルヴァ書房
丹野義彦・石垣琢磨・毛利伊吹・佐々木淳・杉山明子(2015)「臨床心理学」有斐閣

映画『僕がジョンと呼ばれるまで』

『僕がジョンと呼ばれるまで』
上映会形式で順次公開中→詳細は公式サイトへ

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

ジョンは毎日おばあちゃん達に「僕の名前を知っていますか?」と問いますが、「いいえ」と返されます。でも、おばあちゃん達が、簡単な「読み」「書き」「計算」を行う学習療法(認知症改善プログラム)を続けていくと…。

©2013仙台放送

『パーソナル・ソング』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中

音楽療法に効果があるのかを追った本作では、映画『レナードの朝』の原作者であり、著名な神経学者、現コロンビア大学医科大学院教授のオリバー・サックス医師が、音楽が脳に与える影響について解説しています。

パーソナル・ソング(字幕版)

©2012 EAR GOGGLES PRODUCTIONS.LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『プラダを着た悪魔』アン・ハサウェイ/メリル・ストリープ 元気が出るガールズムービーランキング【洋画編】

正式部員の皆さんに“元気が出るガールズムービー【洋画編】”をテーマに、好きな作品を選んでいただきました。果たしてどんな結果になったのでしょうか?

映画『けものがいる』レア・セドゥ けものがいる【レビュー】

毎度ながら前情報を入れずに観て、最初のシーンで「?」、次のシーンでも「?」となりながら、徐々に…

映画『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』ケイト・ウィンスレット 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』プレミアム先行試写会 10名様ご招待

映画『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』プレミアム先行試写会 10名様ご招待

映画『けものがいる』レア・セドゥ 『けものがいる』鑑賞券(ムビチケ) 3組6名様ご招待

映画『けものがいる』鑑賞券(ムビチケ) 3組6名様ご招待

生き別れた兄弟のような関係、ニコラス・ウィンディング・レフン、小島秀夫がプラダ青山店にて展覧会【SATELLITES】を開催!

ニコラス・ウィンディング・レフンと小島秀夫による展覧会【SATELLITES】が、プラダ青山店にて2025年4月18日から8月25日まで開催されます。開催を記念して、ニコラス・ウィンディング・レフンと小島秀夫がトークイベントを行いました…

映画『マインクラフト/ザ・ムービー』ジェイソン・モモア/エマ・マイヤーズ/ダニエル・ブルックス/セバスチャン・ハンセン マインクラフト/ザ・ムービー【レビュー】

「2009年に誕生し、2011年に正式発売されて以来、瞬く間に世界を席巻」している大人気ゲーム“マインクラフト”(通称:マイクラ)が…

映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』萩原利久/河合優実 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は【レビュー】

いつもの通り、前情報を極力入れずに本編を観て、特に独特なセリフと掛け合いが…

映画『52ヘルツのクジラたち』小野花梨 小野花梨【ギャラリー/出演作一覧】

1998年7月6日生まれ。東京都出身。

映画『パリピ孔明 THE MOVIE』向井理 パリピ孔明 THE MOVIE【レビュー】

REVIEW発行部数240万部を超える同名コミックを原作とし、最終回放送時はSNSトレンド…

Netflixシリーズ『アドレセンス』オーウェン・クーパー アドレセンス【レビュー】

物語はまだ13歳の少年ジェイミー・ミラー(オーウェン・クーパー)が殺人容疑で…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『プラダを着た悪魔』アン・ハサウェイ/メリル・ストリープ 元気が出るガールズムービーランキング【洋画編】

正式部員の皆さんに“元気が出るガールズムービー【洋画編】”をテーマに、好きな作品を選んでいただきました。果たしてどんな結果になったのでしょうか?

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス
  2. 【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性
  3. 映画『風たちの学校』

REVIEW

  1. 映画『けものがいる』レア・セドゥ
  2. 映画『マインクラフト/ザ・ムービー』ジェイソン・モモア/エマ・マイヤーズ/ダニエル・ブルックス/セバスチャン・ハンセン
  3. 映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』萩原利久/河合優実
  4. 映画『パリピ孔明 THE MOVIE』向井理
  5. Netflixシリーズ『アドレセンス』オーウェン・クーパー

PRESENT

  1. 映画『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』ケイト・ウィンスレット
  2. 映画『けものがいる』レア・セドゥ
  3. DMM TVオリジナルドラマ『ドンケツ』伊藤英明
PAGE TOP