映画のタイトルだけ観ると、コミカルな作品かと想像しますが、泳げない事情を抱えた小鳥遊雄司(長谷川博己)にはとても辛い過去があり、想像以上にドラマチックな物語となっています。水に顔をつけることすら怖い小鳥遊は、ひょんなことから水泳教室に通うことになります。彼は過剰に水を怖がるので、コーチの薄原静香(綾瀬はるか)も手を焼きますが、彼が何か大きなものを心に抱えていることを知り、熱心に指導します。コーチの熱心な指導のもと、きっと小鳥遊は泳げるようになるのだろうというところまでは想像がつきます。ただ、本作はそれをどうやって克服するのかが見どころで、水の中って思っている以上に神秘的な場所なのだなと興味が湧いてきます。
本作は、長谷川博己、綾瀬はるかをはじめ、麻生久美子、阿部純子と実力派俳優が揃っている点も魅力です。特に麻生久美子はユニークで多面的なキャラクターを見事に演じていて、脇役ながらすごく存在感があります。切ないストーリーでありながら、爽やかさもある作品になっている点は、俳優陣の演技力と渡辺謙作監督の演出の賜物といえるのではないでしょうか。とても辛い出来事を経験して前に進めないキャラクター達から勇気と元気をもらえる1作。怖くてチャレンジしていないこと、何か諦めていることがあって、停滞感がある方はぜひ観てみてください。
本作では、恋愛関係、夫婦関係が重要な鍵となっています。これからもずっと人生を共に生きようと考えているカップルにとっては避けられない話題が出てくるので、真剣交際しているカップルは一緒に観るだけでも、意識を統一できるところがあるでしょう。ゆくゆくは家族になりたいと思う相手なら、お互いの感想から将来をシミュレーションできるところもありそうです。
不器用な大人達の奮闘を描いている面ではまだピンとこない部分があるかもしれません。ただ、親子についてのストーリーでもあるので、子ども目線で観ると、大人とは違った感想が出てきそうです。親子で観ると普段お互いに言えない気持ちを感想にのせて伝える機会にできるかもしれません。また、苦手を克服したい方、その苦手なことの背景に誰にも言えない事情がある方なら、年齢を問わず共感できるでしょう。
『はい、泳げません』
2022年6月10日より全国公開
東京テアトル、リトルモア
公式サイト
© 2022「はい、泳げません」製作委員会
TEXT by Myson