REVIEW

ニトラム/NITRAM【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『ニトラム/NITRAM』ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

本作は、1996年4月28日日曜日、タスマニア島の観光地、ポート・アーサーで実際に起きた無差別銃乱射事件を基に映画化。この事件は死者35人、負傷者15人を出し、当時28歳だった単独犯の動機は不明瞭だとされています。そして、この事件はオーストラリアで銃規制の必要性を喚起させるきっかけとなりました。
劇中では具体的な疾患名には触れられていませんが、主人公のニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)の行動の数々から、知的障がい、精神疾患の可能性が示唆されています。ニトラムの行動は本人にも家族にも制御できないことがあり、周囲の人々には疎まれているのが伝わってきます。彼の犯行は決して許されることではありませんが、問題を起こす度に孤立していく彼が孤独感や劣等感を抱くのは想像がつきます。それに加えて、他にも彼の心を乱す大きな出来事が続き、彼の犯行の引き金になったと思われる描写もあり、やるせない気持ちでいっぱいになります。ここで誤解があってはいけませんが、障がいがあったから事件を起こしたのではないということです。ただ、障がいによって生きづらさを感じたり孤立することで、二次的障がいに繋がり、それを放置すれば精神的に不安定になり思わぬ行動に走ってしまうことはあり得ると考えます。そういった意味でも、本作で描かれた物語は彼のみの問題として片付けられない部分を感じます。
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズが演じるニトラムは、時にチャーミングで、時に掴みどころのなさが正直怖くもあります。光が見えてくる展開があるだけに後に起こす事件のことを思うと、身内だけでは彼を救えない、社会全体の在り方が問われているように感じます。また、ジュディ・ディヴィスが演じる母親の様子にも彼女の中で渦巻く複雑な心情がうかがえて、ニトラム本人だけでなく家族それぞれが社会から見放されているような絶望感が伝わってきます。本作は銃規制の必要性を投げかけていると同時に、社会的弱者が行き場を失う現実を叩きつける内容となっています。答えは簡単に出ませんが、何が人を追い詰めるのかを知り、考えることは必要だと思います。

デート向き映画判定
映画『ニトラム/NITRAM』エッシー・デイヴィス

何が起こるのか、ニトラムが何を起こすのか、終始緊張感があり、映画に意識が集中すると思います。なのでデートの雰囲気を味わう余裕はあまりないでしょう。ただこういう現実があることを知って、議論することでお互いの価値観が一層わかるところもありそうです。2人とも興味があれば、デートで観るのもアリでしょう。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『ニトラム/NITRAM』ジュディ・デイヴィス

もし皆さんがニトラムの近所に住んでいて、彼の問題行動だけを見ていたとしたら、どう対処したら良いかわからず、とりあえず距離を取りたくなると思います。理解しろ、仲良くしろと言っても実際には簡単なことではありませんが、人にはいろいろな面があり、何が引き金となって問題を起こすのか、考えることは無駄なことではありません。映画から1歩ずつこういった現実を知っていくのは有意義だと思います。

映画『ニトラム/NITRAM』ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

『ニトラム/NITRAM』
2022年3月25日より全国公開
セテラ・インターナショナル
公式サイト

© 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

TEXT by Myson(認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『悪い夏』北村匠海 『悪い夏』一般試写会 5組10名様ご招待

映画『悪い夏』一般試写会 5組10名様ご招待

映画『ゆきてかへらぬ』広瀬すず/木戸大聖/岡田将生 ゆきてかへらぬ【レビュー】

鈴木清順監督の大正浪漫三部作といわれる『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』『夢二』や、相米慎二監督の『セーラー服と機関銃』などを手掛けた名脚本家、田中陽造のオリジナル脚本『ゆきてかへらぬ』は…

映画『奇麗な、悪』瀧内公美 奇麗な、悪【レビュー】

中村文則による原作「火」を映画化した本作は…

映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』アンソニー・マッキー キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド【レビュー】

ファルコンことサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)は、元祖キャプテン・アメリカのスティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)から盾を託され…

映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』 ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-【レビュー】

2017年9月に始動した音楽原作キャラクターラッププロジェクト“ヒプノシスマイク”は…

映画『ファーストキス 1ST KISS』松たか子 松たか子【ギャラリー/出演作一覧】

1977年6月10日生まれ。東京都出身。

映画『ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻』アリシア・ヴィキャンデル/ジュード・ロウ ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻【レビュー】

REVIEW政治的手腕を発揮しながらも、暴君としてイギリス史に悪名を刻んだヘンリー8世には…

映画『聖なるイチジクの種』ソヘイラ・ゴレスターニ/マフサ・ロスタミ/セターレ・マレキ 聖なるイチジクの種【レビュー】

REVIEWイランでは2022年に、ある若い女性がヒジャブ(髪の毛を覆う布)を付けておらず…

映画『コメント部隊』ソン・ソック コメント部隊【レビュー】

情報社会になった現代、大きな組織による世論操作が行われているのではないかと…

映画『リアル・ペイン〜心の旅〜』キーラン・カルキン キーラン・カルキン【ギャラリー/出演作一覧】

1982年9月30日生まれ。アメリカ出身。

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』トム・ホランド/ゼンデイヤ 映画好きが選ぶマーベル映画ランキング

2025年もマーベルシリーズ最新作が公開されます。そこでこれまでのマーベルシリーズも合わせて盛り上げたいということで、ランキングを実施しました。

映画『ベルヴィル・ランデブー』 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.3

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』マイケル・ファスベンダーほか トーキョー女子映画部が選ぶ 2024年ベスト10&イイ俳優MVP

毎年恒例のこの企画では、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

REVIEW

  1. 映画『ゆきてかへらぬ』広瀬すず/木戸大聖/岡田将生
  2. 映画『奇麗な、悪』瀧内公美
  3. 映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』アンソニー・マッキー
  4. 映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』
  5. 映画『ファイアーブランド ヘンリー8世最後の妻』アリシア・ヴィキャンデル/ジュード・ロウ

PRESENT

  1. 映画『悪い夏』北村匠海
  2. 映画『ロングレッグス』マイカ・モンロー
  3. 映画『TATAMI』アリエンヌ・マンディ
PAGE TOP