REVIEW

システム・クラッシャー【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『システム・クラッシャー』ヘレナ・ツェンゲル

REVIEW

母と離れて施設で暮らす9歳の女の子ベニーが主人公の本作は、各国の映画祭で多数のノミネートと受賞を誇るドイツの作品です。序盤では叫び、暴れまくるベニーの姿にまず圧倒させられます。同時に彼女にとっていかに母親という存在が大きいかが描かれていて、母親の愛への渇望と、幼い頃に受けたトラウマが、ベニーの感情の乱れに繋がっているのではないかという想像を掻き立てられます。
公式サイトによると、ベニーを演じたヘレナ・ツェンゲルは5歳で俳優デビューしたそうで、本作の迫力のある演技には驚かされます。誰にも手をつけられないようなベニーは、助けてあげたいという気持ちと同時に触れるのが怖いと思わせる部分もあり、複雑なキャラクターです。ヘレナ・ツェンゲルは複雑な性格でありがら愛おしさを感じさせるベニーのキャラクターを見事に演じています。そして、ミヒャ役のアルブレヒト・シュッフも印象に残る演技をしています。彼が演じる、一見クールでベニーとの距離を保とうとしながらも内面の優しさが漏れてしまう人間味溢れるミヒャのキャラクターも魅力的です。

ここからはあくまで私個人の解釈でネタバレを含みますので、鑑賞後にお読みください。

映画『システム・クラッシャー』ヘレナ・ツェンゲル/リザ・ハーグマイスター

本作を観ていると、ベニーに何が起こっているのか考えずにはいられません。優しい面も見せているのでただの性格ではないように見受けられます。ベニーは小さい頃に受けた行為によってトラウマがあり、母親がベニーを愛しているのは伝わってくるものの態度に一貫性がありません。また、きょうだいは母親と一緒に暮らしているのにベニーだけは一緒に暮らせていない状況などからも、ベニーは愛着障害なのではないかと考えられます。愛着理論の文脈で出てくる“ストレンジ・シチュエーション法”の母親のタイプの4つの型で考えると、ベニーの母親はもしかしたら「D無秩序・無方向型」なのかもしれません。ただ、愛着障害は親の育て方の問題よりも、子ども本人が愛情を注いでもらっている、しっかり関わってもらっていると感じているかが重要とされています。劇中でもベニーは母親に愛されていないと感じていることが伝わってくる点からも愛着障害なのではないかと考えられます。愛着障害については、心理学の過去の記事で取り上げていますので、よろしければ参考にお読みいただければと思います。

映画『システム・クラッシャー』ヘレナ・ツェンゲル

ベニーはかなり深刻な状況にあり、行き場がない様子を観ていると心苦しくなります。ただ、最後はどこか清々しさを残している点で救われます。ベニーの生き様にエンドロールの歌の歌詞も重なると、最後は不思議と前向きな気分になります。そんな点も本作の魅力ではないかと思います。

デート向き映画判定

映画『システム・クラッシャー』ヘレナ・ツェンゲル/アルブレヒト・シュッフ

映画としては良い意味で、観ているだけで気力と体力を消耗します。なので、デートの気分を味わっている感覚よりも、映画に没頭させられると思います。そういう点では1人でじっくり観るほうが向いているように思います。ただ、とても見応えがある点で映画好きのカップルなら、観終わった後にいろいろと話したくなるので一緒に観るのも良さそうです。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『システム・クラッシャー』ヘレナ・ツェンゲル

皆さんはベニーの目線で観たり、周囲の子ども達の目線で観ることになりそうですね。大人とは違う、子どもなりの感じ方がきっとあると思います。頭ではなく感覚的なところでベニーに感情移入できるのではないでしょうか。もしベニーのような友達がいて、暴れているところしか見たことがなかったら、近寄りがたい存在でしかないかもしれません。でも、人それぞれにいろいろな背景があることを本作を観ると知ることができるかもしれません。

映画『システム・クラッシャー』ヘレナ・ツェンゲル

『システム・クラッシャー』
2024年4月27日より全国順次公開
クレプスキュール フィルム
公式サイト

© 2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschränkt), ZDF

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『逆火』北村有起哉 逆火【レビュー】

主人公の野島浩介(北村有起哉)は、感動を呼び話題となっている自伝小説の映画化作品の助監督を務めています。野島は作品に活かすため…

映画『アマチュア』来日ジャパンプレミア:レイチェル・ブロズナハン レイチェル・ブロズナハン【ギャラリー/出演作一覧】

1990年7月12日生まれ。アメリカ生まれ。

映画『顔を捨てた男』セバスチャン・スタン 顔を捨てた男【レビュー】

社会が自分を見る目と、自分自身が自分を見る目がいかにして人の心理や生き方、ひいてはウェルビーイングに影響するのかを…

映画『キャンドルスティック』阿部寛 キャンドルスティック【レビュー】

金融をテーマとした映画に、なぜ“『キャンドルスティック』というタイトルが…

映画『スーパーマン』デイビッド・コレンスウェット 映画好きが選んだDCコミックス映画ランキング

今回は正式部員の皆さんに好きなDCコミックス映画について投票していただきました。“スーパーマン”や“バットマン”など人気シリーズが多くあるなか、上位にはどんな作品がランクインしたのでしょう?

映画『夏の砂の上』オダギリジョー/髙石あかり/松たか子/満島ひかり 夏の砂の上【レビュー】

松田正隆による戯曲を映画化した本作は、演出家の玉田真也が監督、脚本を務め、オダギリジョーが…

映画『DROP/ドロップ』メーガン・フェイヒー DROP/ドロップ【レビュー】

主人公のバイオレット(メーガン・フェイヒー)は、幼い一人息子を育てるシングルマザーで、壮絶な過去を乗り越え…

映画『君がトクベツ』畑芽育 畑芽育【ギャラリー/出演作一覧】

2002年4月10日生まれ。東京都出身。

映画『この夏の星を見る』桜田ひより この夏の星を見る【レビュー】

2020年、新型コロナウィルス感染症が世界中に広まった1年目、私達の日常は大きく変わりました。本作では、その2020年に、長崎県、茨城県、東京都に住む中高生達が過ごした日々…

映画『国宝』吉沢亮/横浜流星 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年6月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年6月】のアクセスランキングを発表!

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『スーパーマン』デイビッド・コレンスウェット 映画好きが選んだDCコミックス映画ランキング

今回は正式部員の皆さんに好きなDCコミックス映画について投票していただきました。“スーパーマン”や“バットマン”など人気シリーズが多くあるなか、上位にはどんな作品がランクインしたのでしょう?

映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』トム・クルーズ 映画好きが選んだトム・クルーズ人気作品ランキング

毎度さまざまな挑戦を続け、人気を博すハリウッドの大スター、トム・クルーズ。今回は、トム・クルーズ出演作品(日本劇場未公開作品を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画『シークレット・アイズ』キウェテル・イジョフォー/ジュリア・ロバーツ /ニコール・キッドマン 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.5

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『君がトクベツ』畑芽育/大橋和也
  2. 映画でSEL:告知1回目
  3. 映画『親友かよ』アンソニー・ブイサレートピシットポン・エークポンピシット

REVIEW

  1. 映画『逆火』北村有起哉
  2. 映画『顔を捨てた男』セバスチャン・スタン
  3. 映画『キャンドルスティック』阿部寛
  4. 映画『夏の砂の上』オダギリジョー/髙石あかり/松たか子/満島ひかり
  5. 映画『DROP/ドロップ』メーガン・フェイヒー

PRESENT

  1. 特製『平成狸合戦ぽんぽこ』ふんわりキーホルダー正吉
  2. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP