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『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボーさんインタビュー

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映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボーさんインタビュー

エトワールになる夢を怪我で諦めたエリーズが、未知なる人々やダンスと出会い、新たな人生の扉を開く映画『ダンサー イン Paris』。今回は本作で映画初出演にして主演を飾ったマリオン・バルボーさんにお話を伺いました。ダンサーとしても活躍するマリオンさんに、映画の現場を体験した感想や、ジャンルの垣根を越えてさまざまなことにチャレンジし続ける理由について直撃しました。

<PROFILE>
マリオン・バルボー:エリーズ 役
1991年フランス、ヴァル=ド=マルヌ県生まれ。6歳頃からダンスの専門教育を受ける。10歳の時にコンセルヴァトワール、次いでパリ・オペラ座に付属するダンス学校で学び、2008年にオペラ座の正式団員となる。2013年にコリフェ、2016年にスジェ、2018年にはプルミエール・ダンスーズに昇格。ダンサーとしてクラシック作品を踊る一方で、“イオランタ/くるみ割り人形”など、オペラとバレエの一体化させた新たな試みにも参加。また、振付家のホフェッシュ・シェクターの演出による“The Art of Not Looking Back”“In your rooms”などのコンテンポラリー・ダンス作品にも力を入れている。また、映画『ダンサー イン Paris』で俳優デビューを飾り、セザール賞有望若手女優賞にノミネートされた。

私にとって人との出会いが1番のモチベーションになっています

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボー/スエリア・ヤクーブ

シャミ:
本作で映画初出演にして主演を飾りました。オーディションを経て役が決まったそうですが、その時の心境を教えてください。

マリオン・バルボーさん:
ダンサーとしてエトワールに任命されるのと同じくらいエキサイティングな気持ちでした。ただ、当時はあまり事の大きさを自覚できていなかったと思います。もちろん選んでいただいた感謝の気持ちはありましたし、この挑戦を最後までやり遂げようと考えていました。

シャミ:
では、役が決まった当初はあまりプレッシャーなどを感じていなかったのでしょうか?

マリオン・バルボーさん:
その時は事の重大さをわかっていなかったので、プレッシャーはありませんでした。でも、私自身何に対しても準備万端にするタイプで、そのほうが撮影に入った時にストレスを感じずにできるだろうと思ったので、かなり前から準備を始めていました。

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボーさんインタビュー

シャミ:
なるほど〜。今回俳優に初挑戦するにあたり、今までのダンス経験が活かされたと思う点はありますか?

マリオン・バルボーさん:
とても役に立ったと思います。ダンサーというのは、練習がたくさん必要ですごく努力をしなければなりません。私の場合そういったことが幼い頃から身に付いているので、今回も同じように臨みました。私はダンサーとしていつも体を使って感情表現をしているので、役作りをする上でもあまり頭で考え過ぎずに、体を使うようにしました。それはダンサーとしての経験があったからだと思います。

シャミ:
本作のダンスシーンはすべてご自身で踊られたそうですが、普段舞台で踊るのと映画の中で役として踊るのとで何か違いはありましたか?

マリオン・バルボーさん:
“ラ・バヤデール”のシーンは、二重の演技が必要でした。私がエリーズを演じ、エリーズが“ラ・バヤデール”のヒロインであるニキヤを演じるという風に二重になっています。しかも、エリーズは本番前に恋人が他の女の子とキスをしているところを見てしまい、トラウマを抱えてダンスをするわけです。それと共に客席では父親が見ているというエリーズの気持ちに感情移入しながら演じました。技術面ですごく良かったと思うのは、カメラが本当に細かいところまで映してくれることです。私達が普段オペラ座などで踊る時は、客席と距離があるので、頭や体の動かし方など、どんなに繊細な動きを綿密に準備しても、どうしても観客に届かない部分があるのではないかというフラストレーションがあります。でも、今回はカメラがアップで捉えてくれたので、それは私にとってとても嬉しいことでした。

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボー

シャミ:
技術面にも助けられたんですね。本作ではエリーズの挫折と再生が描かれていました。マリオンさんはエリーズをどのように演じたいと考えていましたか?

マリオン・バルボーさん:
シナリオを読んでいてエリーズという人物について大体わかっていましたが、厳密にこういう人だというビジョンはなるべく持たないようにして撮影に臨みました。セドリック・クラピッシュ監督は現場でいろいろなことを探求していくタイプだと思ったので、私自身ベースは作っておいて、監督から演出を受けていろいろな方向に向かっていけるように柔軟性を持たせたいと考えていました。なので準備段階から演技コーチに付いていただき、ダンス部分は私の中にすでにあるものなので、準備というほどではありませんでした。
ストーリーにおいては、母親との関係の部分が特に役作りが必要だと思いました。私には母親がいますし、そこがエリーズとは違う点です。劇中、日記でエリーズが母親に語りかける場面がありますが、そういうシーンもできるだけエリーズの気持ちになって深めていきたいと考えていました。また、エリーズは母親を亡くしてから父親との関係もあまり上手くいっておらず、修復したいと考えています。そして、彼女は母親を亡くしたことについてもまだ消化しきれていない状態で、そんななかダンスを続けています。でも、挫折を経てコンテンポラリー・ダンスの新しい喜びを見つけることでようやく母親との約束を果たすことができ、喪が明けて、子ども時代から大人時代へ移ることができるんです。そういった面をきちんと意識して演じようと思いました。

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボー/ドゥニ・ポダリデス

シャミ:
初演技とは思えないくらい自然で素晴らしかったです!

マリオン・バルボーさん:
ありがとうございます。

シャミ:
セドリック・クラピッシュ監督は長年国内外で人気がありますよね。監督の第一印象はいかがでしたか?

マリオン・バルボーさん:
実はセドリック・クラピッシュ監督はオペラ座の常連でした。2人でお話したことはありませんでしたが、ホフェッシュ・シェクターが振付をした演目の映像化で彼が撮影として来ていたこともありました。私は映画好きの家族のもとで育ち、映画がすごく好きなんです。なので、監督の『ロシアン・ドールズ』『スパニッシュ・アパートメント』『青春シンドローム』などを観て思春期を過ごしていたので、監督とお会いした時もすごく自然に接することができました。

シャミ:
そうだったんですね。いざ監督と一緒にお仕事をされて演出など、印象に残っていることは何かありますか?

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボーさんインタビュー

マリオン・バルボーさん:
監督との撮影で印象に残っていることはたくさんあります。技術スタッフの皆さんが監督にとても似たタイプの方ばかりで、彼らの間に親和性のようなものを感じました。監督は、プロの技術スタッフに対しても研修で来ているインターンの方に対しても態度を変えないんです。同じようにすごく親切ですし、時には厳しく、平等な態度をとる方だと気づきました。演技に関しては、とても的確に演出してくださいました。監督は経験も長いので、自分で見つけたいものをわかっているんです。監督がこれだと見つける瞬間が必ずあるので、私達俳優はそれを信頼して、彼が求めるものに向かって何度も演じるという感じでした。

シャミ:
本作では、ダンスなど体が資本の仕事には、加齢による体力的な限界があることや、セカンドキャリアについて考える必要があることについても描かれていました。マリオンさんご自身はそういった面と、どのように向き合いたいとお考えでしょうか?

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボー

マリオン・バルボーさん:
この問題については、10年前の私だったら全く考えていませんでしたが、今では同じ世代のダンサー達と一緒にこの問題について話すことがよくあります。オペラ座バレエ団の歴史的にずっと同じで変わらないこととして少し残念だと思うのは、ファーストキャリアとセカンドキャリアの間に断絶があることです。私はこの作品のように、ダンサーが年を重ねるにつれて別の可能性にもっとオープンな形で残れたら良いなと思います。

シャミ:
タイミングは違ったとしても他の仕事にも共通する部分がありますね。

マリオン・バルボーさん:
そうですね。ファーストキャリアとセカンドキャリアの境界線がもっと曖昧なものになっていったら良いなと思います。

シャミ:
もっと柔軟な世の中になると良いですよね。あと、マリオンさんのプロフィールを拝見していて、オペラとバレエの一体化させた新たな試みや、コンテンポラリー・ダンス作品への参加、そして今回俳優デビューを飾るなど、さまざまな挑戦をしている印象を受けました。新しいことに挑戦し続ける理由や信念などがあれば教えてください。

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボー

マリオン・バルボーさん:
挑戦する理由は、何よりも人です。新しいジャンルや新しい領域に挑戦する時、私にとって人との出会いが1番のモチベーションになっています。絶対に私を豊かにしてくれると感じる出会いがあるんです。そして、私もこの人に何かをもたらすことができるという関係が築けるからこそ、私はどんどん挑戦をしているんだと思います。それがダンスであれ、映画であれ、どんな媒体であっても、この人だったらというものを感じたらやると言います。

シャミ:
今後も良い出会いがあれば挑戦したいと思いますか?

マリオン・バルボーさん:
はい、その通りです。私が今想像できていないような世界に連れていってくれるような出会いがあったら喜んで挑戦します。

シャミ:
では最後の質問です。本作で映画の現場を初めて体験して、俳優に対する印象で変わった部分などありますか?あと、今後も俳優を続けてみたいと思いますか?

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボーさんインタビュー

マリオン・バルボーさん:
私は俳優に対しての先入観があまりなかったので、今回の経験を通して俳優のイメージで変わった点はありません。私としてはこれからも俳優のお仕事を続けていきたいと心から思っています。カメラが俳優の中から無意識に出てくる細かな表情や仕草を捉えるのが映画だと思うので、そういう意味で映画にはとてもミステリアスな部分があると思います。なぜ俳優がその時にその動作や表情をしたのかというミステリアスな部分をもっと開拓していきたいと思います。また人との出会いによりその開拓の機会を得られたら嬉しいです。

シャミ:
今後の活躍も楽しみにしています。本日はありがとうございました!

2023年8月25日取材 TEXT by Shamy

映画『ダンサー イン Paris』マリオン・バルボー/ドゥニ・ポダリデス

『ダンサー イン Paris』
2023年9月15日よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
監督:セドリック・クラピッシュ
出演:マリオン・バルボー/ホフェッシュ・シェクター/ドゥニ・ポダリデス/ミュリエル・ロバン/ピオ・マルマイ/フランソワ・シヴィル/メディ・バキ/スエリア・ヤクーブ
配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル

幼い頃からバレエ一筋の日々を送り、パリ・オペラ座バレエで、エトワールを目指すエリーズ。しかし、夢の実現を目前に恋人の裏切りが発覚し、さらに本番中にジャンプの着地に失敗して足首を痛めてしまったことから、一晩で恋も仕事も失ってしまう。エリーズは呆然としてしまうが、次第に新しい生き方を探し始め…。

公式サイト

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© 2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA Photo : EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES
©Alex Kostromin

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REVIEW

  1. 映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』吉永小百合
  2. 映画『盤上の向日葵』坂口健太郎/渡辺謙
  3. 映画『女性の休日』
  4. 映画『爆弾』山田裕貴/佐藤二朗
  5. 映画『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』マリアンヌ・ジャン=バプティスト/ミシェル・オースティン

PRESENT

  1. 映画『爆弾』山田裕貴/佐藤二朗
  2. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル
  3. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

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