大切な友人の死をきっかけに集まった3人のドラァグクイーンが、普通のおじさんに扮して葬儀に参列するまでの珍道中が描かれた映画『ひみつのなっちゃん。』。今回は本作で、旅する3人のドラァグクイーンの1人、モリリン役を演じた渡部秀さんにインタビューさせていただきました。役が決まった時の心境や、華麗なダンスシーンの裏話を伺いました。
<PROFILE>
渡部秀(わたなべ しゅう):モリリン/石野 守 役
1991年10月26日生まれ。秋田県出身。2008年に「第21回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で準グランプリを受賞。2010年には『仮面ライダーオーズ/OOO』に主演し、同作の映画版で映画初主演を飾る。そのほかの主な出演作に、NHK連続テレビ小説『純と愛』、ドラマ“科捜研の女”シリーズ、映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』(2015)、映画『シュウカツ』(2015)、映画『BRAVE STORM ブレイブストーム』(2017)、『おみおくり』(2018)などがある。また舞台では、“ボクの穴、彼の穴。”(2016)、“遊侠 沓掛時次郎”(2016)、“罠”(2017)などに出演。映画『ひみつのなっちゃん。』では、モリリンこと石野守役を好演。
自分を変える大きな分岐点になる作品だと思いました
シャミ:
最初に脚本を読んだ時は、モリリンにどんな印象を受けましたか?
渡部秀さん:
モリリンはすごく現代っ子でキュートなキャラクターだと思いました。バージン(滝藤賢一)やズブ子(前野朋哉)とはまた違い、若い子ならではの狡猾さを持ち合わせた人物でありながら、とても愛のあるキャラクターだと感じました。
シャミ:
ドラァグクイーンの役を演じると決まった時の心境はいかがでしたか?
渡部秀さん:
僕はこういう作品をずっと待っていました。自分を変える大きな分岐点になる作品だと思いましたし、決まった時は嬉しさで震えました。もちろん全力でやろうと思いましたし、役に対するアプローチももっと本気で取り組まないといけないと思いました。
シャミ:
いつもとはまた違うギアが入ったような感じだったんですね。
渡部秀さん:
そうですね。ドラァグクイーンという普段あまり関わることのない方々の人生、生き様、悩み、葛藤みたいなものがどんなものだろうと、すごく興味がありました。プライベートで新宿二丁目ではよく飲んだりしていて知り合いも多いのですが、大前提としてドラァグクイーンの方々に最大限のリスペクトがあります。なので、仕事として本気でこの役と向き合うことができるのはすごく光栄なことだと思いました。
シャミ:
ドラァグクイーンを演じる上で事前に何か準備をされたことはありますか?
渡部秀さん:
仕草については実は1つも研究していません。内面から作り上げたら勝手に付いてくるだろうと自分を信じていました(笑)。
シャミ:
すごいですね!
渡部秀さん:
あとは、ダンスシーンがあったので、講師の方に指先までの表現の仕方を教わりました。それが演じながら出ていたんだと思います。約1ヶ月間役にどっぷり浸かっていたので、集中して演じることができました。だから、しばらくは仕草の癖が抜けませんでした。
シャミ:
ダンスシーンもとても素敵でしたが、元々ダンス経験はあったのでしょうか?
渡部秀さん:
全くありませんでした。未だに苦手ですし、先生が良かったんです(笑)。
シャミ:
結構練習されましたか?
渡部秀さん:
そうですね。撮影の合間や終わってから練習をしたり、あとは郡上八幡に行ってからも練習しました。前野さんと夜にホテルの外で練習したこともありましたし、バスが来るまでの時間で練習をしたりと本当に合宿のようでした(笑)。
シャミ:
練習の成果もあり、息の合ったダンスでしたね!
渡部秀さん:
ありがとうございます。振り付けは同じでもキャラクターの違いから表現の仕方が違うという点もおもしろいんです。ズブ子のほうが少しブリブリとしていて、タレントという要素を誇張したようなダンスになっています。モリリンの場合は、美しく洗練されたダンスという感じで、お互いに差を付けて踊っていました。
シャミ:
なるほど〜。キャラクターもバージン、モリリン、ズブ子でそれぞれタイプが違いましたが、3人のバランスはどのようにとっていったのでしょうか?
渡部秀さん:
台本の段階でそれぞれのキャラが濃くて、三者三様の雰囲気が表れていました。最初の本読みの時点でそれぞれ棲み分けができていましたし、あとは個々で監督から「ここをこうして欲しい」という要望がありました。クランクインする段階でキャラクターのバランスは8割くらい完成していたと思います。
シャミ:
監督やキャストの方と役について何かお話されたことはありますか?
渡部秀さん:
現場に入ってからはほぼなくて、演じながら作り上げていきました。お互いに信頼し合っていたので、あとは本番でどういうものをそれぞれが出してくるのかという感じで、探りあったり仕掛けあったりしていました。3割くらいはアドリブだったと思います。
シャミ:
アドリブが出てきた時は、その場ですぐに対応できるものですか?
渡部秀さん:
物語が頭の中にあるので、物語に沿っているのか瞬発的に考えながらふと出たことに対して返すという感じです。それはこの作品に限った話ではありませんが、そういうシーンはすごく楽しくて身震いしてしまいます。
シャミ:
資料に「デビュー当時から滝藤賢一さんに憧れていた」とあったのですが、実際に滝藤さんと共演してみていかがでしたか?
渡部秀さん:
圧倒的カリスマという感じがしました。でも、ずっとファンだったことは、仕事をする上で邪魔になるかなと思ったので、滝藤さんにはお伝えしませんでした(笑)。実は滝藤さんの本のサイン会に並ぼうと思ったこともあったのですが、本当に行って大丈夫かなと思い、結局本を買うだけにしました。あとは、滝藤さんの生き様も好きなんです。僕は植物やファッションが好きで、滝藤さんがよく行っているセレクトショップも僕がずっと通っていたところだったので、プライベートの共通点も多いんです。元々ずっと追いかけていた方だったので、現場でいろいろなお話を聞けることがすごく嬉しかったです。
シャミ:
俳優として刺激になった部分などもありましたか?
渡部秀さん:
本当に全部です。現場に対する姿勢やスタッフの方々に対する接し方がすごいなととにかく尊敬していました。この人に追いつけるように頑張ろうと思いました。
シャミ:
本作はロードムービーですが、ロードムービーの1番の魅力はどんな点だと思いますか?
渡部秀さん:
ロードムービーは出発してからゴールまでが描かれるので、起承転結がわかりやすいと思います。スタートをしてからしばらくすると何かハプニングが起きて、一難去ったと思ったらまた一難と、そういう部分は今回もたくさんあるので、安心して観られると思います。
シャミ:
あと、渡部さんご自身のことも伺わせてください。「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」の受賞を経てデビューをされていますが、最初から俳優志望だったのでしょうか?
渡部秀さん:
そうです。役者になるにはとどうしたら良いのかと逆算をしていった時にジュノンと出会い、応募をして事務所に声をかけられてデビューをしたという流れです。
シャミ:
俳優のお仕事自体にはいつ頃から興味があったのでしょうか?
渡部秀さん:
保育園や小学生の頃からエンタメが好きだったので、それを追いかけているうちにどんどん枝分かれしていき、俳優が1番自分のやりたいことに近いと思いました。昔から映画やドラマに出ている自分を想像したり夢見ていて、本格的になったのはジュノンがきっかけです。
シャミ:
エンタメ業界でいろいろなお仕事があるなかで俳優に行き着いたきっかけなどは何かありますか?
渡部秀さん:
映画やドラマは俳優が演じるじゃないですか。「じゃあ俳優だ!」という感じで、そこに行き着くことはとてもシンプルでした。お笑いというイメージもなく、アーティストはまた別の存在だと思っていて、スポーツ選手という柄でもないし、そうやって考えるうちに気がついたら俳優しかないと思いました。
シャミ:
実際に子どもの頃から夢見ていた業界に入ってみて、入る前と後とでイメージが変わったところはありますか?
渡部秀さん:
この業界は思っているほど煌びやかな世界ではなく、結構シビアな世界だということは現実に感じました。成功するかしないかもシビアですし、そもそも残っていくことだけでも難しい世界なので、まずは僕がそこに残っているということが救いです。例えば企業で社長や役員になることが最大のゴールだとしたら、役者の場合はゴールがないんです。主役をやることが大正解というわけではないですし、本当に正解がなくて、だからこそおもしろいと感じます。
シャミ:
端から見ているとすごく奥の深いお仕事だなと感じるのですが、探求し続けることが大変だなと感じることはありませんか?
渡部秀さん:
むしろすごく楽しいです。僕はモヤモヤすることも楽しめるタイプで、昔から一切悩みがないんです。だから、その辺は得をしているのかもしれません(笑)。
シャミ:
では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
渡部秀さん:
『サマータイムマシン・ブルース』という作品に中学生くらいの時に出会って、その時にバチッと「こういうことをやりたい」と感じました。他にもいろいろな作品に影響を受けていますが、未だに『サマータイムマシン・ブルース』が、“マイ・ベスト・邦画“で、定期的に観直しています。良い意味でバカ臭さがあり、二度と帰ってこない学生時代を照らし合わせて観られるので、あの作品にはずっと僕の青春があると思っています。
シャミ:
ありがとうございました!
2022年11月16日取材 PHOTO&TEXT by Shamy
『ひみつのなっちゃん。』
2023年1月13日より全国公開
監督・脚本:田中和次朗
出演:滝藤賢一
渡部 秀 前野朋哉 カンニング竹山
豊本明長 本多 力 岩永洋昭 永田 薫 市ノ瀬アオ(821) アンジェリカ
生稲晃子 菅原大吉 ・ 本田博太郎
松原智恵子
配給:ラビットハウス、丸壱動画
オネエ仲間のなっちゃんが死んだことをきっかけに集まった、バージン、モリリン、ズブ子。生前なっちゃんが家族にオネエであることをカミングアウトしていなかった意志を尊重し、3人は証拠隠滅のためなっちゃんの自宅に侵入する。しかし、なっちゃんの母の恵子と出くわしてしまい、岐阜県郡上市の実家で行われる葬儀に誘われる。3人は、なっちゃんの“ひみつ”を隠し通すため一路郡上八幡へ向かうことになるが…。
©2023「ひみつのなっちゃん。」製作委員会