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『HOW TO BLOW UP』ダニエル・ゴールドハーバー監督インタビュー

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映画『HOW TO BLOW UP』ダニエル・ゴールドハーバー監督インタビュー

環境破壊に人生を狂わされた若者達が、石油パイプラインを破壊する模様が描かれた映画『HOW TO BLOW UP』。今回は本作のダニエル・ゴールドハーバー監督にお話を伺いました。本作の製作過程や、今注目を浴びている映画会社のNEONについて聞いてみました。

<PROFILE>
ダニエル・ゴールドハーバー:監督、共同脚本、プロデューサー
ロサンゼルスとニューヨークを拠点とする監督、脚本家、プロデューサー。高校時代から映画製作を始め、サンダンス・ドキュメンタリー『チェイシング・アイス』では編集者として働き、ハーバード大学で映像と環境研究を学んだ。その後、Netflixのホラー映画『CAM』の監督を務め、2018年のファンタジア映画祭で最優秀初監督賞を受賞。さらに、Filmmaker Magazineで「2018年の25人の新しい映画人」の1人に選ばれた。本作『HOW TO BLOW UP』は、ジョーダン・ショール、主演のアリエラ・ベアラーと共同で脚本を執筆し、監督も務めた。


すでに気候変動の危機に直面している状態であるとひしひしと実感

映画『HOW TO BLOW UP』アリエラ・ベアラー/サッシャ・レイン/ジェイミー・ローソン

シャミ:
本作は、「パイプライン爆破法――燃える地球でいかに闘うか」を原作とした物語ですが、どのようなきっかけでプロジェクトが始まったのでしょうか?

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
共同脚本を務めているジョーダン・ショールが、実は違うプロジェクトの参考として本を薦めてくれたんです。それで読んでみたら、僕が以前から挑戦したかったテーマが描かれていて、この原作であればそれが叶うと思いました。ストーリーテリングもできるし、娯楽性や商業性も持たせることができると共に、ある程度予算内で作ることができると、いろいろな理由がありプロジェクトが始まりました。

シャミ:
監督の描きたかったことと原作の内容がマッチしたんですね。原作を読んだ際に特に魅力を感じたのはどんな点でしたか?

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
描かれている概念がすごくパワフルなんです。250年もの歴史を見た時に、いわゆる社会的正義に関するムーブメントで成功しているものすべてにおいて、破壊行動が行われています。では、気候変動という大きな危機に見舞われている今、私達はどうしたら良いのか。社会的にも環境的にもかつてないほどの大きな危機に瀕しているわけです。でも、過去から学ばずに世界を変えようとするのは、すごく挑発的なアイデアだと思います。それに、こういった環境に関する概念、あるいはどうしたら良いのかという対話は、これまでずっと抽象的な感じで来てしまっています。だけど、本にはその形がすごくはっきりと書かれていました。簡単に言うと、歴史上こういう解決法があり、そういった破壊行動をする方法があるのではないかと書かれていてかなり説得力を感じました。

映画『HOW TO BLOW UP』ダニエル・ゴールドハーバー監督インタビュー
撮影メイキング

シャミ:
なるほど〜。若者達が石油パイプラインを爆破するという物語はすごくインパクトがありました。個人的には、大事な局面で各キャラクターの背景が語られていく展開にすごく引き込まれました。こういった物語の構成は監督のアイデアだったのでしょうか?

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
原作に物語はないので、当然フィクションの部分はリサーチをして、実際に環境活動をされているコミュニティの方から聞いたお話がベースとなっています。僕の意図としては、アメリカの気候ムーブメントに関わっているいろいろな方をなるべく見せたいと考えていました。もちろん構成自体も僕らが作り出したものです。なるべくエキサイティングでシームレスに、そして、それぞれのキャラクターに正当な理由があるということを見せたいと考えていました。

映画『HOW TO BLOW UP』アリエラ・ベアラー/サッシャ・レイン/クリスティン・フロセス/ルーカス・ゲイジ/フォレスト・グッドラック/ジェイミー・ローソン/マーカス・スクリブナー/ジェイク・ウェアリー

シャミ:
リサーチをされた中で特に印象的だったことは何かありますか?

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
やはり1番インパクトがあったのは、気候変動による乱れや化石燃料業界の行為の結果がいかに私達に影響を与えているのかということです。普段私達が生活をしていて気候変動の話になると、これから悪化していくような感じで語られることが多いですよね。だけど、実際にはすでに危機に直面している状態であることをひしひしと感じました。

シャミ:
映画を通してもその危機感がすごく伝わってきました。本作では若者達が爆破計画を行うという過激な行動も描かれていました。そういった社会問題と物語のバランスを取る上で気をつけた点はありますか?

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
それこそが1番難しかった点です。政治的な会話が映画として耐えられるのかということは常に考えていました。それは例えば、環境問題についてあまり語り過ぎると、引いてしまう観客もいるかもしれませんよね。その辺は編集をしながらバランスを取っていきました。もちろん各キャラクターに破壊行動に至る動機があるので、それぞれにとって正当な行為なんだということをしっかり見せるように気をつけました。

映画『HOW TO BLOW UP』ダニエル・ゴールドハーバー監督インタビュー
撮影メイキング

シャミ:
環境問題に真剣に向き合い行動を起こす若者達の姿はとても印象に残りました。日本をはじめどの国でも社会問題に対してあまり興味のない若者もいると思います。監督は今後さまざまな社会問題と若者がどう向き合っていくべきだとお考えでしょうか?

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
僕は若い世代の方が必ずしも無関心というわけではないと思っています。オンラインのカルチャーがあることにより、社会問題に触れて関心を持つことに繋がっていると思います。ただ、確かに人によっては問題を気にかけない、あるいは気にかけていても何をしたら良いのかわからず、フラストレーションが溜まっている方が多いような気がします。さらに、SNSがあることによって、アクティビズムのライフサイクルが乱れていると思うんです。つまり、本当の意味で意義のある行為をしていないのですが、参加しているような感覚になっているという側面もある気がします。
また、先ほども言ったように、世代を問わず気候変動の危機に関して抽象的に捉えている方が多いのは、すぐそこに迫っているように実感していないからだと思います。そんな状況だと社会の変化のために何かを犠牲にしてくださいと説得することはとても難しいですよね。本来ならそれを守ってくれるはずのシステム体制や行政があるわけですが、それが完全に私達を失望させてしまっていて、じゃあどうしたら良いのか問われるところに私達はいるんです。そうすると革命しかないのではというのがこの映画が訴えていることです。

映画『HOW TO BLOW UP』アリエラ・ベアラー

シャミ:
とても考えさせられるテーマだと感じました。本作は今注目を浴びている映画会社のNEONと作られていますが、NEONという会社は監督の目線ではどんな点が特徴的だと思いますか?

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
彼らは本当に最高です!本物の映画を支援するために、献身的になってくれるスタジオです。映画的品位と、核となっているアイデアをしっかり見合う形で世界に発信しようとしてくれます。ブランドはすべての映画体験になってしまいがちな今、ちゃんとそれぞれの映画がブランドを作っているという意味でも僕はNEONが好きで、働いている方全員が大好きです。

シャミ:
とても良い会社なんですね!監督は以前にブラムハウス製作でも映画を撮っていらっしゃいますが、監督がどの映画会社と組むか決める際に重視している点は何かありますか?

映画『HOW TO BLOW UP』サッシャ・レイン/ジェイミー・ローソン

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
もしかしたら他の方とは違う見方かもしれませんが、やっぱり製作費がある程度の額になると、監督の仕事の1つとしてどこにいくらかけるのかという話になるわけです。そうなると出資者というのは映画作家にとってすごく鍵となるコラボレーターであり、作り手が出資者をより良く扱うことができればより良い作品を作ることができると思っています。僕はこれまでとても良いコラボレーションに支えられてきました。ブラムハウスも基本的に作りたい映画を作らせてくれましたし、今回の作品も最後にNEONが入ってくれ、最初のほうに出資してくださったチームも皆一丸となって、最高な形と品質でアイデアをどうやって世に送り出そうかと考えてくれました。なので、やっぱり僕にとって大事なのは、自分の作りたい映画を心から信じてくださる方、そして、コラボレーションをしたいと思ってくださる方だと思います。そうすることで1番良い映画ができると思います。

シャミ:
NEONもブラムハウスも監督にとってとても良いコラボレーション相手だったんですね。では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。

映画『HOW TO BLOW UP』ダニエル・ゴールドハーバー監督インタビュー
ダニエル・ゴールドハーバー監督

ダニエル・ゴールドハーバー監督:
いっぱいいますが、1本挙げるとしたら『イレイザーヘッド』です。映画としてのアート的な観点だけでなく、愛している作品です。『イレイザーヘッド』は5人で5年間かけて作った作品なのですが、仲間だけでああいう映画を作ることができるんだということを証明しています。これから集約的映画作りや共同体で映画を作るという未来が来るかもしれませんが、その素晴らしいモデルの1つだと思います。また、自分達で権利を所有されているので、収益が自分達のところに入ってくるというビジネスモデルとしても可能性を感じます。それから作品としても、アート的に革新的なものがありながら、映画としてしっかりとした形になっているという点にも可能性を感じました。そもそも僕はデヴィッド・リンチ作品全般が好きなんです。僕の作品は地に足の付いたようなテーマを扱っているので、あまりリンチ作品好きだということは反映されていないのですが、私達が生きる世界とどう向き合って接していくのかということを彼の作品で観ていると、本当に素晴らしいなと思います。

シャミ:
本日はありがとうございました!

2024年4月22日取材 TEXT by Shamy

映画『HOW TO BLOW UP』サッシャ・レイン/ルーカス・ゲイジ/マーカス・スクリブナー

『HOW TO BLOW UP』
2024年6月14日より全国順次公開
PG-12
監督・共同脚本:ダニエル・ゴールドハーバー
出演:アリエラ・ベアラー/サッシャ・レイン/クリスティン・フロセス/ルーカス・ゲイジ/フォレスト・グッドラック/ジェイミー・ローソン/マーカス・スクリブナー/ジェイク・ウェアリー
配給:SUNDAE

石油精製所の有害物質汚染の影響により母親を亡くしたソチは、大学で環境 NGO に入っているが、進展の見られない状況に不満を募らせていた。そこで彼女は、同級生で環境ドキュメンタリーの制作に関わるショーンと共に、過激な行動計画を企て、作戦を実行できる仲間を集めるが…。

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REVIEW

  1. 映画『愚か者の身分』北村匠海/林裕太/綾野剛
  2. 映画『次元を超える』窪塚洋介/松田龍平
  3. 映画『ヒポクラテスの盲点』
  4. 映画『トロン:アレス』ジャレッド・レト
  5. 映画『層間騒音』イ・ソンビン

PRESENT

  1. 映画『モンテ・クリスト伯』ピエール・ニネ
  2. AXA生命保険お金のセミナー20251106ファイナンシャルプランナーversion
  3. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル
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